第316話

「へ、陛下が!国王陛下が手紙を残し、何処かへお隠れになられました!!」


国王直筆の手紙を持った大臣のひとりが王族へ、その王族が護衛の騎士達へ事態を伝え、その騎士達のひとりが図書館へとやってきた。

ハァハァと息を切らすも、片膝をついて礼儀正しく。


「どういうことだ」と義父。

「国王陛下の机の上にありました本に『私を探し当てることが出来るか?まずはどこかの会議室のカーテンの裏』と書かれたメモがありハァハァ」

「それは本当に王の書いたものなのか??」

「印が・・・国王の印が押されておりました」


国王以外が持つことが許されぬ特別な印鑑。王家の印章。

重要な決め事などで使用される、王家に伝わる印である。


国同士の同盟や、協定を結ぶ際などに使用されるとんでもなく重要なもの。

先程の本の間に挟まっていたメモの裏を見ると、しっかりとその印が押されていた。

当然本来このような使用の仕方をするものではない。


「そ、それで今どうなっておるのだ?」

「どちらの会議室なのかは書かれておらず捜索は難航し、ようやく発見したところ『王室の机の引き出し』と書かれており・・・」

「また王室に戻らされたのか・・・一体何が目的なのだ」

「そこで見つけた手紙に『ドモンさんの本』と書かれておりまして、今こちらにやってきた次第です。他の者達もすぐに駆けつけるかとハァハァ」


ちょうど今皆が図書館にいるということをこの騎士が知っていたため、とにかく一足先に知らせようと全速力で走ってきたのだ。実際に伝えはしなかったが、イタズラだと思われて捨てられては困るという理由もあった。


「次は第三食料庫のドアの上だと書かれておる。こちらではなくそこへ向かえと皆に伝えるのだ」

「ハッ!!」


まだ息が整っていない騎士が立ち上がり、また走り去っていった。


「一体何があったのですか?」とアーサー。

「わからぬ・・・しかし『ドモンさん』と書かれているのが引っかかる・・・」と何か違和感を覚える義父。

「なんか言葉の雰囲気は昨日のトッポさんみたいね。ドモンみたいに周りを巻き込んでいるのに本人は飄々とした感じで」

「あ、確かにそうですねウフフ」


勘の鋭いナナとサン。


「何だそのトッポさんというのは」と義父。

「あ、そうか。ドモンが勝手にあだ名付けたって言ってたっけ。なんか惚けた感じの若い男の人が、ドモンとふたりで馬車に乗ってて、昨日のあの大福ってやつを食べながらおしゃべりしてたのよ」

「・・・・」

「その人が『私はトッポです』って自己紹介してきたんだけど、あとから聞いたらドモンが付けたあだ名だったらしいの」

「こ、国王陛下なのでは・・・?」と小声で義父に話しかけた勇者。


ナナの言葉に勇者が義父の顔を覗く。

ナナとサンは不思議顔。何も知らないエイはキョトンとしている。


「と、とにかく手紙を追うぞ」


まさかの事態を想定しながら、早足で義父は歩き出した。

大慌てで皆がついていく。




「ど、どうしてわかったのですか?一体いつから?!」とトッポ。

「いつからって、アイスクリーム大福食べた時からだよ」と答えたドモン。

「一番初めじゃないですか!!」


飛び跳ねるほど驚くトッポ。


「まず着ていた服が高級な布で出来ているのに、汚れても気にもしなかっただろ?それでかなり偉い重要人物だと見抜いた」

「うわぁ・・・」心を読まれたような気分になり、トッポは少し嫌な顔。


「なので俺はわざとあだ名を付けたんだ。少し間の抜けたトッポってあだ名をな。そこで否定もしないで受け入れただろ?ということは、自分の素性を隠したいと思ってるということだ」

「・・・・」

「王宮の偉い人間で素性を隠したい奴って限られているだろ」

「た、確かに・・・」


ドモンの手の上で転がされていたことを知り、愕然とするトッポ。


「あとは答え合わせだよ。発泡する果実酒は王家秘蔵のものだと聞いていたし、新型馬車にも乗ったことがあると言ってただろ?限られた一部の人しか乗っていない物だというのに」

「はい・・・」

「そもそも城を出るのに隠れて出なきゃいけないなんて人物は、王様くらいしか思いつかないんだよ。他の王族は出ていけるんだから。街で酒飲んだこともないと言うし、ところどころ偉そうな態度だし、御者はおどおどしてるしで、もうバレバレだったぞ」

「く・・恥ずかしいです」「うぅ・・・」


トッポは演技していたことが全てバレていたということを知り、穴に入って埋めて欲しいくらい恥ずかしい。

御者は申し訳ない気持ちでいっぱい。


「それにしても・・・それを知っても、なぜ態度が変わらなかったのですか?」トッポの素朴な疑問。

「なんで変える必要があるんだよ。俺の方が歳上なのに。歳上を敬えバカヤロー」義父に無礼な態度を取っていることを棚に上げるドモン。

とは言いつつも、それもドモンなりの気遣いであった事は明白。いわゆる気づかないふりをする優しさというもの。


「アハハ・・・あはははは!!」

「何だよ気持ち悪いな」

「全てわかっていて・・・それでも僕を連れ出したのは・・・」

「楽しい事を探していたんだろ?こっそり俺のところへ来るくらいだからな。だから連れてきたんだ」


全てがドモンの思う通り。

トッポは驚きつつも、ドモンに対して畏敬の念を抱かずにはいられない。


「あなたに会えて良かった!」

「光栄です。アンゴルモア国王陛下」

「や、やめてくださいドモンさん!今まで通りトッポでいいですよぅ!」

「フフフ」


そんなふたりの会話をポカンとしながら御者は見ていた。

自分が歴史の証人のひとりになるとは露も知らずに。


「俺の世界では、アンゴルモアって世界を滅ぼす恐怖の大王と言われていたんだよ。大昔の預言者の話なんだけど」

「そんな事しませんよ!僕を何だと思っているのですかもう!フフフ」

「でもまあ・・・近いものにはなるんじゃないか?」

「ならないですってば!!」


ドモンはタバコに火をつけ、フゥーともったいぶったように煙を吐いた。


「今まであった街や常識をぶっ壊して作り直すんだから、似たようなもんじゃないか」

「・・・はい・・・・そうですね!はい!!!!」


トッポは力強く拳を握りしめ、馬車の中の窓から街を眺める。

その目はやる気に満ち溢れ、爛々と輝いていた。




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