第79話

「よう!その後の調子はどうだい?」

「おうドモンさん、試作の馬車はあらかた完成してるよ。あとは煙突付けて暖房を付けるだけだ。ドモンさんのは冷房も付けて、その冷気を利用して冷蔵庫も付けるつもりだよ」


「豪華な馬車になったもんだな。あとでこいつらと一緒に試乗させてもらえるか?」

「ああもちろんいいけど・・・この子達はどこの子供達なんだ?」


大工の元へと着いたドモンが馬車の前でそんな会話をし、試乗の許可を得ると貴族の子供らが「やったぁ!」と声を出して喜びを爆発させていた。

新型馬車の話は聞いていたので、いつ乗れるのかと楽しみにしていたのだ。


「乗るのは俺達とこいつら4人だ。こいつらは貴族の子だよ」

「ああ、貴族の子か・・・はぁ?!なんだってぇ?!」


驚いたのは大工だけではない。

後ろにいたドモンに連れてこられた子供達も「嘘?!」と声を上げていた。



「まあ成り行きで俺達の店の方に泊まることになったから、ついでに街を見学させてやりたくてさ」

「なるほどな。いやそれにしても驚いた」

「驚いたって言っても、もう慣れただろいい加減。カールだってちょこちょこと来てるだろうし」

「言われてみればそれもそうだな。ハハハ」


大工の緊張は一気に解けた。

そしてふと視線を後ろの子供達へと向ける。


「あちらさんも貴族様の?」

「いやこいつらはお前の弟子だ」

「なんだ弟子か・・・な、な、なんだってぇ?!」

「えぇ?!」


今度は大工だけじゃなくナナや子供達も驚いた。

ドモンは当然だといった顔をしながらタバコに火をつける。


「で、弟子ってドモンさん、そんな急に言われてもよ」

「前に人手が必要って言ってただろ?見習いたくさん育てるって」

「そりゃそうだけど・・・うーむ」


ドモン以外の全員が大困惑。

ドモンは他人事なので呑気に煙をプカプカ吹いていた。


「いやぁどうしたらいいもんか・・・」

「見習いの内は一時間銅貨50枚くらいの給料出してやってさ、使えるようになったら一時間銀貨一枚くらい出してやってよ親方」

「親方って・・・やめてくれよドモンさん」


そう言いつつも満更でもない様子の大工。


「お前らそれでどうだ?見習いの内は一時間銅貨50枚、半日頑張ったら銅貨5~600枚、つまり銀貨5~6枚になる。真面目にやって一人前と認められれば半日で銀貨10枚以上にもなるぞ?」

「!!!!!」


それは子供達にとって破格の条件であった。

丸一日物乞いをして銅貨100枚も稼げれば良い方で、何も収穫がない日もあるくらいだった。


「給金は日払いで渡すから、さっき貸した金も一時間頑張ればすぐに返せるぞ?どうだ?頑張る気はあるか?」

「やります!やらせてください!お願いします!!」


ドモンの言葉に、最初に金を貸した子供が慌てて返事をした。

こんな好条件で断る理由がないからだ。


「僕もやります!お願いします!」

「お願いするのはこっちの親方にだよ」とドモンが大工の方を見る。


「親方お願いします!仕事をください!」

「親方僕もお願いします!」

「お、お願いします!!」


子供達全員が大工に頭を下げた。


「いやぁ頑張るってならこっちも人手が欲しかったからいいんだけどよ・・・日払いってドモンさん、こんな人数に俺は払えないよ」

「じゃあカールにこの馬車代払わせようぜ。金貨100枚くらいで」

「何言ってんだ!金貨20枚でも多いくらいだというのに」

「いいから任せとけって。いざとなったらこいつら利用するから大丈夫だ」


大工と会話しながらドモンが貴族の子供達の方を見る。

うんざりした顔を見せる子供ら。


「わかったわよ・・・やればいいんでしょやれば!」

「俺らがドモンになんとかしてくれって頼んじゃったしな」

「それがこの子達のためになるなら私も協力するわ」

「僕もお父さんに訳を話してお願いしてみるよ」


それを聞きニッコリ笑ったドモンが「こいつらが育てば街のためにもなるんだから、お前らはそれでいいんだよ」と、また煙を吐いた。



「何人かは鍛冶屋の方に回そうか?あっちも人手がいるだろ?」

「まあそうだな。鍛冶屋の方にも聞いてみないとならんな。じゃあ今からファルを呼びに行くついでに、鍛冶屋も呼んでくるよ」

「頼んだ。金のことはなんとかするからさ親方」

「ああそっちは任せたよ・・・しかしまあ・・・俺も親方かぁ」

「ワハハ」


ポリポリと頭を掻きながら出ていった大工を見送る一同。

その間、ドモンが自分の不真面目さを棚に上げつつ「みんな真面目に頑張れよ」などと子供達に声をかけていく。



「なるほどこういうことだったのね」とナナが納得した顔を見せる。

「よくこんな事すぐ思いつくよなぁドモンは」と男の子も感心していた。

「この人、私がなんとかしてってお願いして3秒くらいで閃いていたわよ。感心を通り越して呆れるわ」と女の子が腕を組む。


機転が利くというのは父達に散々聞かされていたが、こうしていざ目の前で見せつけられると、凄いということよりも空恐ろしく感じてしまう子供達。

そんな事はしないだろうと思いつつも、万が一ドモンを敵に回してしまった時には、とんでもない奇抜な考えで全てを奪い去っていく気がした。

奇しくもそれは親達と全く同じ考えであった。



「最初にお金を貸したのも、この子達が断れなくするためなの?」

「・・・さあどうだろな」


ナナの言葉に恍けるドモン。

今度はお金を借りた子供達がゾッとした。

あの時点から、すでに自分達の運命は決まっていた事に気がついたからだ。



全てはドモンが思うままに。



「なんか詐欺師か悪魔に騙されてるような気分だわ」と女の子。

「でもその悪魔は良い悪魔なのよ?」とナナがクスクスと笑う。

「素直に騙されておけばこっちもいい思いができるってことか」と男の子も笑った。


「酷い言い草だなお前ら・・・こんな天使みたいな男をつかまえて」と文句を言うドモン。

「そんな傷だらけの天使なんていないわよ」とナナがヤレヤレのポーズ。


「俺コンビーフは好きだけど、生のトマトは苦手なんだよ」とぶつぶつ言いながら、ヘッドフォンをつける真似をするドモンを不思議そうな顔で見る一同。




こうして集まった子供達がモデルとなり、その後この街に職業訓練所が出来ることになった。

健康保険や給料の出る職業訓練所などの福祉の充実もあり、爆発的に街の人口が膨れ上がっていくのは、まだ少し先の話である。




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