第302話
「おお、ナナ見てごらん。大きな建物」
「そうね。あとで散策しようね」
「見て!あれケーキとか甘い物売ってるのかな?」
「大きな窓!キレイな服売ってる!」
田舎者感丸出しで、馬車の窓から外を見るドモンとナナ。
ヨーロッパの何処かの国の首都のような街並みに、ただただ感動していた。
そんな中でも義父の説教はまだまだ続いている。
「全く貴様という奴はどれだけ私に恥をかかせれば・・・」
「あんなに怒鳴るから。勝手に恥かいたのはそっちだろ」
「ハァ・・・」
見慣れているはずのやり取りだけども、それでもやはり冷や汗が止まらない同乗している部隊長や騎士。
大体王族に対して、こんな怒らせるような発言をする者なんかいない。
恐らく戦争となった敵国の者でも、ドモンよりはずっと礼儀が正しいだろう。
そもそもカールもそうだけれども、王族が迎えに来なければならないのがおかしな話。
「このまま王宮に向かい、挨拶を済ませるか?」
「え?嫌だよ。もう降りる降りる」
「どうせ貴様は街でまた問題を・・・」「あ、そうだ!」
義父の話を遮り、手をポンと鳴らしたドモン。
「やっぱ行く」
「は?」「え?」義父とナナの素っ頓狂な声。
「挨拶とかはまた後でしっかりするつもりなんだけど、王宮に色々な米や豆が保存されているよな?」
「当然だ」
「それでひとつ作りたいものがあるんだ」
「王に献上するためのものか?」
「いや、まあそれもいいんだけど、今回はホークにだ。俺にはそれしか交渉の方法が思いつかない」
「ふむ」
ドモンが何かの料理をする。それに対しては、義父も文句はない。
領地受け渡しや学校建設に関する報告や挨拶も大切だが、元々は『王にドモンの料理を食べさせてやりたい』というのがあった。
「あと大工も呼んでおいてくれ」
「大工だと??」
「調理するのに必要な道具があるんだ。恐らくこの世界にはないだろうから、イチから作らなければならないんだ」
「うむ、すぐに寄越すように伝えよう」
何を作るのかは分からないが、調理に関してはドモンの言うことを聞いておけば問題ない。
そこだけは義父も絶大な信頼を置いている。
「ま、楽しみにしててよ。少しくらいジジイにも食わせてやるからさ」
ドモンはそう言って王宮までの道中を、ナナと一緒に窓の外を見ながら楽しんでいた。
一方その頃、ドモン達の後を馬車で追うサンとエイ。
御者台への窓越しにエイが話しかける。
「ねえ、サンさん」
「サンでいいですよ」
「じゃあサン、ドモン様達の馬車はどこに向かっているのかしら?」
「恐らくですけど・・・王宮かと」
「だよねぇやっぱり・・・私も中へ入ることになるっていうの?」
「そうかと思われます」
サンの言葉に愕然とするエイ。
父は何度か招かれたことはあるが、エイは当然初めて。
それどころか、一般の庶民はまず王宮の中に入ることはない。
元の世界で言うならば、現在、皇居に真っ直ぐ向かっている途中のようなもの。
数日前まで色街で酒を飲み、男達に抱かれながらフラフラと生きていたというのに、その変化に全く頭がついていけない。
「私、こんな服で・・・」紫色の、ドレスとスーツのちょうど間のスケベな服。まさに夜の蝶。
「大丈夫だとは思いますが、ご主人様にご相談いたしますか?」
「お願いしようかしら?」
その結果「お願いだから下着は穿かせて!」と叫びながら、スケベ過ぎるミニチャイナドレスを着て王宮で過ごすこととなった。
ついに王宮に入城したドモン一行。
城はやはりテレビでよく見たようなヨーロッパ風の城。
ただし想定していたよりも数倍は大きく、門から城までの距離もとんでもない距離である。
カールの屋敷どころの話ではない。あの屋敷も学校のような大きさだったが。
大きめのウオンを4つほど真四角になるようにくっつけ、そのど真ん中に、絵に描いたような美しい巨大宮殿がそびえ立っている。
それほどの大きさだというのに、門から城までの庭は、更にその十倍以上の大きさ。
「あれって何部屋あるの?」とまだ遠い城を窓から見ながら聞くドモン。
「全くわからぬ」と義父。
「常に増築しておりますからな」と部隊長。
「なんだか・・・迷子になりそうね」とナナ。
「迷いこそしないですが、同じ建物内だというのに、仲間同士で数ヶ月顔を合わせなかったなんてことはよくあります」と騎士が答えた。
「そりゃ浮気してもなかなかバレそうにないな」
「あんたはどこに居てもすぐに見つけてやるわよ!絶対!」
ハァ・・と大きく溜め息をついた義父だったが、あちらこちらに夫人達を分けて住まわせているので、ドモンに対して強くは言えない。気分によって今日はあちらへ明日はこちらへ。
馬車はひとまずドモンの指示で食料庫へ。
これもまたとんでもない大きさ。
「欲しい米は多分見つかると思うんだけど、小豆はあるのかなぁ?」
米は全ての種類の米を少しずつ持ってきてもらうことにし、ドモンとナナは案内してくれた騎士と小豆探しへ。
その前にドモンはサンに「エイにこの服着せといて。確か横の切れ目から見えないように、下着は脱ぐやつだと思う」と、トンキで購入したパーティー用ミニチャイナドレスを手渡した。
結果として言えば、下着をつけないというのはドモンの勘違いであった。
「ねえ、小豆ってなんなの?」ナナは聞いたことがなかった。
「あれ?赤っぽい小さな豆なんだけど、こっちでは食べないのかな?そりゃまずいな」とドモンは渋い顔。
「あの宜しいでしょうか?食用ではありませんが、そのような特徴の豆ならございますけれども」倉庫番のひとりが手を挙げた。
食料庫の奥深くで麻袋にも入れずに、木箱の中に大量に詰められたそれらしき豆。
「おお!」
「とても渋く苦い豆ですので、主に枕や楽器の中に入れたりするのです」
改めて『食用ではない』ということを強調する倉庫番。
下手な物を王族に食べさせたとなれば、何らかの処分が課せられてしまう可能性があるからだ。
「いやぁ立派で美味そうな小豆だ!こりゃホークや王族達も喜ぶぞ」
「ねぇねぇ!ドモンってば!食べられないみたいよこれ」
「それはお前らが知らないだけだ。大豆の時と同じように。食べたらひっくり返るぜ?」
ドモンとナナの会話を聞いた倉庫番の顔は真っ青。
麻袋いっぱいに豆を詰めてもらい、ドモンが担ぎ上げ・・・倉庫番に持たせた。ドモンには重かった。
「ドモンよ、大工らを呼び寄せたぞ」と義父。
「へい!この度は直々のご指名真に・・・」カッチコチの大工達。
「よいよい。それよりも此奴の用を聞き入って欲しいのだ」
「へ、へい!出来ることなら何でも!」「お任せくだせい!!」
宮殿に出入りすることも出来る、大工の中でもかなり位の高い大工らしいが、こんなに面と向かって王族と話すことは滅多にない。
ドモンが見上げるほどの屈強な大男達が、ペコペコと頭を垂れている。
「みんなすまないね。給金はこのジジイにたっぷりはずんで貰ってくれ」
「!!!!」
ドモンの言葉遣いで誰かが引きつるのはいつものこと。
ナナとサンは微笑み、どんなに訴えても下着を穿くことが許されなかったエイは遠くを見ている。
「それで何をすればいいんで?」
「ああ、少し大変なんだけど・・・」
ドモンは大工に身振り手振りで説明を始めた。
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