第12話
その後、十数人の新たにやってきた客にもからあげや酒を振る舞い、宴もたけなわとなる。
ワイワイガヤガヤと各々が語り合い、ドモンもナナ一家に連れられ、それぞれの客に挨拶をして回った。
「よおヨハン、なんだか噂は聞いたぞ」と先程やってきた客。
「おお、こいつがうちのドモンだ。よろしく頼むぞ」と、ドモンの背中をパンパンと叩きながら紹介するヨハン。
「奥さん聞いたわよ!ナスカちゃんがいい人連れてきたって。どの人なの?あの子?」
「ちょっとちょっとぉ!エリー、私達に隠し事はなしよ!」とご近所さんらしき奥様方がエリーを囲む。
ヨハンに背中をパンパンされながら挨拶していたドモンはエリーに袖を引っ張られ、奥様方の輪の中へ。
「この人が噂の彼よ。異世界からやってきたの。色々凄いんだから!」とエリーが自慢した。
「えぇ?!」
「ちょっとぉ!えらく渋い人連れてきたわね!アハハ」
「あらやだ!いい男じゃないの!旦那いなかったら私がアプローチしてたわ」
「私とちょうど釣り合い取れるくらいの年齢じゃない?ナスカより私なんかどう?」
「ダメよぉ!うちの娘の大切な人なんだから。まあヨハンがいなかったら私も狙っちゃうけどね!彼ったらずっと私の胸見てたのよぉ!私ってば罪な女ねぇ」とエリーがドモンの腕に絡みついて「ねー?」とドモンの顔を覗き込みウインクする。
畳み掛けるような言葉の連続に圧倒されるドモン。
釣り合いに関しては、正直一回り近くドモンの方が年上なので何とも言えない。
奥様方はずっとワーワーキャーキャーと話が尽きずにいた。
そんな様子を見てたナナが少しだけエリーにヤキモチを焼きながら、「ドモンこっち!」とドモンの腕を引っ張っていく。
「彼がドモンよ!異世界から来たのよ」と、最初の異世界人ということはとりあえず伏せるなんてことをすっかり忘れたナナが、知り合いの冒険者達にドモンの紹介をした。
「話は聞いたよ、大変だったな!」
「異世界の話は興味がある。機会があったら話を聞かせてくれないか?もちろんその時は酒でも奢らせてもらうよ」
「くぅ~あんたがナスカを・・・大事にしてやってくれよなっ!」
「私のことはナナって呼んで。ドモンがそう決めたの。ね?ドモン」
約一名を除いて冒険者らしい、何とも清々しい態度の青年達。
「いつ式をあげるんだい?」と普通に聞いてきた青年に「やだもうそんな!そりゃまあそうなんだけれども・・・まだドモンだって来たばかりだし・・・ねぇ?ドモン」と、ナナはモジモジしながらドモンにしがみつき甘える。
約一名の青年が涙を拭いながら「エリーさん、もう一杯エール頂戴!」とやけ酒の準備に取り掛かっていた。
ナナ一家にあっという間に外堀を埋められ、完全に結婚する流れとなったドモン。
そもそもナナの両親の受け入れの早さにドモンは驚いていた。
「跡継ぎができたと思ったら俺より年上だからなっ!ガッハッハ!」とヨハンの笑い声が店内に響いた。
確かにそうなると、跡継ぎの方が先に死ぬ可能性が高いとドモンは苦笑した。
「ナスカ・・・じゃなかった、ナナが跡継ぎをすぐ産めばいいのよぉ!」と話を聞いていたエリーがヨハンに答えた。
「ナナって何?」と奥様方。
「うちのドモンさんがナナの方が呼びやすいって言うから愛称が変わっちゃったのよ。ナナがそれを気に入っちゃって!」
「あら、そうなのねナナ」
「おめでとうナナ」
突然話を振られてエヘヘと照れるナナ。
それにしても「おめでとう」は流石に早いとドモンは思ったのだが、ナナとエリーは普通に「ありがとう」と返している。
さっきの約一名は、向こうで涙する4名のグループの方に合流した。
そろそろ閉店の時間というところで、ファルがドモンの所へと相談にやってきた。
「ワシの馬車のことなんだが、いつ頃なら都合がいいんだい?」
「明日はダメよ。ギルドに行ってから私が街を案内するから」とナナが横から口を出す。
「では明後日くらいか?」
「恐らくそんなところだな」
「とにかくナナの所にはいるんだろう?何度か顔を出してみるよ。都合の良い時でいい」とファルが答えて帰っていった。
「ドモンさん、短い間だったけど色々ありがとう」と一緒に馬車に乗ってきた若いカップルの男の子が挨拶をした。
「しばらくはこの街にいる予定なんでしょう?」と女の子。
「ああ多分な」とドモンが答えると「多分じゃなくて絶対いると思うわよ。旅に出てなければ」とナナがまたドモンの代わりに答える。
「じゃあきっとまた会えますね」と握手をして去っていった。
「そういや名前聞いてなかったわよね??」と手を振り見送りながら話すナナ。
「うんまあな」と答えたドモンに違和感を覚える。
「その口ぶりだとわざと聞かなかったの?私は馬車じゃなかったし、あまり話す機会がなかったから聞きそびれちゃったんだけど」
「だって覚えられねーんだもん」とドモンが悪びれもせずに答えた。
「異世界の名前って覚えられねーんだよ、歳のせいかもしれねぇけど。異世界物の小説読んでいてもいつも『あれ?こいつどこの誰だっけ?』って。たまに主人公の名前すら途中で忘れるからな」
「それで私のこともナナにしたの?」
「言いやすいし覚えやすいから」と言いながらタバコに火をつけたドモンに、ナナが灰皿をスッと差し出す。
「ただでさえ名前覚えるの苦手だから、昔から勝手にあだ名を付けて勝手にそう呼ぶことが多い」と言いながらテーブル席の椅子に座って煙を吐くと「ホント、勝手な人ね」と笑いながらドモンの横にナナが座った。
「あいつは『眠り岩石』な」と最初にカウンターで寝ていたごつい男、今は酔いつぶれて床で寝てエリーに叩き起こされてる男の方を振り向く。
「ぷ・・・くく・・・悪いわよ!」とナナが両手で口を抑えて笑いをこらえる。が、そこで「あっ!」とナナが気がつく。
「そう言えば?!私も最初『おっぱい』って言われたんだった!あれもやっぱり?」
「第一印象がおっぱいとしか思えなかったんだよ」と笑うドモン。
「もうお前をおっぱいとは言わねーよ」と言いながら、なんとなく眠り岩石を叩き起こしたエリーの方にドモンの視線が行った。
「ちょ、ちょっと!私のお母さんに変なあだ名付けないでよ!!それなら私でいい!!」とナナが叫んでドモンに抱きついた。ドモンに当たる柔らかな感触。
「こらナスカ!じゃなかったナナ!そういうのは部屋に戻ってからにしろ。とりあえず店じまいの準備だ」と店内をテキパキと片付けながらヨハンが叫ぶ。
タバコを消して立ち上がったドモンも「洗い物は俺がやりますよ」と厨房へと向かっていった。
「はーい」と言いながら食器を片付けてテーブルを拭くナナ。
店を閉めて明かりを消し、ナナ達とドモンは階段を登っていった。
リビングと思われるスペースの長椅子に座らせられたドモン。
20畳くらいはあるだろうか?ドモンの感覚だとかなり広く感じた。ランプの明かりがいい雰囲気であった。
当たり前のようにナナが横にくっついて座る。
テーブルを挟み、向かい合って座るヨハンとエリー。
こうしてあらたまって向かい合うと、また最初の時のような気まずい雰囲気となってしまいそうになる。
「ドモンさん」とヨハンがまず第一声。
「はい。あ、ドモンでいいですよ」
「じゃあドモン、なんかもうはっきり言って歳も近いというかややこしい関係だし、俺もヨハンと呼んでくれ。丁寧な言葉使いもいらない」と笑いながら首を振った。
「さすがにそれは・・・」と畏まるものの「お父さんと言われても、こっちの方が年下だし気まずい。なら友達のように接してくれるのが一番嬉しいんだ」とヨハンが言うと横でエリーも頷く。
「わかったよヨハン」と返事をすると「ありがとうなドモン」と言い、髭面でニカッと笑った。ハゲ頭も輝きを増した気がした。
続いてエリーも口を開く。
「あんた達はいつ式を挙げるの?」
にっこり微笑むエリー。まさかの直球勝負にドモンはずっこけた。
一般的に「どのようなお仕事を?」とか「真剣に付き合っているの?」など、そういった話になると思っていたのだ。
それにこの年齢差なのだからもっと言うことがあるだろうと、ドモンの方が心配するほど。
ナナが「ドモンどうする?」と両手の人差し指を胸の前でちょんちょんしながら、モジモジしている。
そんなやり取りに困惑しているドモンへ、ヨハンがはっきりと言った。
「もう最初に言っとくよ。俺らも最初はどうかと思ったよ、流石にな。でももうナスカと同じくらい俺らもあんたのことを気に入ってんだ」
「本当よ。あとヨハン、ナスカじゃなくてナナよ」とエリーが相槌を打つ。
「酒飲んで話し合って飯食ってとやってる時に・・・ピンときたんだ俺は。こいつはもう俺の家族だって」
「私もよ。きっとナナもそうだったんじゃないの?」
そうヨハンとエリーが真剣な目でこちらを見つめた。
「うんそうよ・・・どうしてかわからないけど、ずっと前から探していたものが見つかったような気持ちになったのよ」
「・・・・・」
「ドモンは突然こっちの世界に来て不安だったと思うけど・・・何故か私は安心したの。ドモンに出会えて」
「・・・・・」
「あなたに逢うために私は生まれて・・・あなたに逢うために私は冒険者となって・・・そしてずっと旅をしていたんじゃないかなとも思った」
「・・・・・」
ドモンは黙ってナナの話を聞いていた。
「そしてね、そして、あのね、やっと出逢えたと思ったんだ」
そう言うなりナナは我慢してた感情が溢れ出すようにポロポロと泣き出した。以前もそうだったように、ナナは感情をうまく伝えられない時につい泣いてしまうようだ。
エリーが立ち上がってナナを抱き寄せ頭を撫でる。そんなエリーも涙を浮かべていた。
「・・・俺らも同じ気持ちだ」
ヨハンが泣いているナナの方を見ながらそう言った。
だがドモンの覚悟はとっくにもう決まっている。
「一生大事にするよ」
ドモンがそう言った瞬間「ワァァァ!!」とナナがエリーにしがみつきながら、大声で泣きだした。
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