第565話
「俺達ドモンさんに用があって・・・」「やって来たのですけれど・・・なにか取り込み中みたいですね」
「ま、見ての通りよ。こんな惨状を引き起こして、今車の中で、奥さんにこっぴどく怒られている最中」
「ナナさんが怒ると、しばらく治まりがつかないからなぁ」「では言伝だけお願いします。親方が用があるとのことなんで、大工のところに寄って欲しいと」
「ええ、わかったわ。あなた達名前は?」
「・・・・」「以前仕事と銀貨を貰った兄弟だと言ってくれたら通じますので」
「ふぅん」
アイに頭を下げ、街へと戻っていった少年達。
アイがくるっと振り向いて、自動車のドアの方を向くと、中からまだナナの怒鳴り声が聞こえていた。
「ドモンのせいなんだからね!!あんたが責任持って、掃除と洗濯と私達の体を洗うのよ!!わかった?!」「そうですわ!」
「お前らが勝手に食うから・・・それにしてもなんて臭いだよ・・・」
「うっさいバカ!仕方ないじゃないのよ!あ・・うぅ大声を出したらまた」
「ナナ揺らさないで・・・刺激でワタクシまで・・・あぁ」「ちょっと待って!ちょっと待って!私まだしてるのに」
「二段重ねでトイレしてるとは思わなかったよ」
便座の上に裸のナナが脚を少し開いて座り、その上に同じ向きで重なるようにナナの太ももに座るシンシア。
余程切羽詰まっていたのか、椅子取りゲームのようにトイレを奪い合った結果こうなってしまった。
大笑いしたいところだけども、実はドモンも一度どうしても間に合わず、あっちの世界でケーコの上に座ってしたことがあり、正直笑えぬ心境。
無理やりドモンがドアを開けて「どいてくれ!」と頼んだがどいてくれず、同じようなことになった。
食事中の方には大変申し訳無いとしか言いようがない話。
車内トイレの床、壁、シンシアの服や下着、そしてふたりの体が汚れてしまい、ドモンがすべての責任を取らされた。
「サンも一緒に飲みたかったです・・・」
「何を言ってるのよサン!駄目よ!見たでしょ?今のを」
「だって」
狭い車内のシャワーの場から聞こえてくる三人の文句や笑い声にサンは嫉妬し、馬鹿な事を言い出した。
アイは驚き、危なく少年達から預かった言伝を忘れてしまうところ。
体を綺麗にしつつ、少しだけツヤツヤした顔で機嫌よく出てきたナナとシンシアに怒るサン。
それを横目にアイはドモンの体をタオルで拭きながら、先程やってきた二人組の少年の話を始めた。
「ゴタゴタしてて言いそびれてたけど、あなたに用があるって男の子がふたり来てたわよ。もう帰ってしまったけど」
「あら?誰だろ?」
「それが名前も言わないのよ。でも仕事と銀貨を貰った兄弟だって伝えてくれって。大工さんのとこに寄って欲しいんですってよ」
「お、おう、そうだったか・・・で?」
「で?ってなによ?それだけよ?」
「あれ?おかしいな・・・勘違いだったかな?」
ドモンの予想が当たりならば、そのふたりはアイの息子達のはず。
しかし向こうもこちらも特に何も思うこともなく、そして何もなかった様子。
首を傾げるドモンの元へサンがやってきた。
代わりに今度はアイがナナとシンシアへお説教。いつまでも服を着ないで、車内をウロウロしていたからだ。
「御主人様、少し宜しいでしょうか?」とサンに誘われドモンは外へ。
「どうかしたか?あいつらが汚したところは大体綺麗になったと思うんだけど・・・あ、もしかしてあいつら、まだスケベなことを期待して、服を着ないとか言い出してるんじゃないだろうな?」
「違うのです!まぁそれはそうなんですけれども・・・そうではなくて、アイさんとのお話が耳に入りまして、少し気になることがありましたのでお話しても宜しいですか?」
「うん?どうかした?」
サンの話を聞きながら、ドモンはタバコに火をつける。
外ではあちこちで水魔法が放たれ、なんとか異臭の原因を流そうと必死になっている人々の姿が見えた。
「私が御主人様によって眠らされ、両親に会ったお話を覚えておりますでしょうか?」
「う、うん・・・そうみたいだな・・・ごめん」
「いいのです。私は少なくとも感謝しておりますから!で、その時のことなのですけども、私、夢で再会するまで、両親の顔を忘れていたんです。子供だった頃の記憶がかなり曖昧なこともありまして」
「夢の中で会って、はっきりと思い出したって言ってたな、あの時」
ふむふむと頷くドモン。
確かに小学生の時のクラスメイトの顔が、はっきりと思い出せないこともある。
卒業アルバムか何かで確認し、ようやく顔を思い出す程度。
それと子供の頃に、毎週のように遊びに行っていた親戚家族の顔が、一家丸ごと誰ひとり思い出せなかった。
手元に写真がなかったからだ。
「だから、お互いに気が付かなかったのではないでしょうか?アイさんはアイさんで、小さな頃の子供達の思い出しかありませんし・・・」
「アイさんにとっての子供達は、4歳と5歳だかで止まったまま、毎日ずっと側に居たみたいだしなぁ。大きくなってたら、逆に気が付きにくい可能性はあるな」
「はい・・・」
写真がまだないこの世界、せめて肖像画などがあればいいけれど、そんな物を残せるのは王族や貴族と一握りの大金持ちだけ。
そうなれば記憶に頼るしかないが、アイはドモンが説明した通り、子供達が子供だった頃の記憶しかなく、子供達は子供達で親の記憶よりも盗賊の中の育ての親や、それまで世話になった人の記憶の方が強く残っていたのだ。つまりは親方やドモンのような者達のことだ。
せめてもう少し大人になってから生き別れたのならば、どちらかが気がついていたかもしれないが・・・
「なぁあの子、随分可愛かったなぁ。あの人がドモンさんの第三夫人となるお姫様か?」
「やめてよもう兄さん!誰かに聞かれでもしたらどうするつもりなの。それにお姫様はナナさんより年上って聞いたよ?あんなに小さな子供じゃないよ」
「じゃあお姫様のお付きの子か。それなら少し生意気な態度だったのも納得だなハハハ。実はホビット族の大人だった・・・なんてな」
「兄さんってば!くだらないことを言ってないで、急いで鍛冶屋の親方を呼んできてよ。もうすぐドモンさん来るよって」
「わかってるわかってるって」
おしゃべりを済ませ、兄弟の兄の方は鍛冶屋の親方を呼びに行った。
兄弟はアイが母親だということに気がつくどころか、実は自分達がホビットだということすら自覚していなかった。
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