第566話

「なるほどなぁ。そりゃオーガの時のような感動の再会ってわけには行かないか」

「はい・・・」

「でもどうすりゃいいのか見当もつかないな。また俺が瀕死にでもなって、サンの時みたいに例の悪魔になんとかしてもらうか?」

「ダメですぅ!やだぁ!うぅぅ・・・」

「冗談だってばハハハ」


ダイヤモンドの千倍キレイな涙をポロポロとサンが零していると、車の中からアイが顔をひょっこり出し、今度はドモンにお説教。

やはり一度子育てを経験しているせいか、母親的な気質がどうしても出てしまいがち。


「今度サンを泣かせたら承知しないよ!まったくあんたって人は・・・ナナはもう服着た?シンシアはボタンをかけ違えてるわよ!こっち来なさい」

「はいはい」

「そこ!返事は一度!」

「ハーイ・・・なんかいつもよりお母さんっぷりが凄いな」


ヤレヤレのポーズをしてからタバコを消したドモン。

門番達も戻ったのか、行列の前の方が動き出すのが見えた。


「もしかすると知らない内に、母としての意識が目覚めたのかもしれませんね。子供達に出会って・・・」

「顔は分からなくても、魂や血の繋がりは分かるのかもしれないな」

「きっとそうです。運命的な出会いはビビッときますからウフフ。あのお子様方ももしかしたら今頃・・・」

「ママのおっぱい吸いたくなりだしてるかもしれないな」

「ち、違いますぅ!!もうっ!!」


同じような境遇で、少しだけセンチメンタルな気分になっていたサン。

夢の中で両親に結婚の祝福をされたことや、ドモンに初めて出会った時のことなどを思い出していたのに、ドモンの発言のせいで一気に台無し。

自分よりも背の大きな息子達に、胸を吸われているアイの姿がサンの頭に浮かんでしまった。


「サーン!そろそろ出発するわよ。早く乗ってナナの着替え手伝ってあげて。胸のボタンが留まらないからって、この子全然しないの。あなたも運転お願い。シンシアのお化粧直してあげたいのよ」車の中からアイの大きな声。

「はい、今すぐに」「ハーイハイ」

「返事は・・・」

「わかったっての!うるさいお母さんだ、まったく!」

「なんですって?!あとで覚えてなさい!」


車は街の門に向かってノロノロと出発。

アイとサンに無理やり服のボタンを留められたナナは、助手席に移動するなり苦しさで、結局ボタンを4つ外した。

「揉まないの?」「揉まないよ」「吸う?」「吸わないよ」という卑猥な会話をしていて、またアイに怒られたふたり。


「これから行くところに、さっきの子供達もいるんでしょ?!駄目よ、ふたりともしっかりしてくれなきゃ。恥ずかしいことはヤメて。教育に悪いわよ」

「あいつらもああ見えて、なかなかスケベなとこあったよなぁ?屋敷の子供らもそうだけど、サンのことをスケベな目で見てたりしてたし」

「そうそう。私よりもサンの方がいいんだって。サンの顔見てモゾモゾしてたわよ」


あの子供くらいの年齢の者達から、絶大なる人気を誇るサン。

当然、大工や鍛冶屋の弟子の子供達からの憧れの的である。


ちなみにナナはモジモジとモゾモゾを間違ってしまい、なんだか妙な感じでアイに伝わってしまった。


「サン!あなた、きちんと下着つけているわね?スンスン・・・も~う!またこんな甘い匂いを巻き散らかして!男の子達がみんなおかしくなっちゃうじゃない!」

「え?え??」


全く無自覚なサンはキョトンとした顔。

サンからはいつも、思春期の男の子が嗅げば一発でナニかが元気になってしまいそうな、甘いミルクの香りがしている。

特にうなじ辺りの匂いは、ドモンやナナが嗅いでもおかしな気持ちになるほど。


「大丈夫だと思うよ。少なくともさっきの子供らは、アイちゃんのおっぱいに夢中だろうし・・・」

「な、何を言ってるのよ!そんなことあるわけないじゃない!あんな真面目そうな男の子達が」

「そうかなぁ?」


ドモンがそれとなく話を振ってみても、やはりアイは気がつく様子はなし。寧ろこじれる一方。

事情を知らないシンシアとナナはドモンの発言にカンカンで、美乳・巨乳自慢を始めてしまい、アイをまたもや怒らせていた。



自動車が街の門へと到着すると、門番である憲兵達ではなく、大勢の騎士達が片膝を付きドモンらを迎え入れた。

もちろんもう顔パスなのだけれども、サンが一応通行証の発行をお願いした。二度とあのような事が起こらないように。


その通行証が発行されるのを待っている間、運転席と助手席のドモンとナナは、その光景に唖然呆然。


「な、なにこれぇ?!私達の街なの?!」

「なんだよマジで・・・嘘だろ・・・」


地面が土の、西部劇に出てくるような街並みだったのが一変、中央分離帯のある片側二車線の石畳のような道路が出来ており、建物も異常なほど密集している。まるで駅前通りのような賑やかさ。

建物も木造のものが減り、奥にはなんと信号機のようなものまで見えていた。


「恐らく、いや、ほぼ間違いなくギドが作ったものだろうな。前に一度話したから・・・」

「ねえ、うちもあの建物みたいに、大きな建物になってるのかな?」

「流石にそりゃないだろ。それなら手紙着てるよ、きっと」


まるで王都、もしくはそれよりもまた何歩か進んだ未来の街並み。

ドモン達が最初に乗っていたような自動車もチラホラ見受けられる。


この明らかな発展具合は、ギドだけではなく、あの大工や鍛冶屋も一枚噛んでいるのだろう。

他にも何かが出来ていたりするのか?ドモンはすごく気になった。


どの道アイと子供らのことも早めになんとかしてあげたいところなので、寄り道してから帰ることにした。


「先にちょっと大工のとこに寄って行っていいか?この自動車のことでなんかあるみたいだし。まあ他にも用があるから、寄らなくちゃならないんだけどね」

「わかったわ」


こうして騎士達の「カルロス様が首を長くしてお待ちですので、屋敷の方まですぐに来ていただきたい」という願いは聞き入れられず、今日もカールが机をバンバンと叩くハメになった。



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