第14話

朝食後、全員で一階に降りて開店準備。

特に何もやることがないドモンは「休んでて」とエリーに灰皿を出され、カウンターに座って一服していた。


エリーはカウンターの掃除をしながら「それにしてもドモンさんは料理が上手よねぇ」と感心。

「昨日のからあげってのもそうだし、さっきのスープも美味かった。ずっと作ってくれるならここの目玉商品になるぞ」とヨハン。

「今のところは無理だろうな。持ってきた俺の世界の調味料に限りがあるからな」とドモンは即答。


「ナナから聞いたけれど、異世界に戻って買ってこられるんだろう?」と食い下がるヨハンだったが、ドモンは困った顔で頭を掻きながら「実はそこまでお金がないんだよ」と苦笑い。


「こっちで稼いでからたくさん買い付けに行けばいいんじゃないの?」と言うナナに対し、おもむろにゴソゴソとポケットに手を突っ込み、百円玉をカウンターに置いて「これでエール一杯貰える?」とドモンが返す。


「なんなのこれ?ドモンさんの世界のお金なのかい?」とエリーが百円玉を受け取り、訝しげに何度も硬貨をひっくり返して眺めている。

「な?そうなるだろ?」とドモンに言われ、全員がようやく理解した。



「まあ金貨はそのまま金として向こうのお金に替えることも出来るだろうけども・・・」とドモンが続ける。

「価値が違うのか?」とヨハンが聞いてきた。

「いや金はあっちでも価値がある。それもかなり高値で取り引きされている」

「それならいいじゃねーか」

「価値がありすぎるから困るんだ」とドモンが困った顔をした。


「どういうこと?」とナナは不思議顔。


「じゃあこっちの世界で価値がある物はなんだ?金とか以外で」

「魔石とかかしら?」とエリーが答えた。

「ではその魔石を大量に持って、冒険馴れした冒険者じゃなく、突然俺みたいな普通の人がお金に替えろと言ってきたらどう思う?」


「盗んだと思う・・・」と色々と察しながら答えたナナ。

「なるほどな。一回くらいは見逃されるかもしれないが、目は付けられるだろうな」とヨハンも納得していた。


「まあ正直俺のお金には限りがあると思ってほしい。そして仕入れ続けられなければ、どうしたっていつかは作れなくなってしまうんだ」と煙を吐きながら答えるドモン。


「こっちの世界でドモンの持ってる調味料とかを作ることが出来ないと話にならんな」

「そういうことだ。将来的になんとかしたいとは思ってはいるけど」


ヨハンとドモンの会話をエリーとナナが黙って聞いていた。



「じゃあ行ってくるねー」とナナが振り向いて両親に手を振る。

「おう」「いってらっしゃい」と見送られ、ドモンとナナはまずギルドへと向かった。


「ドモンにどんな能力があるのか楽しみね」ウフフと笑うナナ。

「とんでもない鑑定スキルとか、何でも作ることができるインチキレベルでの鍛冶屋の能力とか、あとあれだな、他人の能力をすべてコピーできるスキルとかありゃいいな」

「異世界転生物の小説の読みすぎよ」

「せめてドレスがすぐに作れるくらい稼げるスキルが有ればいいんだけど」

「フフそうね。でもドモンは料理上手とか、すぐにあの・・・好きにさせちゃうスキルとかあるかもしれないよ?」と真っ赤な顔をして、なぜかナナがドモンをポカポカ叩いた。



冒険者ギルドへと到着した二人。

ドモンの話はすでにギルドにも届いており、異世界人が一体どんな能力があるのかと噂されている。

ギルド内に二人が入るなり周囲がざわついた。


「い、異世界からやってきた方ですよね?!」声が上ずるギルドの受付嬢。

「はい、冒険者登録をさせてもらいにきました」と少し緊張気味に答えたドモン。冒険者ギルドなんてものは、物語の中でしか見たことがなかったからだ。

ナナが書類に必要事項をサラサラと書いて、登録は問題なく完了した。


「こ、こちらの水晶に手をかざすと現在のステータスが確認できます」と説明しながら、ゴクリとつばを飲み込む受付嬢。

周りの野次馬達も全員ドモンの方を見ていた。


スッと出した右手で水晶に触れる。

「手をかざすだけでいいのよ。触っちゃったらステータス見えないじゃない」とナナにツッコまれ、ドモンは耳を真っ赤にしつつ慌てて離した。



レベル 49

職業 遊び人

HP 91/93

MP 0/0

属性 なし

スキル なし



「く・・」笑いを堪える受付嬢。役所の職員が、おもしろネームのおじさんに出会ってしまった時にありそうな場面。

「ほ、本当にただのおじさんじゃない」とドモンに抱きついて笑うナナ。


なんだ?どうした?と冒険者達がドンドン周りに集まった。


「生まれたばかりの赤ん坊でもMP10くらいはあったよな?」

「スキルがないのはわかるけど属性もないのか??」

「あ、遊び人って・・・くくく・・・」

「なんでHPがちょっと減ってんだよ」

「それにしてもMAXHPが少なすぎじゃないか?俺は10歳くらいで3桁あったぞ」

「これでレベル49って伸びしろなさすぎだろ」


どうやらギルドまで歩いただけでHPが2減ったらしい。

ナナの家からギルドまで23往復半したら死ぬ計算。

23往復半は確かに死ぬかもしれないと、自分の体力を考えてドモンも納得。


「わ、私はそれでもドモンが好きよ!本当よ!」とドモンを慰めるナナ。


「でも俺遊び人だぜ」

「し、知ってるわよ最初からそんなこと。大丈夫よ」ナナの全く慰めにもならない慰め。


確かに元の世界でも定職にもつかずフラフラしていて、異世界に来ても特に職は決まっていなかった。

それでいてその場で捕まえた女の家にあがりこむ。遊び人なんて優しい言い方で、実際はヒモと言っても過言ではない。

ドモンは今朝ごはんを食べながらボソッと言った自分の言葉を思い出した。


『こりゃあ俺の存在自体がチートだな』


「うわぁぁぁん!」

「だ、大丈夫だってば!私がいるんだから!」とナナが慌ててフォロー。

その瞬間「まあいいや。よし散歩でもしようぜナナ。街の案内頼むな」とドモンが嘘のような変わり身を見せた。まあ生きるのに支障がなけりゃそれでいいやと、あっという間の開き直り。


「信じられない」


ドモン以外の全員がほぼ同時に言った。



街の通りを二人で歩いていると「やあドモンさん!昨日はありがとう」と話しかけてきたどこかの誰か。

「おう昨日は楽しかったな!また店に来てくれよ!」とドモンは気軽に挨拶。

フフッと苦笑しながら若者は去っていった。


手を振って別れたあと「うーん誰だろ?」と呟いたドモン。

「やだちょっと忘れちゃったの?!昨日紹介したじゃない!私を大事にしてやってくれって言ってた冒険者の・・・」とナナが説明してようやく思い出した。

「あぁ~!ナナのことが好きだったあいつか!じゃあ昨日は楽しかったなってのは悪かったなぁ」と頭を掻く。


「えぇ?私のことを??そんな風に見えなかったけどなぁ」首を傾げたナナ。

「何とも思っていない他人を『大事にしてやってくれ』なんて言うわけ無いだろ。本当に爆乳さんは天然だな」

「ちょっとおっぱいは関係ないでしょ!やだ・・・こんなところで大きい声でおっぱいなんて叫んじゃった・・・」

「それを天然って言うんだよハハハ」


ナナはなにか小馬鹿にされたことを知りつつも『天然ってなんだろう?』と思いながら歩いていた。



大きな教会や市場、デートスポットにもなっている広場や屋台が集まる場所などを歩いて回る二人。

「あまり歩くとドモンが死んじゃう」とナナが冗談を言い、今日の散策はここまでとした。

実際にドモンだけHPが10ほど減っているが、ドモン達は知る由もない。


昼飯時も近いこともあって、市場で見つけたじゃがいもを購入して家路につく。

その道中、細い路地から子供の声が聞こえてきた。


「豆はいりませんかー!新鮮で美味しい豆ですよー!!」


市場から離れた住宅街の中。

通りかかった人に「うるせえな!こんなところで大声を出すな!」と怒られていたが、それでも少しするとまた「豆はいりませんかー!」と子供が叫んでいる。

なんだかやけに頑張っている様子に惹かれたドモンがその子供の元へと歩き出し、慌ててナナもついていった。


そうして豆を売る10歳くらいの子供の顔を見て、ふたりはハッと驚いた。

ポロポロと涙をこぼしながら、必死に叫び続けていたからだ。



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