ボートレース浜名湖

 目が覚めて起き上がろうとした時、目の前には歩花がいた。

 俺の体に跨ぎ、唇を奪い続け……下半身を妙に擦りつけていた。


 ……って、まずい!


 こんなところを婆ちゃんに見られたら大変だぞ!!



「歩花……!」

「あ、おはよー、お兄ちゃん」

「おはよ、じゃないよ。まずいって」

「もう一時間くらいこうしてたよ」

「長ッ! じゃなくて、お婆ちゃんにバレるぞ」


「大丈夫だよ~。お婆ちゃんなら朝五時には外へ散歩行ってた」

「早ッ!」



 そういえば、婆ちゃんは異様に早起きなんだよな。

 弁天島を一時間散歩するのが趣味らしい。そろそろ戻ってくる頃合いか。



「だからね、あと五分くらいは余裕あると思う。このままお兄ちゃんを襲ってもいいよね」


 すでに襲われているんですが……!

 しかも俺も情けなく興奮しちゃってる。

 いや、いかんいかん。

 冷静になれ。


 今日は競艇へ行くんだから。


「だ~め」

「じゃあ、せめて歩花のパンツ食べてくれる?」


 目の前で歩花は、パンツを脱ぎ――それを俺の口に押し込んでくる。

 突然だったので俺は頭が真っ白になった。



「――むごぉ!? むごむご!?」

「お兄ちゃんの……えっち」



 えっちって、お前がやったんだろうがっ!

 ありがとうございます!?


 じゃなくて、こんなヘンタイプレイを見られたら、婆ちゃんの顔が般若に変貌して包丁で襲われかねん!

 ああ、見えて怒ると怖いからなぁ。

 特に歩花を大切にしているものだから、俺がこんな風にしたとバレたら……うん、殺される。



「や、やめーい!」



 俺は歩花のパンツを口から取り出した。

 地味に呼吸困難!



「ごめんね、お兄ちゃん。それ欲しかったらあげるね」

「いや……けど、ノーパン」

「大丈夫。勝負下着に履き替えるから」

「え?」

「いつでも待ってるからね、お兄ちゃん」



 顔を真っ赤にして歩花は、部屋を出ていく。マジで勝負下着に着替えるらしい。……いかん、今日は一段とえっちだ……。



 ◆



 午前十時前、アパートの前に全員集合した。

 ただし、アルフレッドさんは先に競艇へ向かった。


「これで全員だな」


 みんな準備万端だ。

 弁天島から徒歩だと凄く時間が掛かるので、俺の軽キャンピングカー・インディ272で向かうことに。

 後部座席を久しぶりにベンチ展開した。


 これで俺含めて四人乗れるわけだ。


「へえ、これが回のキャンピングカーなのねえ」

「あれ、婆ちゃん乗るのはじめてだっけ」

「そうだよ。いつも見せてくれないじゃないか」


 あー、そうだったか。

 見せないわけじゃないんだけど、不思議とアパートで落ち着いてしまうからな。良い機会だ。婆ちゃんにもキャンピングカーの魅力を知ってもらえれば嬉しい。



「広いでしょ」

「こりゃあ、凄いね。住めるじゃない」

「ああ、車中泊やキャンプだけじゃない。災害時にも緊急避難として使える。電気もあるし、余裕で暮らせるよ」



 今まで長野、岐阜と旅してきたが、なにひとつ不自由はなかった。最高の旅を巡れている。やはり、軽キャンピングカーはサイズ感も丁度良いし、装備もそれなりに乗せられるから、使い勝手が良い。


 そりゃ、大型のキャンピングカーも魅力的だが、道路によっては行き来が厳しい場合もある。メンテナンス面も大変だし、デメリットも多い。一長一短なのだ。



 紺と婆ちゃんがシートベルトをしたところを確認し、俺はさっそくエンジンを掛けた。

 さあ、出発だ。




 ボートレース浜名湖まで車を走らせること、五分ちょっと。

 すでに建物が見えてきた。



「見えてきたね、お兄ちゃん」

「ああ、アルフレッドさんはもういるんだろうな」



 そろそろ第一レースがはじまる頃合い。

 駐車場には多くの車が止まっており、多くの客が建物の中を目指していた。


 俺はキャンピングカーを無料駐車場へ止めた。


 到着し、車から降りた。



「お婆様、足元に気を付けてくださいね」

「ありがとう、紺ちゃん」



 紺が婆ちゃんの面倒を見てくれていた。確かに転倒したら大変だからな。ありがたい気遣いだ。


 さて、到着っと。

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