そんなとこペロペロしちゃだめぇ

 甘い一時を過ごしていると、スマホが鳴った。誰かから着信らしい。俺は画面を見て名前を確認した。そこには『椎名先輩』の文字が表示されていた。


 ――あれ、椎名先輩から?


 とりあえず、電話に出てみた。


「先輩ですか」

『もしもーし、回くん。ごめんね、今、大丈夫?』

「ええ、大丈夫ですよ。もしかして、キャンピングカーの件ですか」

『そそ。実は明日なんだけど――』


「ま、まさか納車が遅れるんですか!?」


『違うよ~。予定通り、納車可能って連絡だよ。ウチの柚っちが全力で頑張ってくれたのよ』



 おぉ、あの整備士の牧之原さんがやってくれたんだ。ありがたい……こりゃ、何かお礼をしないと。チップでも弾むか!

 何にせよ、これで予定通り出発できるわけだ。……よしッ!



「ありがとうございます。明日、そちらへ向かいますよ」

『いや、そっちまで陸送するよ。住所は契約書に書いて貰っているし、ほら、直ぐ旅立ちたいんでしょ?』


「マジすか! すみません、何から何まで」

『いいよ。その代わり、お土産よろしくねー!』

「はい、期待して下さい」

『それじゃ、明日の九時には向かうわ』

「了解です。荷物を準備して待っていますよ」

「うい! じゃあ、またねー、回くん。歩花ちゃん」


 ――そこで電話は切れた。


 俺は電話の内容を歩花に説明。

 喜んで抱きついてきた。



「やったね、お兄ちゃん。明日には出られるんだね!?」

「ああ、これでようやく旅立ちだ! インディは届けてくれるようだから、玄関に荷物をまとめておこう。それで直ぐ出られる」


「うん、分かったよ。歩花も手伝うねっ」



 やっと……やっとキャンピングカーが納車される。本当に待ち遠しかった。日が、時間が早く過ぎてくれとさえ思ったけど、道具や観光地を考える時間もとても幸せだった。だけど、本番はここからだ。


 頬を叩き、気合を入れ直す俺。


 それから歩花と共に必要な荷物だけを運搬していく。アマズンで買った薄型折りたたみコンテナ――『オリコン』を使い、荷物を詰めまくっていく。


 フタ付きで中々収納できるから便利だ。


「――よし、こんなもんか! 歩花、お疲れ」

「うん、これでもう、いつでも運び出せるね」


 玄関前にはリュックやらオリコンが積まれている。これでそれほど時間を掛けずにキャンピングカーへ運搬できる作戦だ。



「よし、今日はもう飯くってゆっくりして……寝るか」

「準備はバッチリだもんね。じゃあ、夜までゲームでもする~?」

「そうだな、リラックスする時間も大切だ」



 そんなわけで、俺は歩花とゲームをしたり、晩飯を食べたりして残りの時間を過ごした。その後、まったりとソファで電子書籍を消化していれば――深夜零時を回っていた。


 その時、ちょうどラインが入った。


「ん、紺か」


『回お兄さん、明日には納車されそうですか?』

「ああ、さっき電話があって確定した」

『おぉ! おめでとうございます。ついにですね! 見に行けないのが残念です。現地で楽しみにしていますね。ということで、明日の早朝には先に出ようと思います』



「分かった。無茶は禁物だぞ。それに、事故ったら元も子もない、安全運転でな」


『そ、そうですね。バイクは危険がいっぱいだから、不安も大きいです。でも、望んでいたバイク旅なので……楽しんでいきたいです』


 大変だけど、バイクだからこその楽しみはある。俺も、紺がどんな風に旅をするのか楽しみだった。それに“可愛い子には旅をさせよ”という、ことわざもある。俺と歩花もだけど、紺もきっと今回の旅で“何か”を得られるはず。


 それが何か、今は分からないけど。


 今は前進あるのみだ。


「楽しい旅にしよう。紺、何か困った事があったら、なんでも相談してくれ。道具だって貸すし、もし宿泊する場所に困ったらキャンピングカーに招待するし、お金も任せてくれ」


『……嬉しいです。おかげで不安が吹き飛びました! 回お兄さんって優しいですよねっ! あー、もう歩花ちゃんが羨ましいです。こんなお兄ちゃんが欲しかったなぁ』


「こっちこそ仲良くしてくれて嬉しいよ。ありがとう」

『では、現地で会いましょう。たまにラインしますから!』


「分かった。気を付けて――おやすみ」

「おやすみなさい」


 おやすみの挨拶を交わし、電話が切れた。これでもう、しばらく連絡は取れないだろう。バイク移動の電話は大変だろうし。


 よし、俺も寝よう。

 既に寝落ちしている歩花を抱え、自室へ戻る。……まったく、ヨダレを垂らして幸せそうに寝やがって。けどいい、これでいい。歩花が幸せなら、何だっていい。


 自室のベッドへ歩花を寝かせ、俺も隣に寝た。




 ――起き上がろうと顔を上げると、視界が急に真っ暗になった。……あれ、まだ夜か? おかしいな。もう朝な気がしたが。


「……はぅ!」

「はぅ? なんだこの柔らかいもの……?」



 俺は、寝惚けた頭のせいか、なんだかソレを無性に舐めたくなって目の前の物体をペロペロした。



「ひゃうっ! お、お兄ちゃん……そんなとこペロペロしちゃだめぇぇ……」



 この甘くとろけるような声は歩花だよな。うん、間違いない。つーか、俺は、歩花のどこを舐めたんだ!?


 顔を離すと、俺は歩花のお腹に顔を突っ込んでいたらしい。つまり、可愛いおヘソをペロペロしていたらしい。……俺とした事が!! なんてところを!! 馬鹿、馬鹿、馬鹿!! ああああああああ!!



 思いっきり離れ、俺はジャンピング土下座を決めた。


「お、俺はなんて事を!! 歩花、すまん……本当に、こんな犯罪スレスレのエロ兄貴を許してくれ……」

「……き、気にしないで。う、嬉しかったし?」


「え?」


「な、なんでもないッ!! 追及したら刺すから! そ、それより、キャンピングカー届いたみたいだよ。外に、それっぽいの停まってるし」


 刺されるのはイヤだな。

 なかった事にして、それよりキャンピングカーだ!


「おぉ! ついに来たか!!」


 善は急げだ。さっさと着替えて受け取りに行こう。

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