女の子に囲まれて寝れない件

 部屋へ戻り、まったりしていれば零時を回っていた。

 もう寝る時間だ。


「明日も早いし、寝ますか」


 さて、ここで問題なのは……誰がどの布団に入るのか、だ。唯一の男である俺は、できれば女の子に挟まれる事態は避けたい。眠れないから!


「回くん、位置に希望ある?」

「できれば隅がいい。理由は分かるだろ、安曇野」

「残念だけど、女子の方は回くんと一緒に寝たいみたい」


 うんうんと歩花も紺もうなずく。

 顔がマジじゃないか!


 これ、俺はど真ん中な予感しかしない。


 焦っていると紺が恐る恐る手を挙げた。


「安曇野さん、川の字で寝なくとも回お兄さんを囲むようなレイアウトにすれば公平じゃないですか!?」

「紺ちゃん天才!? そうね、回くんをド真ん中にして……左右上下好きな所に布団を敷けばいいか。となると左右が一番ラッキーね。下だと足元しか見えないから……上が無難」


 歩花、紺、安曇野の顔色が変わる。

 俺の隣を狙っているらしい。



「紺ちゃん、安曇野さん……じゃんけんしましょ」



 今度は歩花が案を出した。

 公平にじゃんけんをして俺の左と右隣りを決めるらしい。紺も安曇野も乗り気だ。でもいいのか、歩花は確かじゃんけん……そんなに強くないはずじゃ。


「じゃあ、回くんは真ん中にして――歩花ちゃんの言う通り、じゃんけんで決着をつけましょ!」


 安曇野よ、俺は真ん中確定かよっ。

 ……まあいいか、俺にメリットしかないわけでして。


 見守っていると、じゃんけんが始まった。



「「「じゃんけ~~~ん……ぽん!!」」」



歩花:パー

紺:グー

安曇野:グー



「やったー! 勝っちゃったー!!」


 なんと歩花が一番はじめに勝った。

 マジか!


 あの歩花が勝つとは……奇跡かな。

 紺と安曇野は悔しそうな表情をにじませていた。けど、まだワンチャンあるけどな。


「くぅ……さすが歩花ちゃん。勝負事は強い」

「え、紺ちゃん。それホント?」

「はい、安曇野さん。歩花ちゃんは昔から真剣勝負に強いんです」

「そ、そうだったの……! くっ、やられたわね。でも、まだ隣を選べる。紺ちゃん、悪いけどここで沈んで!」


「そうはいきません。安曇野さん、負けてもらいますよ!」



 二人は見合って、じゃんけんを始めた。



「「じゃんけん~~~……ぽんっ!!」」



紺:チョキ

安曇野:グー



「ああああああああ……そんなあ!!」


 紺は敗北した。


「よしっ!! 勝ったわ!!」


 安曇野の勝利だな。



 これで、俺の右側に歩花。左側に安曇野という結果になった。紺は俺の――というか、みんなの頭上側で寝ることになった。


 ……やっと決まったな。


 布団の位置を変え、さっそく横になる。


 結局、俺は女子に囲まれる運命なんだな。



「…………」



 寝れねえ……。

 こんなの寝れるわけがない。歩花とは慣れているけど、それでもやっぱり緊張はする。そこに紺と安曇野だ。

 意識するだけで頭がどうかなりそうだ。


 だけど寝ないと。


 明日も早いし、いよいよ長野を立つ予定だからな。


 まぶたを閉じ、俺はなるべく煩悩を遠ざけた。すると、少しずつだけど眠気が襲ってきた。……ふぅ、なんとか眠れそうだ。


 このまま夢の世界へ身を委ね――。



 あと少しで眠れそうだった、その時。

 耳元で誰かが囁いた。



「お兄ちゃん、寝かせないよ」

「……あ、歩花!」



 まだ起きていたのか、歩花は俺の布団の中へ侵入してきた。

 だが、これだけはなかった。


 またゴソゴソと音がした。


「回くん、いにきたよ~」

「って、安曇野!!」


 なんと二人が俺の布団に入ってきたんだ。

 だけど紺は?

 あ、いや、期待しているわけではないが――なんだ、寝てるっぽいな。


「ちょっと、安曇野さん。お兄ちゃんの布団の中へ入らないでください」

「歩花ちゃんばかりズルい。私だって回くんと密着して寝たい」

「なっ! やっぱり安曇野さんって、お兄ちゃんが好きなんですね!?」

「ええ、好きよ。大好き。だから、もうこのまま寝るから」


 安曇野は、完全に吹っ切れたのか俺に密着してきた。……って、興奮して寝れんって! 安曇野は凹凸おうとつ激しいし、いろいろ体に当たっているんだが!


 歩花も対抗するように俺に密着するし……どうしてこうなった。


「くぅ……本性を現したね、安曇野さん! 言っておきますけど、お兄ちゃんはわたしのお兄ちゃんなんです!」

「妹でしょ。なら、恋愛対象にはならないはずよね。それに、回くんは私みたいな女の子が好きみたいだし」


 なんか俺を間にしてバトルが始まっているんだが。

 これは止めた方がいいな。

 紺を起こしちゃうし。



「二人とも落ち着け。密着はしていていいから……ケンカはしないでくれ」



「うぅ……」

「そ、そうね……」



 なんとかして二人をなだめるか。



「歩花、旅行中のケンカはダメだ。謝りなさい」

「ご、ごめんなさい……」


 珍しくションボリする歩花は、大人しくなった。


「私もごめんね、歩花ちゃん。つい興奮しちゃった……」

「いえ……」



 やれやれ、ここは俺も大人になるしかないかな。


 思い切って二人を抱き寄せた。



「……」

「……」



「おやすみ、歩花、安曇野」



 * * *



 ――寝れるわけがない。


 あの後、女子は全員寝た。

 俺はまったく寝付けなくて、風呂でくつろいでいた。


 この時間帯は貸し切り。

 誰もいない。


 ゆっくりと体を温めていれば、そのうち眠気が襲ってくるさ。


 スマホでネットを見て回っていると――戸が渇いた音を立てて開いた。



「……! だ、誰だ」

「……えへへ。来ちゃった、お兄ちゃん」

「あ、歩花……起きてたのか」



 そこにはバスタオルを体に巻く歩花の姿があった。ここ男湯なんだけどな。……けど、他の客は来ないだろうし、いいけどさ。


 歩花はゆっくりと歩いて俺の隣に。



「ねえ、お兄ちゃん。もう一度確認させて」

「な、なにをだ?」

「安曇野さんのこと、好きなの?」


「……と、友達としてだ。実は、振ったんだ」


「本当に?」

「本当だ。だから安心してくれ、歩花」


「ごめん、信じられない」

「え……」


「だって……お兄ちゃんってば昨日の夕方頃……安曇野さんと抱き合っていたよね!?」


 ナタを取り出す歩花は、俺の首元に向けてきた。


 ちょ、え……ええッ!?


 み、見られて……いた!?

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