長野 / 岐阜
お兄ちゃん、死んで!!
「ちょっと待て。歩花! そ、それは誤解だ」
「……誤解? なにが誤解なの。お兄ちゃんは……歩花を捨てたんだよね」
「そんなことはない! 本当だ!」
必死に訴えるものの、歩花はナタを乱暴に振り回してきた。危険すぎて俺は回避するが、刃が首元の肉を引き裂く。
「ダメ。許さない」
「……あ、歩花……がはっ」
血がドバドバとあふれ出る。
な、なんだ、これ……。
「死んで……お兄ちゃん」
風呂が真っ赤に染まっていく。
首元を押さえて、激痛に耐えながら逃げようとするけれど歩花は容赦なくナタを振るってきた。
ズシャ、グシャ……。
あちらこちら刃を受け、血が止まらない。
――死ぬ、死んでしまう。
「…………歩花、止めてくれ。……俺を殺すのか」
「うん、お兄ちゃんを殺したい」
ナタが更に迫ってくる。
「……うわああああああああああ!!」
・
・
・
――目を覚ますと、俺は布団の上だった。
……
歩花も安曇野も眠ったまま。
俺は全身が汗まみれで……そうか、やっぱり
以前にも歩花から殺されるという悪夢を見た。
……久しぶりだったな。
そうだよな、歩花があんなことするわけないよな。
汗を流しに行くか……。
さすがに今回の風呂は何もなかった……ふぅ。
* * *
――翌朝――
あれから何とか寝られて俺は目を覚ました。
女子の姿はなかった。
ラインをチェックすると紺から『朝風呂行ってきますね』というメッセージが残されていた。そうか、みんなお風呂へ行ったのか。
時刻は八時。
俺は何とか生きています……。
荷物をまとめ、チェックアウトの準備を進める。
――三十分後――
みんながお風呂から戻ってきた。
「おはよう、お兄ちゃん」
「おはよ、歩花」
よかった、歩花は普通だ。昨晩の超リアルな殺人現場はやっぱり『夢』だったのだ。また悪夢を見ることになるとはな……何度思い出しても恐ろしい。
「おはようございます、回お兄さん」
「紺もおはよ。朝風呂どうだった?」
「最高でした! 回お兄さんも行かれては?」
「いや、俺はもう深夜に入ったからいいや」
「そうなんですね、いつの間に!」
紺はぐっすり眠っていたな。
羨ましい。
「おはよう、回くん」
「安曇野、おはよう。今日で最後かな」
「そうだね。寂しくなるけど、私はここまでか」
今日で長野を去る予定だ。
安曇野とはあと数時間の付き合いとなる。そんな別れの空気を歩花も紺も感じたのか、少し寂しそうだった。
「あと少しだけ一緒にいられるさ」
「うん。ところで今日はどうする?」
「次の目的地を目指しつつ『国営アルプスあづみの公園』へ行こうと思う。歩花が行きたがっていたし、イルミネーションは見れないだろうけどね」
残念ながら夜まで滞在できない。
イルミネーションは来年かな。
「そっか。じゃあ松本へ戻る感じだね」
「ああ、今日には岐阜まで行っちゃおうかなって考えてる。夏休みも残りが限られているからね」
「それもそっか」
納得してくれた安曇野は、仕度を始めた。
「そういうことで、歩花、約束通り公園へ行こっか」
「覚えててくれたんだ!」
「夜にしたかったが……すまん、もうスケジュールを考えると今夜は無理そうだ」
「ううん、いいの! 覚えてくれていただけでも嬉しい」
……ホッ、良かった。
殺されることはなさそうだな。
俺と歩花、そして紺も帰りの仕度を始めた。
* * *
「――ふぅ、こんなところか」
すっかり綺麗になった。
部屋を去り、受付へ向かう。
料金を支払い、ついにチェックアウトした。
「良い所でしたね、回お兄さん」
「ああ、紺。静かでいい場所だった。写真はいっぱい撮ったか?」
「はい、ばっちりです! 回お兄さんの寝顔とか」
「なぬ!?」
いつの間に撮られていたんだか。
俺の寝顔なんて紺に需要あったのか……知らなかったな。
「回くん、こっちは荷物をまとめ終わったわ」
「早いな、安曇野」
「着替えくらいだったからね」
「なるほど。とりあえず、こっちもぼちぼち終わる。出発するか」
「オーケー。まずは朝食どうする?」
「近くのコンビニでいいだろ。今日は時間短縮で」
「分かった。コンビニL店があるから、そこにしよ」
「ああ、来た時にあったな」
決まりだ。
俺は軽キャンピングカーに荷物を積載していく。歩花も手伝ってくれた。
「よし、出発する。先頭は俺がいくよ。真ん中に紺、一番後ろに安曇野でいいだろ」
「了解ー! 回お兄さんについていきますよー」
ハンタークロスカブの乗り、サムズアップする紺はもう準備万端だ。エックストレイルに乗車した安曇野も同じく合図をした。これで出発だ。
俺と歩花も車へ乗り込み、シートベルトを着用。
「さあ、行こうか」
「良い場所だったね。また来たいな」
「ああ、いつまた来よう。今度は二人きりで」
「……お兄ちゃん。うん」
さらば『民宿・やまく館』!
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