国営アルプスあづみの公園
コンビニL店で朝食を買って食べ、再出発。ついに木崎湖を離れた。
来た道を戻り、国営アルプスあづみの公園を目指す。
ナビよればニ十分ほどの距離らしい。
コンビニL店から蓮華大橋へ、県道306号を走る。途中で右折して公園が見えてきた。
「意外と近かったな」
「ここが公園なんだね、お兄ちゃん。田園文化ゾーン?」
「ああ、田園文化ゾーンと里山文化ゾーンと別れているらしい。今は田園文化ゾーンで、田園や山岳が楽しめるようだ」
「へえ、そうなっているんだね」
すでに、のどかな風景が広がっていた。
山々と青い空に囲まれ自然一色だ。
車から降り、紺と安曇野と合流しようとするが……あれ、二人とも姿がない。
「……あ、いた」
「あれ、紺ちゃん誰かに話しかけられてるよ」
バイク乗りに話しかけられているようだな。そりゃ、あんな若い女の子がカブを乗り回していれば目立つな。しかも『相模』ナンバーだ。珍しいからなぁ。
「相手は女性ライダーだし、ナンパとかの危害はなさそうだ。安曇野の方は……ん?」
慌ててこっちにやって来た。
「ごめん、回くん!」
「どうした?」
「知り合いがいてさ、話しかけられちゃって! 後で追いつくから、三人で公園を回ってて」
「いやー、それが紺も誰かに絡まれていてさ」
「え、本当だね。じゃあ、紺ちゃんは私に任せて」
「そりゃ助かる。悪いけど、歩花と一緒に行ってくるよ」
「うん、分かった。じゃ、また連絡する」
安曇野に紺を任せた。
まさか公園に到着して早々、こんなことになるとは。けど、まあいいか。たまには歩花と二人きりというのも悪くない。
「そういうわけで、歩花」
「ふ、二人きりだね……お、お、お兄ちゃん……」
久しぶりなせいか、歩花は緊張していた。……なぜそんな震えているんだか。
「落ち着け、歩花。俺も変に緊張しちゃう」
「ごめん……なんかドキドキしちゃって」
「せっかく二人きりなんだ。デートしよう」
「……う、うん」
歩花の手を取り、先へ進む。
有名な公園なせいか、人がかなり多い。
出入口にあるガイドセンターで入園料450円を支払った。
この公園は花畑や池や川、森がどこまでも続いているらしい。さっそく入場すると圧倒的開放感のある自然が出迎えてくれた。……かなり広いな。どこまで続いているんだろう。
「歩花、ここ大自然でいっぱいだな」
「空気が美味しいね。あ、池のところ人がたくさん」
浅い池には子供から大人まで水遊びに興じていた。へえ、涼しそうだな。
「浸かっていくか?」
「ううん、いい。それより渓流広場へ行ってみたい」
「いいね、もっと自然を感じられるかも」
歩花と手を繋いだまま、渓流へ入った。
森のような自然に入ると穏やかに流れる『烏川』という川があった。耳心地のよいせせらぎ、子守歌のような鳥と蝉の鳴き声。マイナスイオンが感じられた。
「ここ最高だね、お兄ちゃん」
「ああ、人も全然いないし、静かだな」
どんどん奥へ行くと深い森へ入っていく。緑一色で自然しかない――と、思ったけどドッグランがあったり、マレットゴルフが遊べたり、遊具があったりなど意外と充実していた。
更に歩いていくと、また森に入った。
そろそろ少し休憩しようかと思ったら、歩花が立ち止まった。
「どうした、疲れたか?」
「お兄ちゃん、あのね……。ここなら人がいないし……しちゃう?」
「あ、歩花!?」
「……ここでして欲しいな」
歩花が迫ってくる。
俺の前に立ち、顔を上げた。
「し、しちゃうって……何をだよ」
「まずはキスでいいよ。その後はお兄ちゃんに任せる」
「……キ、キスだけなら」
「むぅ、分かった。誰かに見られたらまずいもんね」
いったい、何をする気だったんだか。けどまあ、キスならいいか。
俺は歩花の肩に手を乗せ、そのままキスを――『ピコ~ン♪』――と、肝心な時に限って邪魔が入った。
これはラインだな。
スマホを取り出して画面を見てみると、安曇野から電話だった。
「もしもし、安曇野。どうした」
『ごめーん。迷っちゃってさ~…回くんたちどこにいる?』
「迷ったのかよ! えっと、竜の広場ってところで合流しよう」
『あー、そっちか。おっけー! 紺ちゃんと向かうよー』
「おう、分かった。こっちも向かう」
ガチャっと電話は切れた。
「というわけだ、歩花。紺と安曇野と合流すっか」
「お兄ちゃん、キスしてくれないの……酷いよ」
やっべ、歩花がいじけてしまった。
けど……そんな歩花も可愛い。
「分かった。してやるから、そんなしょげるなって」
俺は歩花を抱き寄せ、唇を奪った。
そんな歩花は嬉しそうに俺の首に腕を回し、何度も何度もキスを返してきてくれた。……この、甘え上手め。
* * *
竜の広場で待っていると、紺と安曇野が揃って現れた。
「ごめーん、回お兄さん、歩花ちゃん!」
「ごめんなさい。回くん、歩花ちゃん!」
まるでヘッドバンギングのように頭を上下に激しく振る二人。そんな謝る必要もないのだがな。
「気にするなって。もう少しゆっくり回って昼にしよう」
「ありがとうございます、回お兄さん」
「紺は話しかけられていたんだよな」
「はい。バイク乗りの方に写真を撮らせてくれと言われて……。装備とかの話もしてたら、盛り上がっちゃって」
なるほどな、それで気にしていたのか。
「回くん、私もごめんね」
「安曇野は知り合いと?」
「うん、地元の同級生と会ったんだ。あ、言っておくけどサバゲー女子会の仲間でもあるからね! 彼氏じゃないよ」
「お、おう……って、サバゲーか」
「うん。回くんもやってみる?」
「考えておく」
「ところで……歩花ちゃんの顔、風邪引いたみたいに赤くない?」
安曇野のヤツ、鋭いな。
ついさっきまで歩花とは激しいキスをしていたからな。そりゃ、こうもなる。
「わ、わたしはなんでもないよ!! 歩きつかれただけだから!!」
めちゃくちゃ動揺する歩花……顔が真っ赤だし、言い訳がきついぞ。だが、ここはフォローを入れておくべきだな。
「歩花が疲れているらしい。少し休んでから公園を歩こう」
俺がそう説明すると紺も安曇野も納得した。……ふぅ、危なかった。
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前日譚を追加しました↓
【前日譚】原付免許取得編
https://kakuyomu.jp/works/16816927861458863501/episodes/16817139558563687785
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