ヤンデレ義妹と旅するえっちな車中泊生活

桜井正宗

番外編A

【前日譚】原付免許取得編

 大学生になって二ヶ月。

 俺はまだチャリ通学していた。

 いや、世間一般的には普通ではあるけれど……だるい、いい加減にチャリはだるい。健康にはいいけど、家から駅まで十五分も掛かる。

 バイト先なんか三十分も掛かる。


 高校時代から、ペダルを漕いで必死に行き来する毎日。


 車はあんな楽々と移動できて羨ましい。

 帰り道、いつものように原付バイクとすれ違う。……バイクか。ちょいと危険だけど、乗れれば移動が楽になるな。



 家に到着。リビングへ向かうと、制服姿の歩花がソファに寝転がってスマホをいじっていた。


「おかえり、お兄ちゃん」

「ただいま。歩花も帰ってきたところか」

「うん。さっきね」


 俺は義理の妹・歩花の隣に座ろうとする。察した歩花は起き上がって席を譲ってくれた。……前だったら絶対に譲ってくれなかった。


 ほんの少し前まで歩花は荒れていた。


 会話なんてほとんどなかったし、笑顔もまったくなかった。でも、誕生日プレゼントをあげてから歩花は変わった。


 俺に笑顔をくれるようになった。


「歩花のセーラー制服、似合うなあ」

「あ、あんまり見ないで……恥ずかしいから」

「本当に可愛いよ」

「…………」


 歩花は顔を真っ赤にしてしまった。……おぉ、初々しくて可愛いな。


「スマホで何を見ていたんだ?」

「クラスメイトの子がバイク好きなの。写真見せてもらってた」

「へえ、女子高生でバイク好きとはな」

「うん、カブっていうのが乗りたいんだって」


「渋い趣味だな。新聞配達とか郵便の人が乗っているバイクじゃん」


 燃費は超良いし、耐久性も素晴らしいから最高のバイクと呼ばれている。確かに、乗るならカブはありだな。その代わり、車体の値段もするけど。


「そっか。うん……決めた」

「どうしたの、お兄ちゃん」

「俺、車の免許を考えたけど、まずは原付取ってみようかな」

「原付の免許?」

「そそ。一日で取れるんだってさ」

「へえ、そうなんだ? 知らなかった」


「うん、明日にでも手続きを進めてくるかな」

「応援してるね」



 ――俺は徹夜で試験勉強をした。

 後日、住民票、印鑑、金、証明写真、筆記用具などを揃えて運転免許センターへ向かった。


 受験料は1,500円らしい。

 その他、交付手数料2,050円、原付技能講習受講料4,500円が必要みたいだ。結構安いな。バイトで得た貯金があって良かった。


 まずは適性検査。

 視力検査を突破しなければならない。

 これは問題なくクリア。


 次に運命の学科試験だ。


 50点中45点以上で合格だ。

 必死に暗記して詰め込んだから、だぶんいけるはず。



 ――1時間後――



 合格発表の時間だ。

 巨大なディスプレイに俺の番号『005』が出れば合格だが……果たして?



 該当…………なし。



「ああああああああ……!!」



 どうやら不合格だったらしい。

 やっぱり徹夜では無理があったか。

 近年の合格率も低いと聞いていたが、ほとんど受かっていないな。今回は十五人くらい受けていたけど、四人しか残らなかった。すくねぇ……。


 不合格となった者は、背を向けて早々に立ち去っていく。


 俺も敗北者の波へ消えていく。


 ……クソ、次こそ取ってやる!!



 * * *



 家に帰る途中、歩花と出くわした。

 ……ん、誰かと話しているな。

 同じ学校の男子か?

 なんか絡まれているように見える。


「――なあ、春夏冬あきなしさん、家まで行っていいだろ?」

「嫌です! ついてこないで下さい」

「そんなこと言わずにさ~」


 あのヤロウ、歩花にベタベタくっ付こうとして……許さん。俺はダッシュで歩花の元へ向かい、手を取った。



「歩花、大丈夫か」

「お、お兄ちゃん! 良かった、助かったよ……」

「もう安心しろ」


 俺はそのまま歩花を連れていこうとするが、男子生徒がしつこかった。


「あんた誰だよ! 俺はその子の彼氏なんだぞ」


 歩花は首を横に振った。

 違うじゃねえか!!


「嘘はよくないぞ、少年。それに、歩花は俺の妹だ。手を出すんじゃねえ!!」

「げっ……お兄さんでしたか。あはは……こ、これは失礼を」

「これ以上、歩花に近づくな」


 男子生徒は諦めたのか、きびすを返して去っていく。


「……お兄ちゃん! 助けてくれてありがと」


 抱きついてくる歩花を俺は受け止めた。……良かった。


「いや、それよりナンパでもされてたのか?」

「うん。別の学年の男子。最近よく話しかけられてた……しつこくて」


 歩花の可愛さはダントツだからな、誘いたくなる気持ちも分かるが――だが、許さん!!


「ああいうの多いのか?」

「多いよ……。歩花の胸が大きいせいかなあ」

「そ、そこもあるかもな」


 ぶっちゃけ歩花の胸は大きいからな……それでこの人形のように整った容姿。アイドルすら凌駕りょうがしている。そりゃ、こんな可愛いんだ。あんなつきまとい男も現れるよな。


「お兄ちゃんは、免許どうだった?」

「残念ながら落ちた」

「え……お兄ちゃん、がんばってたのに」

「原付は思ったより難しかった。またリベンジするよ」

「うん、お兄ちゃんなら絶対に取れるよ」


 歩花に励まされ、俺はやる気がまた上がった。

 次回こそ頑張ろう。



 * * *



 後日、俺は原付免許にリベンジ。

 今度は自信があった。



 ――1時間後――



 今回は『007』だ。

 ……果たして。



 お、番号が出たぞ。俺の番号は…………あった!!


 やった!! 今回は合格だ!!



 あとは三時間の技能講習を受けるだけ。

 長いけど、これを受けないと免許が貰えない。



 その後、俺は技能講習をこなしていった。

 はじめて原付バイクに乗ってビビりまくったが、後半は落ち着いて乗りこなせた。



 午後になってようやくピカピカの原付免許を入手した。



「ここまで長かったなぁ……」



 これであとは原付バイクを買うだけ!

 幸い、貯金はまだまだある。

 中古なら五万~七万円であるようだし、まずはそれでいいだろ。



 ――家へ帰宅し、俺は歩花に報告した。



「歩花、原付免許取れたよ!!」

「本当にー! おめでとう、お兄ちゃん!!」


「これが証拠だ」

「おぉ、かっこいい。これでバイクに乗れるんだね」

「そうだ。通学もバイトも移動が楽々になる」

「いいなぁ。歩花も取ろうかな」

「高校は、免許の取得を禁止にしているところが多いからな」

「うん、多分無理かな」


「ちょうどやる気もでたし……次は普通免許も取るさ。そしたら、車に乗せてやる」

「って、お兄ちゃん、先に車でも良かったんじゃ?」

「そこまでのお金がなかったからな。それに、とにかく“足”を楽にしたかったから、繋ぎで原付バイクだ」


「そういうことか~。じゃあ、車に乗れるようになったらドライブへ連れていってね」


「もちろんさ。何だったらどこかへ旅行へ行こう」

「うん、約束だよ」



 こうして俺は『原付免許』を取得。

 だが、歩花の発言がキッカケで、なんだかんだで『普通免許』も欲しくなり――結局、一ヶ月後には自動車学校に通うようになっていた。


 今年の夏休み、歩花を連れてどこかへ行きたいと思ったから。



【原付免許取得編・完】

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