長野観光 二日目

車中泊仕様のSUV

 駐車場へ向かい、一度キャンピングカーへ戻る。荷物を突っ込み、作業は完了。


「荷物はこれでよし。いったん、安曇野のところへ向かう」

「分かった~。安曇野さんとミーティングするんだよね」

「ああ、今日は長野を案内してくれるってさ」


 そう話していると、バイクを確認していた紺も合流。


「こっちも大丈夫でした! 盗難の被害がなくてホッとしましたよ~」

「それは良かった。……でも、疑問がひとつ残るな。アルフレッドさんはどこから沸いて出て来たんだ?」


「あー、やっぱり気になります?」

「そりゃな」


 十五分前ほど、いきなり健康ランドに現れて何事かと思った。紺を心配して駆けつけてきのだろうか。



「そうですか、でもまだ話せないんです! 秘密兵器を今披露するには早すぎるので!」


 くわっと紺は凄む。秘密兵器……あぁ、以前言っていた気がする。紺には『秘策』があると。それがアルフレッドさんと何の関係があるのだろうか。


 う~ん……イマイチ読めないな。



「分かった。その時がきたら教えてくれ」

「はい、それまではお楽しみに。それより、安曇野さんは?」


「ああ、そうだった。あっちの隅に車を止めているらしい、行こうか」



 俺は、歩花と紺を連れて安曇野の車へ向かう。ていうか、車種を聞いていなかった。どれだか分からないので俺はライン電話をした。


 数秒後には繋がった。



「安曇野、どこだ?」

『あー、ごめんごめん。今、手を振るよ』



 車から出て来る安曇野は手を振っていた。あの車か……って、あれは!!



「マジかよ。あの車はニッサン『エックストレイル』じゃないか! SUVでアウトドア向け。車中泊が出来ると評判の車じゃん。厳つすぎるだろう!!」


 しかも“テルちゃんさんTV”が愛用している車種だぞッ。思わずテンション爆上がりして、俺はハイになっちまった。



「お兄ちゃん、なんか凄い元気!」

「そうだね、歩花ちゃん。回お兄さん、いつもと違って目がキラキラしてるよ」



 歩花と紺は少し引いているが、俺はそれよりも安曇野の車に感激した。



「安曇野、そのエックストレイル!」

「フフ。バイトがんばって買っちゃった」

「すごいな、一括払い?」

「新車だもん。そんなわけないよ~。ちゃんとローンを組んだよ」



 スゲェ。ブラックのボディが高級車を演出しているし、ピカピカのテラテラだ。なんと美しいフォルムか。これで車中泊も出来るとかカッコ良すぎる。



「って、まて。エックストレイルって新車で300~400万だぞ」

「畑仕事を頑張って来たからねえ……うぅ」



 裏では涙ぐましい努力があったわけか。

 いや、それにしても凄い。


 後部座席を見せてもらうと、車中泊できるように内装は改良されていた。ヨーチューブの動画で知っていたけど、エックストレイルは“フルフラット”が可能だ。


 しかもで完璧なまでのフルフラット。


 安曇野曰く、多少の加工だけで完璧に寝られるようになるらしい。



「「「おぉ……」」」



 俺だけではない、歩花や紺も思わず声を漏らす。



 快適に寝れる空間。毛布やマット。吊り下げられているLEDランタン。大きなポータブル電源が一台。調理器具などはボックスに閉まってあるのだろうか。かなり整理されている。

 なかなかシンプルだけど、無駄がなくていい。



「広々としてていいねぇ。まさか車中泊仕様にしているとは思わなかった」

「でしょ。エックストレイルはこの広さが魅力的だと思う。これからもっと改良していくから期待しておいて」


「おう。楽しみにしているよ」


「で、回くんの車はどれ?」

「ああ、俺のも見ておくか」

「うんうん、興味ある!」



 今度は俺の番だ。安曇野を連れ、軽キャンピングカー『インディ272』を見せた。



「これが俺と歩花の車だ」

「へ……へ? へ? うそ……」



 まったく状況を飲み込めていない安曇野は、目を白黒させた。



「嘘じゃないぞ。俺と歩花は、このインディに乗ってきたんだ」

「ええッ!? これキャンピングカーじゃん!! 凄すぎない!? 私のエックストレイルより何倍も凄いよ。回くん、何者?」


「ただの大学生だよ」

「いや、けど学生がキャンピングカーとか無理でしょ。どういうこと?」


 さすがに宝くじで一等当たりました――と本当のことは言えない。ので、俺はこう誤魔化した。



「歩花からプレゼントして貰ったんだ」



 驚愕する安曇野。今度は歩花の方へ駆け寄り、肩に手を置いてただしていた。



「あ、歩花ちゃん、ほんと!? 回くんにキャンピングカーをプレゼントしたの!?」

「う、うん。わたしがお兄ちゃんにプレゼントしたの。そ、そのぉ……お金はあったから」


「わわわ……なんて健気な妹さんなの! 歩花ちゃんって天使!? 女神様!? 回くん、歩花ちゃん一生大切にした方がいいわよ」



 その通りだな。雑に扱おうものなら、容赦ない神罰を受けるだろう。となれば俺は地獄行きだ。それ以上かもしれない。


 これで車の紹介は終わった。

 次に安曇野は紺のバイクも拝見した。


「これ、あたしのバイクです」

「おぉ、ハンタークロスカブ! 紺ちゃん渋いねぇ」

「あはは。これ燃費が凄くいいんですよ~。しかも125ccですし」

「うん、分かる。私もハンタークロスカブに乗っていたからさ」

「え、安曇野さんも!? わぁ、奇遇ですね!」

「車を買うまでは乗ってたんだ。いいよね、バイクも」

「はいっ。どこまでも行ける感じがいいんです!」



 おぉ、紺も安曇野も盛り上がってるな。


 それから、旅路について話し合った。



「で、安曇野。どこへ行く?」

「うーん。じゃあ、シンプルに安曇野市・・・・へ行こうか。そこにね『大王わさび農場』っていう観光地があるの。みんなで歩いて回りましょ!」


「へえ、面白そうだな。決定だ」

「うん。じゃあ、各々の移動手段で行く?」


「そうしよう。紺、大丈夫か?」



 特にバイクの紺は心配だ。



「大丈夫です! 回お兄さんのキャンピングカーの後ろについていきますし。安全運転で行きましょ」


「了解。じゃあ、先導を頼むよ、安曇野」



 サムズアップを決める安曇野は、エックストレイルへ向かっていく。


 いよいよ出発だ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る