お嬢様と執事の行きたい場所

 アルフレッドさんは、西部劇のハードボイルドさながらの渋い表情で語り始めた。……おいおい、いったい何を話す気なんだ?



「な、なんです?」

「ええ、回様。実は……浜名湖競艇ボートレースへ行ってみたいんです!!」



 くわっとした表情をこちらに向け、強い語気で言ってきた。


 ま、まさかの……浜名湖競艇だとォ!?


「驚きました。アルフレッドさんってギャンブルやるんですね」

「ええ。海外ではカジノに務めていたことがありました」


 どんな経歴だよ!!

 まあ……海外にいたって言うのは度々聞いていたけど、マジなんだな。

 なるほど、その時の血が騒ぐわけか――。


「やってみたいんですね?」

「ええ。お嬢様も興味津々ですので。ただし、入場は未成年でも可能ですが、舟券の購入は20歳からですので、私しか購入はできません……」


「俺も無理だな」


「ですよね。ですが、近くでたまたま・・・・予想を聞いてしまった場合は致し方ありませんよね」


「強引だな」


「たまたまです。なので、回様たちもあくまで予想をしていただき、私が購入するという形でいかがでしょうか」


 ま、確かに買わずに予想するだけならいいか。

 それを隣にいたアルフレッドさんが偶然も聞いて買うという呈なら問題あるまい。なんなら、婆ちゃんにも来てもらい、アルフレッドさんは他人扱いという手もあるし。


 ちなみに、舟券は“20歳未満の未成年に頼まれて”の場合が罰則なので、頼まれなきゃ合法なのだ。


「分かりました。俺たちに買う意思はない前提で行きますか」

「ええ、当日はお婆様に同伴者になっていただき、私はその日は“他人”となります」

「あとは紺がオーケーを出せばですね」

「回様、どうかよろしくお願いします」


 頭を下げられた。

 仕方ないなぁ。



 ◆



 晩飯が出来たらしい。

 部屋の中で俺、歩花、紺、アルフレッド……そして婆ちゃんと大所帯だ。


 さすがに五人ともなると部屋が窮屈だが、ご飯を食べられなくはない。



「さすがお婆ちゃん! 少ない材料でここまで出来ちゃうなんて」



 珍しく歩花はテンションを爆上げしていた。

 久しぶりにばあちゃんと再会し、しかも手料理も食べられる。嬉しいよな。俺もだよ。


「腕によりをかけて作ったわ。さあ、お食べ」

「うん!」



 みんな割箸を持ち、パリッと割った。


 家庭的なご飯に豚汁、ふんわりだし巻き卵、ハンバーグ、納豆と結構豪華なセットだ。

 俺は、ふんわりだし巻き卵を箸で摘まみ――口へ運ぶ。



「んまぁ! やっぱり、婆ちゃんの卵は最高だな」

「ほっほほ。回、それは歩花の作った料理だよ」

「へ、へえ!」


 まさかの歩花の手作りだった。


「お、お兄ちゃんってば……」



 なんだか恥ずかしそうにする歩花。みんなの目の前だから、照れまくっている。俺も歩花の作ったものとは思わず、ちょっと恥ずかしかった。

 でも、美味いなぁ。


「回お兄さん、あたしだってハンバーグ作ったんですよー!」

「お、紺がハンバーグを!? そりゃ、凄いな」

「焼いただけですけど!」

「焼いただけかよ! まあ、でも凄いよ」


 人は食事をしなきゃ生きていけないからな。

 料理ができるだけで神様だ。


 すべての料理人に感謝を!


 ハンバーグを切って俺は一口いただく。


「ど、どうですか?」

「う~ん、デミグラスソースとのバランスが最高だな。肉汁もたっぷりで俺は好きだな」

「良かったー!」


 紺は嬉しそうに微笑む。

 俺は思わず、その表情にドキッとした。

 か、可愛いな……。


 さて、そろそろ『競艇』について話すか――。



 俺はみんなに明日のことを打ち明けた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る