キスの条件
再び電車に揺られて
そのまま駅を出ると狐塚がくるりとこちらを向く。どうしたんだ?
「回お兄さん、歩花ちゃん。今日はありがとうございました! わたしは、ここで帰りますね」
「いや、待ってくれ。家とは連絡ついたのか?」
「ええ。穂高駅に迎えに来て貰っていますから、ご安心を。ほら、直ぐ来ました」
停車する超高級車。
これはロースロイスの『ファントム』じゃないか!
「お嬢様、お迎えに参りました」
「ありがとう、アルフレッド。それと、こちらの方々は御友人です」
「おぉ、これはお嬢様の……いつもお世話になっております。歩花様、それに……」
執事が俺を優しい目で
こんな
「俺は、
「そうでしたか。昨晩は泊めていただいたようで、保護して戴き感謝いたします」
「いえいえ、歩花の友達ですし、当然ですよ」
「それでは、私とお嬢様はこれにて」
丁寧に頭を下げる執事のアルフレッド。狐塚ちゃんを先に車に乗らせ、ドアを閉めた。そうして車は去っていく。
最後まで手を振って別れた。……なんかとんでもない光景だな。
「す、凄かったね、お兄ちゃん」
「さすが、
「う、うん。紺ちゃん、あんまり自分の事を話さないからね」
「なるほど。多分、狐塚ちゃんは普通の暮らしを望んでいるんだろうな。そうでなきゃ、わざわざバイクの免許は取らないだろうし」
「そうだね、バイクで日本一周とかしたいって言っていたし、多分そうなのかも」
いいね、バイク女子は貴重な存在だし、モテるぞ~。実際、俺もかっこいいと思っているし、一緒にツーリングとかしたら楽しいだろうな。
――そんなこんなで家へ向かった。
帰り道、歩花はずっと歩きスマホをしていた。フラフラして危険だし、マナー的のよろしくないのだが――まあ、俺が誘導していたし、いいけどさ。
帰宅後、まだ歩花はスマホを弄っていた。
「ちょっと、歩花。帰ってからもソファに寝そべって……だらしないぞ」
「だってお兄ちゃん、お仕事忘れてるから歩花が代わりにやってあげてるの」
「お仕事?」
「うん、オータムのレビューだよ~。だから今、お店のレビュー書いてる。あとツブヤイターでもつぶやいてる」
チラッと歩花のスマホを覗くと、詳しく書かれていた。そうだったな、先輩に約束しておいて忘れていた。……って、ツブヤイターも?
「なあ、歩花。ツブヤイターでは何をつぶやいた?」
「お兄ちゃんとえっちな事しましたって♡」
歩花のツブヤイターは、俺もフォローしているはず。そんな過激な投稿内容は流れて来ていないぞ!
「俺、歩花のつぶやき見れないんだけど?」
「うん、だってお兄ちゃんは“ブロック”してるもん」
「はぁ!? なんで!?」
そんなあ、酷い。道理で最近、歩花のつぶやきが流れて来ないと思ったよ。
「ごめんね」
「どうしてさ……歩花! 俺をブロックする必要はないじゃん。酷くね? 他のフォロワーにはえっちな画像とか流してるのか!?」
「う~ん、谷間とかフトモモくらいかなー」
やばい、歩花のツブヤイターがいつの間にか裏垢女子っぽくなってる! これは直ぐに止めねば、怪しいおじさんから、
正さねばならない、兄として。
「歩花、今すぐツブヤイターは止めなさい。えっちな自撮りも禁止だ! そういうのは、お兄ちゃんだけに送りなさい」
「じょ、冗談だよ。怒らないでお兄ちゃん。そんなえっちな画像とかつぶやいてないし、ブロックもしてないから」
「へ!?」
……冗談かよ。
どうやら、一時的にフォローを外されていただけらしい。でも、酷いよぉ。ちょっと悲しんでいると、歩花が俺の頭を撫でる。
「そういうのはダメって、お父さんに言われてるもん。それに、フォローしているの同級生とか先輩とかだけだよ。安心して」
「親父かよっ! まあ、でも良かったよ。頼むから、お兄ちゃんもフォローしてくれよ?」
「う~ん……どうしよっかな」
悩む仕草を見せる歩花。
なんでそんな
「あ、歩花……まさか、フォロワーに気になる人でもいるとかじゃないよな」
「そういえば、車中泊のことをつぶやいたら、すっごくリプくれた人がいたの。いっぱい楽しいこと教えて貰っちゃった」
「え……」
俺以外の男に楽しいことを教えて貰った?? 誰だよ、そいつ! 許せねえっ!
「まあ、お兄ちゃんなんだけどね」
「って、俺かーい!」
俺だったわ。そや、歩花が学校に行っている時にリプしたな。他の男じゃなくて良かったと
どうやら、親父のようだな。
「もしもーし、お父さん~?」
『久しぶりだな、歩花。回とは
「うん、わたしとお兄ちゃん、すっごく仲良いもん。ラブラブだよ~」
『そうか、なら安心だ。今、父さんと母さんもラブラブさ~、はっはっは!』
どうやら、親父の方も母さんと仲良くやっているようだな。既にドバイに到着して
「お土産よろしくね~」
『ああ、八月末には帰ると思う。それまで二人で仲良くやるんだぞ』
「うん、こっちも旅行に行くから」
『おぉ、そうか! まあ、大人の回がいれば大丈夫だろう。歩花、襲われそうになったら直ぐに父さんに言うんだぞ!』
「大丈夫だよ~。お兄ちゃん、優しいもん」
『そうだな。間違いは起こらんだろう! じゃあ、また連絡する」
「うん、またね~」
そこで電話は切れた。
ていうか何言ってんだ、親父のヤツ!
「歩花、とりあえず……」
「うん?」
「ツブヤイターをフォローしてくれ」
「分かったけど、お兄ちゃんからキスしてくれる? そしたらフォローする」
「本当か」
「ほんと。はい……どうぞ」
俺は歩花の肩に手を置き、そっと口を近づけた。そして、ゆっくりと唇を重ね合わせ、しばらく甘い時間を過ごした。
「……こ、これでいいだろ」
「うん。
――なッ! ハメられたぁー!!
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