メダルゲームの勝敗と危険な和室
気づけばメダルゲームで二時間遊んでいた。
「ふぅ、遊び疲れたな。歩花、すげぇ連チャンしてたな」
「ずっと大当たりしてた。メダルのカップがこんなにいっぱい!」
十個はタワーになっていた。
一カップに大体500枚ほどは入るようだから、単純計算で5000枚!?
メダル落とし“プッシャー”をプレイしていた紺と安曇野チームは――お、結構あるな。
「こっちも終わったよ、回くん」
「安曇野、メダルが凄く増えているな」
「ふふ、私これでも常連だからね。メダルゲームはよく遊んでいるのよ」
手慣れているわけだな。
これは勝敗が分からんぞ。
メダルは、カウンターで預けられるのでそこで枚数をカウントしてもらう。
受付のオバちゃんに“預けたい”と申し出ると記入用紙を渡されて、それに名前やら住所を書いた。それからメダルが機械に通されて枚数が計測されていく。
「結果が楽しみだね、お兄ちゃん」
「勝利を信じたいところだが、向こうのチームも中々多いからな」
俺の方の精算が完了。
今度は紺と安曇野の方が始まった。
――数分後。
ゲームコーナーは閉店。
お店の前で結果発表となった。
「回お兄さん、自信満々ですね!」
「まあな、こっちには幸運の女神様がいたからな。でも、紺もジャックポットを当てて大量のメダルを落としていて凄いじゃないか。メダルゲーム得意だったんだ」
「これが初めてです。でも、安曇野さんの指示が的確だったので、おかげで楽しく遊べました」
そうか、やっぱり安曇野か。強敵だなぁ。だけどまだ勝敗は分からない。
「では、俺から発表する。獲得した枚数は――6223枚」
「「「おおぉぉ!!!」」」
女子全員がその結果に声を上げた。
次に安曇野が俺の前に立つ。
「じゃあ、こっちも。獲得した枚数だけど……6205枚」
な、なんと
ほぼ同じ枚数だったのか。
あっぶねえ!!
「やったー!! お兄ちゃん、わたしたちの勝ちだよー!!」
飛び跳ねて喜ぶ歩花は、俺に抱きついてきた。俺も歩花をぎゅっと抱きしめる。
やっぱり歩花は、宝くじを当てたり幸運の女神だな。
「うわぁ、マジですかぁ……ショックぅ」
紺はその場に崩れ落ち、両手と両膝をつけた。結構自信あったんだろうなあ。
「私も悔しいわぁ。回くん……ていうか、歩花ちゃんが強かったわ。ビッグボーナス当てすぎでしょ! 二十連はしてなかった?」
「その通りだよ、安曇野。俺はほとんど当たりを引けなかった。でも、歩花はずっとボーナスを引き続けていたからな」
「くぅ! 悔しい! でも、約束は約束だね。ジュース買ってくる」
「いいのか、安曇野」
「うん、約束だからね。あと……脱ぐから」
「へ?」
今最後の方なんと言ったんだ?
けど、安曇野はニカッと笑うだけで自販機の方へ行ってしまった。紺も安曇野の背中を追い駆けていく。
なんて言ったんだろう。
* * *
勝利のジュースを受け取り、いよいよ部屋へ戻る。
「安曇野は、素泊まり?」
「うん、個室のね。二階、三階にあるテレビ付リクライニングチェアーとか仮眠室で泊まるという手もあるけどね。さすがに女の子ひとりで泊まると危ないから」
聞いたところによれば、男女関係なく他の客も寝るらしいから、盗難被害があったり他人のイビキで寝れなかったりなど、料金が格安な分デメリットも多いという。
あくまで仮眠と考えた方がよさそうだ。
となると、確かに安曇野ほど若い女子が一人で利用は危険だな。
「そうか、もし困った時があったら言ってくれよ」
「うん、ありがと。じゃあ、私は部屋に戻るよ。歩花ちゃんと紺ちゃんも、今日はありがとね」
歩花と紺を抱き寄せる安曇野。
「わっ、安曇野さん! うん、わたしも楽しかったよ。長野も案内してね」
「歩花ちゃんは良い子だねぇ! こんな妹が欲しかったわ。……胸も大きいし」
だから、最後いったい何をボソッと!?
「安曇野さん、あたしもあたしも!」
「うん、紺ちゃんも良い子! さっきのメダルゲームでは才能を感じたし、私の弟子に認定するわ」
「わーい! 安曇野さん、ありがとぉ」
なんだかんだ仲良くなったようだな。
良かった良かった。
これで気兼ねなく明日からは安曇野も同行できるかな。
* * *
安曇野とは別れ、和室へ戻った。
すると、すでに布団が敷かれていた。
少し驚いたが、調べたところ健康ランドのスタッフがセットしてくれるらしい。
とりあえず、俺は真ん中の布団へ寝転がる。
紺は、既に布団の上でゴロゴロしてスマホを弄っていた。俺も同じようにネットで世界情勢を取り入れていた。
「台風は完全に過ぎ去ったらしい。良かった、これでもう安心だな」
「そうですね、回お兄さん。これで旅が続けられます」
「ああ。明日は安曇野に案内してもらおうと思うよ」
「はい、あたしも最後までついていきたいです……」
眠たそうに紺は言った。
だいぶお疲れだな。
もう半分寝かけているし。
そんな風にまったりしていると、トイレへいっていた歩花が戻ってきた。
「お兄ちゃん、もう眠いよぅ」
口元と押さえ、あくびする歩花。
そうだな、もう良い時間だ。寝よう。
――って、紺はもう寝ちゃった。いつの間に。
しかも、布団も掛けずになかなかの体勢で眠られていた。これはちょっと女子としてどうなんだって寝相だぞ。
「歩花、紺が寝ちゃった」
「紺ちゃん、寝るの早いからねー。もぉ、こんな変な寝方して」
歩花が紺の体を丁寧に直し、布団を掛けてくれた。
その後、歩花も自分の布団へ入った。
「今日は楽しかったな」
「……うん。移動は大変だったけど、松本城は大きくて綺麗だったし、喫茶店のコーヒーとケーキは美味しかった。夜はこの健康ランドで皆とゆっくりできて幸せ」
「皆と一緒でよかっただろ?」
「うん。家族っぽくて楽しい。わたし、はじめて大人数だったから……嬉しかった」
そうだな。俺の家に来る前の歩花は家族旅行なんて一度もしたことないはず。だからこそ、俺が歩花を幸せにしてやるんだ。
もう絶対に不幸にはしない。
そう決めたから。
「こっちおいで歩花」
「……うん」
ごそごそと移動してくる歩花は、俺の胸の中に顔を埋めた。
「今日の歩花は、温泉の良い匂いがする」
「いつもと違うシャンプー使ったから……なんか変かな」
「変じゃないさ。頭、撫でていいか?」
「いいよ。わたしの髪に触れていいのはお兄ちゃんだけだもん」
ゆっくりと丁寧に黒髪に触れる。
もう何度も触れているけど、触り心地が最高級の絹のようだった。どうして、こんなモコモコのツヤツヤなのだろう。
女の子の髪って、凄い質感だなぁ。
「歩花は可愛いなぁ」
「えへへ。そうだ、紺ちゃん寝ちゃってるし……シちゃう?」
「え?」
「一応、持ってきたんだよ」
歩花の胸元には、あってはならない大人の風船が挟まっていた。
ちょ!!
そんなところに!!
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