朝食バイキング

「だめだ、歩花。それは没収だって言ったろ」


 俺は、震える手で歩花の胸元に手を伸ばす。



「……お兄ちゃんのえっち。歩花を襲うの?」



 取ろうとすると、歩花は頬を赤くして涙目で言った。その表情は卑怯すぎるだろう。てか、襲って欲しいみたいな態度を取ったのは歩花の方じゃないかっ。



「ず、ずるいぞ。嘘泣きはやめろって……心臓に悪いから」

「ごめんね。でも、シたかったなぁ」

「だめだ、紺が寝ているんだ。起きたら大変だ」


「ねえ、お兄ちゃんって誰かとそういう経験あるの」

「んな……! いいから寝ろ」



 もうこれ以上は興奮して寝られなくなる。

 誤魔化すようにして俺は、歩花に布団をかぶせた。そして、俺は背を向けた。


 もうこうするしか方法がないんだ。


 ――けれど、背後にぬくもりを感じたんだ。歩花の……体温だ。あたたかい。



「ねえ、お兄ちゃん……星空綺麗だね」

「あ、ああ……」



 広い窓の外には満天の星空。

 天の川銀河ミルキーウェイに散らばる星が煌々こうこうと輝く。そうか、長野って標高があるし田舎だから、星がこんなに綺麗に見れるんだ。知らなかったな。


 歩花と共に見上げる夜空。

 なんて幸せな一時なんだろう。


 気づけば、歩花は寝ていた。

 おやすみ、歩花。



 * * *



 ピピッとアラームが鳴り、目覚めた。

 寝惚けた頭で俺は起床し、周囲を見渡す。


 すると――



「……へ、お兄ちゃん!?」

「あ、回お兄さんってばタイミング悪ッ!」



 なんと目の前には下着姿の歩花と紺がいた。二人とも私服に着替えている最中だったのだ。



「うわッッ!! 二人ともその俺、今起きたからさ!! ごめん!!」



 布団を被り、視界をさえぎった。……うわぁ、一瞬とはいえ二人の、女子高生の生着替えを見てしまった。



「もう大丈夫だよ、お兄ちゃん」



 布団を剥ぎ取る歩花。俺は改めて二人を見て安堵した。……ほっ、着替え終わったか。女子と一緒に泊まるとこういうトラブルはつきものだけど、突然やってくるとさすがの俺もビビる。心臓に悪いなぁ。



「歩花も紺も悪い。覗くつもりはなかったんだ」

「いえいえ、回お兄さんは寝起きだったんですし、わざとじゃないんでしょ?」

「当然だ。ガチで起きたばかり。信用してくれ」

「もちろんですよ。あたしも歩花ちゃんもお兄さんを信じていますもん。そうでなかったら、一緒に泊まるなんてしません」



 紺がそう言ってくれて、俺はホッとした。旅行で険悪になるのは、一番まずいこと。俺は過去に家族旅行でやらかしたことがるからな……。

 もうあんな居心地の悪すぎる地獄を味わいたくない。



「ありがとう、紺。それに歩花も」

「ううん。それより、バイキングへ行こ!」

「バイキング?」

「うん、朝食バイキングがあるんだって。ねえ、紺ちゃん」


 紺も「行きましょ、回お兄さん」と目を輝かせた。確認すると一名1100円という割と格安で食事できるらしいことが判明した。



 俺も着替え、みんなで部屋を出た。



 どうやら、10階に朝食バイキングのレストランがあるようだ。

 エレベーターに乗り上の階層へ向かうと本当にあった。


 そこでリストバンドを通せばオーケー。あとでまとめて支払えばいいらしい。


「わぁ広くて、もう他の人もいるね」

「そうだな、歩花。テーブル席20卓、80名まで座れるようだぞ」

「おぉ~!」


 お皿を取り、さっそく並べられている料理を選定する。


 卵焼き、鮭、海苔のり、ご飯、カレー、味噌汁、ウインナー、ベーコン、ハム、唐揚げ、サバ、刺身、豆腐、信州蕎麦、野菜、漬物、シューマイ、餃子、フライドポテト、ハッシュドポテト、オムレツなどなど、飲み物もオレンジジュースや牛乳などなんでもあった。


 種類がありすぎて悩むなぁ。


「どうしましょう、回お兄さん! こんなにいっぱいあると全部取っちゃいそうです」

「分かる。全部食べたいよな。けど、胃袋に限界があるからなぁ」

「ええ、それに食べ過ぎると動けなくなっちゃいますし、太っちゃいますし……」

「いや、紺はもっと食べた方がいいと思う。せすぎだ」

「そ、そうですかぁ? もっとムチムチしている方が回お兄さんは好みです?」


「ま、まあ……」



 歩花のふとももを盗み見ながら言った。すると、当然紺に気づかれてしまう。



「あ、回お兄さん……そういうことですか。分かりました。食べてむっちりになります!」

「え……無理しなくても」

「いえ、食べてもっと大きくなります。胸ももっと欲しいですし、牛乳も飲まなくちゃ」


 歩花に対抗心を燃やす紺は、次々に料理を取っていく。あんなに山盛りにして食べられるのかなぁ。



「歩花は、なにを取る?」

「う~ん。わたしは卵焼きが好きだから、これと~カレーもいっちゃおうかな」

「朝カレーいいよなぁ。よし、俺も」



 ご飯を取り、その上にカレーをかけていく。

 必要な料理を取って、空いているテーブルへ向かった。取りすぎて食べ残しもマナー的によくないし、必要な分だけでいいだろう。


 バイキングだから後でも取りに行けるし。



 俺は席に座る。

 今日も隣は歩花。

 正面に紺となった。



「「「いただきま~す」」」



 さっそく箸を持ち、朝食を頂こうとするのだが――。



「それにしても、紺は取りすぎじゃないか。そんなに食べられるのか?」

「ウインナー、ベーコン、フライドポテトなどなど好物ばかりなので大丈夫です」



 にしたって山盛りだなぁ。

 紺って朝からそんな脂っこいものを食えるのか。凄いな。


 俺はというと――紺と似たようなものだけど。男の俺は、ついつい取っちゃうのだ。


 対して歩花は、ちょっと質素すぎるけど元々食べないので仕方ない。すでにカレー美味しそうに食べているし、幸せそうだしヨシとしよう。


 そうして朝食を楽しんでいった。

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