情熱的で激しいキス

 キャンピングカーの中にはトイレも完備。これはもう動く家だな。俺は、椎名先輩からカギを貸して貰った。


「それじゃ、ごゆっくり。十八時までには返してね」

「了解しました。ありがとうございます、先輩」

「いえいえ」


 笑顔で去っていく先輩を見送った。これでしらばく、キャンピングカーで快適な生活を満喫できるな。


「せっかくだから、少し移動しよう。歩花、狐塚ちゃんシートベルトを着用してくれ」


「おっけ~!」

「分かりました~」


 俺は運転席へ向かい、発進準備を整える。でかくてゴツイから、さすがに緊張感が増し増しだ。上手に運転できるといいんだけどなぁ……。


 エンジンを掛け、いざ出発。


 当然だけどアクセルを踏むと進んだ。……重いなぁ。さすがに車体が大きいだけあって加速がなかった。ゆっくりとスピードを上げていくキャンピングカー。唸り声のようなエンジン音を鳴り響かせて道路へ出た。



 ――目的地はそうだなぁ。



 うん、ここから十五キロ先にある河川敷にしよう。そこはキャンプ場もあるし、車中泊目的で駐車場に停める人も多いと聞く。あそこなら問題ないだろう。


 記憶を頼りに道を進んでいく。どんどん進み、河川敷が見えてきた。道に逸れて、川の方へ向かっていく。ちらほらと家族連れの先客が見えていた。


 隅の方が空いていたので、そこへ停めた。――到着っと。



 車を停め、部屋へ向かった。



「二人とも無事か~?」



 扉を開け、中へ入ると狐塚が目を回していた。顔が青いな。



「お、お兄ちゃん大変! 紺ちゃん、乗り物酔いしちゃって倒れちゃった」

「マジかよ! まさか酔っちゃうとはな。俺の運転が下手すぎたか」

「ううん。違うみたい。お兄ちゃんの運転はタクシーみたいな安定感があるもん。紺ちゃんは、元から車が苦手みたい。だから、バイクの方が好きなんだって」


 そういう理由か。

 バイクが好きなのも、この乗り物酔いが起因しているのだろうな。


「……ご、ごめんなさい。しばらく寝かせてください……」

「分かったよ、狐塚ちゃん。このキャンピングカーは『バンクベッド』と『リアベッド』が備え付けられているから、どっちにしようか」


「ど、どっちでもいいですぅ~…」



 考えている余力はなさそうだな。一番近い、リアベッドにしておこう。一番後ろにもベッドがひとつあり、女の子なら余裕で横になれるスペースがあった。

 歩花に頼み、狐塚ちゃんを連れていって貰った。


「寝かせるね、紺ちゃん」

「うん……」


 狐塚を寝かせ、カーテンをした。

 しばらくは休憩してもらおう。


 数分後には、寝息が聞こえた。

 どうやら寝てしまったらしいな。


 仕方ないので、俺と歩花でキャンピングカーを楽しむ。まずは冷蔵庫に入っている水を貰う。椎名先輩が冷蔵庫のモノも好きに飲んだり食べたりしていいと言ってくれたので、遠慮なく使わせてもらう。


 Snowスノー Parkパークのチタンマグに水を注ぎ、歩花にも手渡す。



「ふぅ、しっかし……良いキャブコンだな」

「きゃぶこん?」


 水を飲みながら歩花は、ハテナを浮かべた。


「キャブコンバージョンの略だ。運転席の方はトラックとかハイエースで、残りを居住スペースにした車の事を言う」


「そういう意味なんだ。本当に広くて快適だね。エアコンもついているとか、家のリビングの環境と大差ないよ」


「そこがキャンピングカーの凄いところだ。あの巨大なチタン酸リチウムバッテリーで家電が動かせちゃうんだからな。他にも電子レンジやケトル、IHクッキングヒーターも使えるようだぞ」


「でも、バッテリー持つの?」


「この車の屋根ルーフには、六枚のソーラーパネルがついている。今も800ワットほどで充電されているようだぞ。これなら余裕で過ごせるな」



「キャンピングカーって本当に凄いんだね。家いらないじゃん……!」

「これがあれば、どこへ行っても不便がない。災害時も寝泊まりできるし」



 地震大国の日本だからこそ、備えればなんとやら。非常事態時、この環境があれば、まず困らないだろう。


 いつかは、このレベルのキャンピングカーを手に入れたいと考えていると、歩花がスマホを取り出した。パシャパシャとカメラで車内を撮影していた。


「記念撮影しておこうかなって」

「そうだな。滅多に乗れないだろうし、歩花に写真を任せるよ」

「うん、いっぱい撮っておくね」


 歩花は周囲を撮影していく。

 あちらこちらを撮って、最期にバンクベッドへじ登ろうとしていたけど背が足りなくてかかとを上げて“う~ん”とうなっていた。可愛すぎか!


「上に登りたいのか?」

「う、うん。届かなくて」


 仕方ないなぁと俺は、歩花の腰に手を添えた。すると、歩花はビクッと身を震わせた。


「大丈夫か?」

「……お、お兄ちゃん。そこ……」

「そこって腰じゃないか」

「び、敏感なの」



 そういえば、そうだったな。この前、気絶していたし。仕方ないので先に俺が上がり、歩花の手を引っ張った。


「ようこそ、バンクベッドへ」

「バンクベッドって、運転席の上にあるんだね。高さもあって……なんか変な感じ」

「でも広くて快適だろ~。二人くらいは余裕だ」


「うん、寝っ転がってもへっちゃらだね」


 少し息を荒くする歩花は、俺を押し倒す。――って、押し倒された!?


「あ、歩花……!」

「お……お兄ちゃん。えっちな妹でごめんね……もう、我慢できない」


「へ……歩花!?」」



 いきなり唇を奪われ、熱いキスを受ける。……な、なッ! なんか凄く気持ちがもっているし、情熱的で激しいキスだった。歩花、エロすぎるって……。



「はぁ、はぁ……」



 息を乱す歩花の目は、恍惚こうこつとしていた。俺も頭がぼうっとして、どうかなりそうだった。



「狐塚ちゃんが寝ているんだぞ……歩花、ここまでにしておけ」

「だって、お兄ちゃんが悪いんだよ。他の女の子ばかりで……ばかりで……」


 寂しそうに、というよりは死んだ目で歩花は不満を漏らす。なんか、怖いぞ……。


「そ、そんな事はないって。たまたまだ」


「ホントに? じゃあ、証明して?」

「ぐ、具体的に教えてくれ」


「歩花をぎゅっと抱きしめて……キスして。唇だけじゃなくて、首筋とかおへそとかも」


 甘えるような声で歩花は抱きついてくる。俺は……。

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