整備士のお姉さん
電車に乗り、隣町を目指す。十分程度で到着して駅を出た。笹山駅を出て徒歩で向かっていく……。陽射しがきついけど、なんとか『オータム』に辿り着く。
そのまま事務所を目指して、中へ。……おぉ、エアコンが利いていて涼しい。汗が吹き飛ぶようだった。
「生き返る~」
「涼しいねえ」
歩花も狐塚も冷風に当たっていた。外は死にそうなほど暑いし、
正直、出掛けるよりも家で冷房ガンガンにて過ごす方がいいのかもしれない。だが、あえて車という選択を取った。
ついでに俺の軽キャンピングカー『インディ272』がどうなっているかも確認したかった。
「すみませーん。先輩、いますかー!」
俺が叫ぶと奥で物音がした。以前もだけど何をしているんだろうな。
「いらっしゃいませー…って、回くん!?」
「おっす、椎名先輩。早くもやって来ました」
「やって来たって、あのね……まだ整備まで二日あるのよ。まだ引き渡しはできないわよ」
「承知していますよ。今日は“試乗”に来たんです。他のキャンピングカーを借りてもいいです? ちゃんとSNSでお店と車をレビューしておくんで」
そう、俺はインディ272の状況を知るついでに、オータムで試乗をしようと考えていた。大型のキャンピングカーともなれば、エアコンが標準でついているし快適に過ごせるはず。
「そういう事ね。まあ、試乗ならさせてあげるわ。でも先に、インディ272を見ておく?
「はい、お願いします」
「分かった。その前に歩花ちゃん、おはよ。それと……どなた?」
歩花の横に立つ狐塚の存在に、先輩は興味深そうだった。そうだな、まだ紹介していなかった。
「この子は、狐塚 紺ちゃんです。わたしの友達なんです」
と、歩花が率先して紹介してくれた。
「はじめまして。よろしくお願いします」
「へえ、なんだかお嬢様っぽいね! よろしく」
「お姉さんこそ、分かりやすい程にギャルしていますねっ」
「あはは。そうなのよ~。これでキャンピングカーの定員だから、困っちゃうわね。まあ、案内するわ。みんな、来て」
手招きされ、隣の整備室へ向かう。
そこには『インディ272』が堂々と停車していた。まだ整備されているようで、部品があちらこちらに散乱している。
そんな中、車体の下から整備士が現れた。……おぉ、なんか美人が出てきた。栗色の髪をお団子状に束ねているツナギのお姉さんだ。胸元を大胆に開けていて、なんだか大人な感じ。
見惚れていると、先輩が紹介してくれた。
「インディ272を整備してくれている女性メカニックは、あたしの親友で
へぇ、整備士さんは柚というのか。まさか女性だとは思わなかったけど、カッコいいな。
「お初です~。
緩い感じに挨拶され、俺はつい照れた。なんか、おっとり系だなあと思った。
「む……お兄ちゃん、なんかデレデレしてない?」
「な、何を言っているんだ。気のせいさ」
「うーん……」
怪しまれているけど、俺は誤魔化す。
「それより、インディの整備をありがとう。二日後には間に合いそうかな?」
俺は、改めて牧之原さんに視線を移す。
すると、彼女は穏やかに笑う。それから、強い瞳で確かな言葉で宣言した。
「ええ、お任せください。絶対に間に合わせますから」
「なんと心強いお言葉。牧之原さん、頑張って下さい」
「ありがとうございます。お客さんは、見に来ただけです?」
「いえ、これから試乗も兼ねていこうかと」
「なるほど。なら『ひまわり』がおススメですね」
「ひまわり?」
「今年の最新モデルですよ~。最強クラスかもね」
へぇ、そりゃ期待大だな。
牧之原さんと別れ、整備室を出た。椎名先輩に連れられて、外の展示コーナーへ向かう。大きなキャンピングカーがズラリ。この中のどれかを試乗させてくれるようだ。さっき言っていた『ひまわり』を貸してくれるのだろうか。
「それじゃあ、
――と、先輩はトラックサイズのキャンピングカーの前で足を止めた。……デカ! これを貸してくれるのかよ。
目の前には、コンテナサイズはありそうな車があった。こりゃ広くて快適そうだ。これを試乗させて貰えるとかワクワクするな……!
ひまわり号の中へ行くと、そこはもう一室だった。入ると直ぐに現れる四人用の座席、テーブル。綺麗なキッチンには、ギャレーと電子レンジと冷蔵庫が標準装備。少し上を見上げれば『エアコン』があった。おぉ、すげぇ! 家庭にあるようなエアコンじゃないか。
椎名先輩が電源を入れた。すると、すぐに冷気が部屋を涼しくしていた。
「先輩、これ電源はどうなっているんです?」
「良い質問ね。10000Whバッテリーが搭載されているの。それとソーラーパネルが六枚。走行充電もあるから電源は最強クラスね」
俺もだけど、歩花も狐塚も驚くしかなかった。凄すぎるよ、これは。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます