真夏日でも安心!! 最強のポータブルエアコン

 まるでこちらの状況を読んでいるかのようなタイミングで親父から電話が入った。歩花は、困惑しながらも電話に出ていた。スピーカーモードをオンで。


「もしもし、歩花です」

『おぉ、歩花か。お兄ちゃんと楽しく夏休みを過ごしているかい』

「うん。仲良くやってるよぉ。お父さんこそ、お母さんと仲良くやってる?」


『もちろんだ。ラブラブすぎて困っているところさ、ワッハッハ!』


 上機嫌に笑う親父。

 そうか、ドバイだかタヒチだかでよろしくやっているようだな。元気そうでなによりだ。――てか、これなんの電話だよ。生存報告なら、ラインのメッセージで事足りるだろうに、わざわざ電話とはな。


「お父さん、もう切っていい?」


 さすがの歩花もちょっとキレ気味。

 ですよねぇ、俺だったら今の瞬間でブッチしてるところだ。


『すまんすまん。ちょっと回に変わってくれるか?』

「うん、すぐ隣にいるから変わるね」


 面倒くさそうに歩花は、俺に電話スマホの主導権を譲ってくる。うわっ、俺も面倒くせえ。けど、仕方ないな。兄としての責務を果たす。それだけは絶対だ。


「よう、親父」

「久しぶりだな、回。歩花とはもう、えっちなことをしたの――[ブチッ! プープー]」


 などと意味不明な供述をしやがりはじめたので、俺は問答無用で電話を切った。クソ親父め、歩花の前でなんてことを聞きやがるんだ! と、憤慨していると、また着信。悪徳業者かよ。



「この電話番号は現在使われておりません」

『すまん、回。冗談だ』

「俺のボケは華麗にスルーかよ。まあいいわ、次はもう出ないぞ。――とりあえず、こっちは旅に出てる。キャンピングカーの旅だ」


『キャ、キャンピングカーだと? そんな大金、どこで手に入れたんだ。まさか、死体洗いのバイトとかそんな闇バイトか!?』


 なわけねぇ~~~。

 ていうか、しまった。


 両親には、宝くじの高額当選のことは話していないんだった。これは誤魔化す必要があるな。いくら両親でも、高額当選を知ればトラブルの元だ。

 それに、海外にいる二人を心配させたくもないし。



「カーシェアリングのレンタルだよ。それくらいは学生でも出来る」

『なるほど、レンタルだったか。……まあいい。回、お前はもう大学生だ。責任ある大人だ。好きなように生きればいいが、羽目は外し過ぎないようにな』


「おう。そっちのお土産もよろしく。こっちも買っておくからさ」

『分かった。では、もう切るが……尚このメッセージは三秒後に――』


 ぷつっと電話は切れた。

 三秒後になんだよ!?

 怖いな!!


 どうせ何もないだろうけどさ!


 とりあえず生存確認は取れたし、こっちの状況もある程度は伝えられた。これでしばらくは心配もない。



「お父さんもお母さんも元気だったね」

「ああ、母さんは笑い声が聞こえたし、大丈夫だろ。それより、飯にしよう。せっかくの蕎麦そばだし」


「うん、もう完成したよ」


「おぉ、食欲そそる良い匂いだな。天ぷら蕎麦そばとは豪勢だ」

「腕によりをかけたよ。でも、不思議なんだけどこんな真夏日で、車の中なのに全然熱くないね」


 それもそうだ。

 換気扇をちゃんと回しているし、クリップ付きのバッテリー内蔵のミニ扇風機をサーキュレーター代わりに一台回し、更に『ポータブルエアコン』だ。


 椎名先輩にお願いして場所を取らないようなのを工夫して付けて貰った。窓エアコンやスポットクーラーなどに比べれば、かなり小型タイプ。その分、冷却能力もまあまあだが、一番良いと言われている『V12クール』というエアコンを購入した。


 なんとコンプレッサーとコンデンサを分離して車体の下に取り付けているのだ。本来なら、車内スペースを取りまくるのだが、あの整備士の『牧之原まきのはら ゆず』というお姉さんに無理をお願いして、インディを魔改造・・・してもらい、なんとか取り付けてもらった。


 電源は、サブバッテリーを使用。

 消費電力600Wなので、五時間以上は余裕で持つようだ。



 おかげで三十万ほどの費用が余分に吹っ飛んだが――後悔はない。おかげでこんなクソ暑い夏も春のような心地さで生活できているし、汗の不快感がまったくなかった。


 歩花ともベタベタしても問題ないわけだ。



「椎名先輩と整備士の牧之原さんのおかげだな。あのレンジくらいの大きさのエアコンがるだろ?」

「うんうん。あの長方形のヤツがエアコンなんだね。小さな液晶パネルと四つ小型のファンがついてるよね」


 現在、車内の温度は22.5度と超快適。

 外が地獄の35度で猛暑日だというのに、この天と地の差よ。高い金を掛けた甲斐かいがあった。この涼しい環境がたった三十万円で手に入るのなら安いものだ。



「大容量バッテリーのおかげで何時間と持つし、ソーラーと走行充電もされるから、ずっと使えるぞ」

「本当にキャンピングカーって快適で凄いよねっ」


「ここまで整備してくれた先輩たちに感謝だよ。さあ、蕎麦を食おうぜ」

「そうだね、いただきます!」


 100均で購入した使い捨ての“発泡どんぶり”に歩花の作った天ぷら蕎麦が盛り付けられていた。出店で買ったみたいなクオリティだな。売っていてもおかしくない。


 組み立て式の箸を使い、さっそく食していく。


 蕎麦がつゆだくで味がしっかり染みこんでいた。濃厚な味わいが口内に広がり、幸せを感じた。歩花の作ってくれた料理だ、まずいわけがない。



「――んまっ!」

「良かった、口にあって」

「このエビの天ぷらもサクサクじゃないか!」

「それはさすがに、さっきお店で買ったヤツだけどね」

「そうだけど、美味いよ。よし、七味も追加だ」


 俺は、七味唐辛子を振りかけた。

 これで更に味がアップ。


 するすると啜ると風味が変化し、絶妙な甘辛さとなった。うめぇ。


「おいしい~。お兄ちゃん、湖を眺めながらお蕎麦とか最高だねえ!」

「ああ、しかも歩花と一緒に食事できる幸せよ」


「お、お兄ちゃんってば……えへへ」


 歩花は、上機嫌に笑い食事を進めていた。良かった良かった。このエアコンのある環境、最高のキッチン、青い空と湖、山々の絶景。贅沢の極みだな。


 蕎麦を食ったら、次はいよいよ松本へ向かわねば。

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