宝くじの抽選結果②

 残りの数字は三つ。

 全てがそろえば『六億円』の当選となり、人生が変わる。無駄遣いをしなければ一生遊んで暮らせる額だ。就職だってしなくていいかもしれない。いや、世間体を考え、バイトくらいはするけどさ。

 手汗握る状況となった今、出来る事と言えば祈るだけ。


「歩花、続きを頼む」

「うん。改めて確認するけど今は【02】【09】【11】までは一致してる。五等ね」

「おう。次を確認してくれ」


 お願いすると、歩花は親指で隠しているスマホの画面をズラしていく。……さて、どうだ?


「……え」

「ん? 歩花?」

「う、うそ……【19】! 【19】で一致。四等だよ!!」


「マジ……?」



 四つ一致で四等。つまり、五千円はゲットした。お小遣いみたいなものだけど、それでも嬉しい。学生にとっての五千円はデカいぞ。しかも、まだ希望みらいがある。


 あと二個だ。

 たった二つの数字が一致すれば……一等を掴みれ取れる。


 しかし、理論上の確率にして『1/6,096,454』だ。大雑把に言えば600万分の1。たった一通りしかないのだ。これを全部一致させるなんて至難の業。だからこその億万長者だ。二百円の投資が億となるかもしれない。ロマンだな。



「四等まできちゃったね、お兄ちゃん。三等とか二等が見えてきたよ……」

「そ、そうだな。さすがの俺も緊張してきたよ」

「うん。歩花も手が震えてきた。次、見ちゃうね」


 ごくりと息を飲む。

 頼むぜ、三等。

 ここからは確率も極端に低くなり、その分の金額も大きくなる。三等なら三十万円前後の当選となる。頼むぞー!


 祈っていると、歩花は親指をズラした。


 ……どうだ?


 ん?


 歩花の動きが止まった。



「ど、どうした」

「…………やば」

「やば?」


「こ、これって……どう見ても【22】だよね」

「へ? マジ? マジ? マジなの??」


 画面を見せて貰うと――



【02】【09】【11】【19】【22】



 五個一致していた。



 嘘だろ……!?

 信じられん。五個一致? え? えぇッ!? つ、つまり……この時点での当選金額は……!



「さ、三十万円!」



 歩花が震える声でその金額を口にした。うわ、三十万! すご、凄すぎる! 実際には当選口数によって金額が前後するのだが、運が良ければ五十万とかの可能性もある。うわぁ、マジですげぇ……! 三十万もあったら中古車が買えるぞ。



「歩花、やったな!! 三等でも十分すぎるぞ」

「う、うん。わたしも信じられない! でも……まだチャンスあるよ? あと一個一致すれば……二等か一等なんだよ?」



 そうだ、まだ最後の数字・・・・・が残っている。三等の三十万円でも十分すぎる金額だが、あと一個の一致があれば、一等の六億円だ。そうでなくとも、ボーナス数字が一致すれば二等の一千万円。


 夢、希望、運命……どこから来て、どこへ向かうんだろうな――なんて、俺はちょっと動揺して哲学っぽい思考におちいっていた。そりゃそうだ、三十万円でもビビる金額だ。

 普段、一万円を持っていてもハラハラするくらいだぞ。それ以上のお金とか、もう頭が真っ白になる。



 だけど、受け入れなければならない……現実を!



「よし、泣いても笑ってもこれが最後。歩花、確認を頼む」

「う、うん。責任重大だけど、頑張るっ」



 慎重に親指をズラしていく歩花。その表情は、今にも吐きそうな顔をしていた。……気持ちは分かる。俺も耳がキーンとなって、眩暈めまいさえ起こしているからな。


 ゆっくりと歩花の指が動き出す。


 ……頼む。


 どうせなら、二等。

 どうせなら、一等。


 来てくれ、来てしまえ……!



 高鳴る心臓の音。

 バクバクと音が響き、歩花の声が聞き取り辛かった。……えっと、なんて言っている?



「歩花……?」


「……どうしよう」



 どうしよう?

 歩花は、頭を抱えて取り乱していた。パニック映画さながらの大混乱だ。俺は、さっきから耳がおかしくて、よく聞き取れなかった。



「お、教えてくれ……最後の数字はなんだった……?」


「33」


「…………え」


「33だった。ほら、この画面を見て!」



 宝くじ公式ウェブサイトの抽選結果には、こう数字が羅列されていた。



【02】【09】【11】【19】【22】【33】


 一等:600,000,000円 1口

 二等:16,000,000円 3口

 三等:430,000円 220口

 四等:7,500円 13406口

 五等:1,000円 211129口


 ※次回キャリーオーバーなし



「……全部、一致した?」



 どう見ても一等の六億円・・・・・・だった。念の為、他のサイトや新聞でも確かめた。……あぁ、間違いない。これは一等の当選だ。



「一等だよね? 一等なんだよね……?」



 歩花も信じられず、ただただ困惑していた。何度も何度も数字を見比べたけど、一致。全部一致。歩花の買った数字が一等だったんだ。



「これは……一等だ」



「お、お兄ちゃん……!!」

「歩花!!」



 ようやく実感がいて、喜んだ。歩花があまりの歓喜に飛び込んできた。俺は強く抱きしめた。



「やった! やったね、お兄ちゃん!! 人生、変わっちゃったよ!!」

「ああ、ああ……! 全部、歩花のおかげだよ。まさか、一等が当たっちゃうなんてな! これで贅沢しまくれるぞ!!」


「うん、うん! いっぱい旅行とか行こうねっ」



 歩花が猪突ちょとつ猛進もうしんして抱き着いてくる。お前はイノシシか! と、思わず心の中でツッコム。


 ――あぁ、本当に、この瞬間に人生が変わったんだ。



「お前のおかげだ、歩花」

「ううん。お兄ちゃんがお金を出してくれたおかげ。感謝してる。だからね」



 かかとを上げ、背伸びする歩花は顔を近づけて来て――俺の唇を奪った。唐突とうとつなキスに、俺はビックリして更に混乱した。


 ……歩花!?

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