宝くじの抽選結果①

 気持ちの良い日差しが俺を目覚めさせた。起き上がろうとするけど、体が妙に重かった。……あれ、なんか布団の上に重みが――って。


「歩花がいたんだった……」


 目の前にはまだ眠りこけている歩花がいた。ほぼ目の前に唇。こ、これはちょっと早朝から刺激が強い。

 ドキドキしながら、俺は歩花を起こす。


「ん~…。お兄ちゃん、どこ触ってるのぉ……えっちぃ」

「なッ! 体をすっただけだ! 変なところは……あ、寝言か」


「……すぅ、すぅ」


 歩花はまだ寝息を立てていた。気持ちよさそうに寝ているし、起こすのも悪いか。俺は、こっそりベッドから抜け出した。


 そのまま部屋を出て、洗面所へ。顔を洗い、朝風呂にでも入ろうかなと思った矢先、スマホが激しくバイブした。


 ブゥンブゥンとしついこ程に振動し、俺はビビった。画面を確認すると、そこには【親父】の文字。――なんだ、親父かよ。


 俺は、渋々しぶしぶながら電話に出た。



『――おぉ、かいか。元気にやっているか』

「親父こそ、海外旅行じゃなかったのかよ」

『まだ空港さ。これから飛び立つので、しばらくは連絡できない』

「そうか。母さんとよろしく」

『ああ、母さんとはラブラブやっているよ』

「分かった、分かった」


 別に、二人の仲なんて聞きたくもなかった。さっさとドバイでもタヒチでも行きやがれ。



『そうだ、電話を切る前に言っておく』

「なんだ?」

PoyPoyポイポイへ生活費を送っておいた。確認しておくんだぞ』

「せんきゅ。じゃあ、また向こうでラインでもしてくれ」

『さらばだ、我が息子よ!』



 ――ガチャッと、そこで電話は切れた。相変わらず、独特な世界観を持つ親父だ。それより生活費だ。お金がなければ、この長い夏を乗り切れない。俺は、アプリを起動して送金額を確認。


「ん?? まて、たったの三千円・・・!? これでどう生活しろっていうんだ、あのバカ親父!」



 子供のお小遣こづいじゃあるまいし、酷いなぁ。結局、自分で何とかしろって事じゃないか。……忘れていた。あの親父はそういうヤツだと。


 落とし物をしたようなショックを受けていると、歩花が起きてきた。



「おはよー、お兄ちゃん」

「おはよう、歩花。眠そうだな」

「……うん。途中起きて、お兄ちゃんの寝顔を見てたから」


 ――と、ぼけぼけっとした顔で歩花は洗面所へ向かった。な、なんだって……歩花のヤツ、俺の寝顔を観察していたのか。それで寝不足って……。



 ホットサンドメーカーを使い、サクサク、モチモチの『クロックムッシュ』を作った。材料にホワイトソース、ハム、とろけるチーズ、パセリをはさんだものだ。これを四分で焼く。するとピザのようなホットサンドが完成する。


 チーズがトロトロで美味い。


「はい、歩花の分。ホットコーヒーも」

「ありがとう。それにしても、お兄ちゃんって、そういう料理は出来るんだね」

「あぁ、いつか車中泊をする機会もあるだろうと思って、最低限の料理はできるように参考書の内容を頭に叩き込んである」


「お兄ちゃんって、そういう趣味系になると記憶力とか凄いよね。尊敬しちゃう!」


 人間、不思議なもので“趣味”となると覚えが早いし、なぜか忘れない。だから、特定の料理なら可能だった。



「今日も上出来だな、クロックムッシュ」

「ハムとチーズのバランスが最高だね。これクセになるぅ」



 ホットサンドメーカーを開発した人は天才だな。パンと具材をプレートに挟み、焼けばいいだけだし、誰でも調理できる。


 俺は歩花の幸せそうな表情を脳に焼き付けながら、口当たりの良い微糖コーヒーを味わった。そんな至福の中、歩花が何かを思い出したようだった。


「ん、どうした?」

「そういえば、ロム6の結果を見てない。お兄ちゃん、ちょっとスマホで確認しちゃうね」


 テーブルの上に放置されていた『宝くじ券』を手にし、歩花はネットで抽選結果を探っていた。どうせハズレか当たっていても五等くらいだろう。


 五等・千円、四等・五千円、三等・三十万円、二等・一千万円、一等・二億円。ただし、一等はキャリーオーバーが発生すれば、最大六億円。ちなみに、キャリーオーバーは前回に一等の該当が“なし”の場合、当選金額が次回分に繰り越される仕組みの事らしい。だから、最大六億円になる。


 今は、ちょうどキャリーオーバー発生中だった。大チャンスだ。


 今回、歩花が買った金額が千円。一口二百円なので、五口だ。番号も見せてもらった。



【01】【19】【23】【27】【42】【43】

【02】【05】【08】【34】【38】【39】

【02】【09】【11】【19】【22】【33】

【07】【15】【21】【29】【31】【33】

【09】【12】【13】【18】【19】【41】



 どうやら、自選とクィックピックQPが混じっているようだな。最後の列だけQPだった。


「なんだ。結局、QPでも買っていたんだな」

「だ、だって……誕生日しか思いつかなかったんだもん」



 そういえば、誕生日買いだったな。だけど、こういう誕生日買いでの高額当選が世界的に見ても出ている事実がある。果たして、俺たちに幸運の女神が微笑むのだろうか。……なんて、淡い期待をしてみる。



 歩花は、ようやく抽選結果のページに辿り着いたようでチェックしていた。一個ずつ丁寧に。一列目、二列目は手応えなし。三列目になると歩花の顔色が変わっていく。



「どうした、歩花」

「えっと……あのね。数字が一致しているの」

「何個?」

「今……三つ。だから、五等の千円は当選したよ。でもね、この後も続くかも」

「お、おぉ……まさか!」


 ごくりと息を飲む。五等が当選しただけでも喜ばしい事だが、まだ続きがある。



「次も見ちゃうね。……あ、当たってる」

「マ、マジィ!? これで四個一致で四等だぞ。このまま五個一致すれば三等。ボーナス数字が入れば二等。全部一致なら一等で……六億だぞ!」


「や、やばいね! でも、まだ分からないし、続きを見るね」


 やっべー、手が震えて来た。

 歩花も落ち着かない様子でソワソワしていた。こうなったら、せめて三等を取りたい。俺は祈った――!

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