えっちな甘噛み

 一緒にお風呂にかり、静かで幸福な時間が流れていた。歩花をまたはさみ、入浴。なんて贅沢な一時なんだろう。


「もうニ十分くらいかったし、そろそろ出るか?」

「うん。わたしは髪洗ったりしたいから、お兄ちゃんは先に上がって」

「あぁ、そうか。女の子は色々あるもんな」


 俺は立ち上がり、風呂を後にした。

 脱衣所で着替えて――そのままリビングへ。スマホで動画投稿サイト“ヨーチューブ”を閲覧。俺は、車中泊系のヨーチューバーをチャンネル登録していた。それを見るのが日課になっていた。


 今日は、軽キャンピングカーで全国を旅している人の動画を閲覧。どうやら、奥さんと一緒に北海道を巡っているようだ。車中が広々としていて、二人なら快適すぎるなと俺は思った。


 車内の照明は明るく、どうやらポータブル電源やサブバッテリーで供給しているようだな。おぉ、ソーラーパネルもあるのかよ。今時だな。

 ミニキッチンがあり、冷蔵庫もある。

 トイレやシャワールームはないが、コンビニや道の駅を使うらしい。あぁ、でも携帯トイレとか百均で売ってるんだ。知らなかったなぁ。これって災害の時も使えるし、参考になる。


 ふと、この状況を俺と歩花に置き換えてみた。……便利な環境、道具、ガジェットに囲まれ、快適な旅……うわ、楽しそう! しかも車であっちこっち回れるから、観光だってし放題。絶対、楽しい。



 なんて妄想を膨らませていると、歩花が風呂から上がってきた。



「お待たせ、お兄ちゃん。ん……スマホでなにを見てるの?」

「おかえり。これね、ヨーチューブさ。車中泊系の」

「へぇ、車中泊かぁ。わたしもたまに見る。Vlogブイログのヤツで、バイクであっちこっちキャンプするの!」



 その歩花の勘違いに、俺は思わずスマホを落とした。違う違う、それは車中泊じゃない! バイクの『ソロキャン』じゃないか。それはそれで流行っているし、俺も興味はあった。でも、どちらかと言えば生活圏が確保できる車派。


 これは、正さねばな。


「歩花、それとこれは違う。バイクはテントとかの道具を持って移動して、キャンプ場で寝泊まりするんだ。車中泊は、車の中で寝泊まりするし、港とか道の駅、RVパークを利用できるから範囲も広くてメリットがある。あと車だから、荷物も多く運べるからな」


「あー、そっか! 車とバイクは違うよね。ごめん」


「歩花も良かったら、俺の一番好きなチャンネルを教えてやるよ。おススメは『テルテルTV先生』だ。この人は、独特な世界観で視聴者を楽しませてくれる。他とは違ったノスタルジックな雰囲気があって、編集もこだわっていておススメだぞ」


「うん、寝る前に見てみるね」



 なんやかんや動画を見ていたら、もう就寝時間だ。時計の針が深夜零時を回り、心地の良い眠気が襲ってきた。


 二階にある自室へ向かおうとすると、歩花もついてきた。いや、歩花の部屋も二階だから、それもそうか。そのまま二階へ上がり、部屋に入る。歩花は自室へ戻っていった。


 さすがに一緒に寝るという考えはなかったか。



 自室のベッドに寝っ転がり、一瞬でまぶたが落ちる。あー…ねむ。と、その時だった。急に重みを感じ、俺は眠気が少し飛ぶ。



「――なッ! 歩花!?」

「きちゃったー♪ 一緒に寝よう、お兄ちゃん」


 俺の上に覆いかぶさるように歩花は密着。……やばいな。興奮しちゃって眠気が吹っ飛んだよ。しかも、歩花はゴソゴソと布団に入ってくるし。


「ち、近いって……」

「わぁ、お兄ちゃんの顔がよーく見える」


 俺も、歩花の桜色のくちびるがよーく見える。あんなツヤツヤのプルプルで……なんてこった。胸の谷間も眼下に広がって――興奮してきた。


「……っ!」

「そんなに歩花のおっぱい好きなの?」

「え、なんで分かった」

「だって、お兄ちゃんの視線、ずっと胸ばかりだもん。さすがに気づくよー」



 男ってモンは大概が胸だ。そもそも、歩花のは大きすぎる。少なくとも、てのひらには収まりきらないサイズ感だ。グラビアアイドルにいても違和感がない。興奮するなという方が失礼だ。だが、俺は表面だけでも紳士を貫く。



「嫌だったら後ろを向いておくけど」

「だ~め。わたしだけを見て」


 そんな風に歩花は俺の耳元でささやく。

 それどころか、俺の耳を甘噛みしてきた。絶妙な加減ではむはむと力を加えてくる。く、くすぐったい……。


「わぁ、歩花っ」

「お兄ちゃんの耳、美味しい」

「わ、分かった。分かったから、一緒に寝よう」

「うん。おやすみなさい」



 歩花は疲れていたのか、直ぐにまぶたを閉じて寝息を立てていた。天使のような寝顔がそこにはあった。


 明日もきっと変わらない日々を迎える――そう思っていた。だけど、大事件・・・は突然訪れた。

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