一緒にお風呂へ

 一回戦目、二回戦目と順調に俺が勝利。それは当然だった。俺はスマッシュブラッドをかなりやり込んでいたからだ。


 歩花もゲームは得意な方だ。でも、俺が圧倒していた。



「お、お兄ちゃん、強すぎるよ」

「もう後がないぞ。さあ、どうする」

「ま、負けないもん。がんばるし!」


 頬を桜色に紅潮こうちょうさせ、ぷくっ膨らませる歩花。ちょっとムキになっている所が可愛いな。


 三回戦目も始まり、呆気なく勝利。エグい必殺技がクリティカルヒットし、歩花のキャラクターを沈めた。



「勝ってしまった」

「そ、そんなぁ……悔しい!」

「ふふふ。歩花、これで約束通り、なんでもいう事を聞いて貰うぞ」


「……うぅ。わ、分かったよ。でも、その……お風呂入ってからね?」

「え?」



 歩花のヤツ、なんだか動揺しまくり。震えてさえいた。も、もしかして……性的な要求を期待しているのか。当然、エロネタも視野に入ってはいた。けれど、今ではない気がしていた。そうだ、この“約束”はいざとなったら使用する。



「じゃあ、お風呂へ……」

「待て、歩花。今回は保留にする。俺の任意のタイミングで使わせてくれ」

「うーん。でも、わたしの負けは負けだし、じゃあ、一緒にお風呂に入ろう。ね?」


「約束はいつか叶えて貰うよ。って、一緒にお風呂? おいおい、俺は大学生だし、歩花は高校生なんだぞ。さすがにまずいって」


「大丈夫だよ。ちゃんと考えてあるから! 先に入ってて」

「けどなぁ……」

「兄妹なんだよ、心配しすぎ~」



 機嫌が良さそうに歩花は笑い、着替えに行ってしまった。俺は取り残され、どうしようか悩む。まあ……風呂くらいならいいけど、一緒に入るの何気に初めてだぞ。



 ――脱衣所で全てを脱ぎ捨て、俺は腰にタオル巻いて風呂に入った。椅子に腰掛け、歩花を待つ。……なんかドキドキしてきたな。



『お待たせ、お兄ちゃん。入っちゃうね』



 脱衣所の向こうから、歩花の影が見えた。……ま、まさか本当に裸で? だとしたら、俺は……うわ、緊張してきた。

 ガラガラっと戸が開くと、そこには『水着姿』の歩花がいた。なるほどねー! その手があったかあ。



「歩花……」

「どぉ! スク水~!」



 紺色のスクール水着を着こなす歩花。まさかのまさか、そのまさかだった。……これもモンキーホーテで買ったんだろうなぁ。

 しかし、サイズがギリギリなせいか、大きな胸がキツそうだ。あんなに零れそうになって……。



「スク水とはな、恐れ入った。それなら色んな法律にも引っ掛からない。合法だ」

「うん。背中流してあげるねっ」



 歩花は、シャワーを取って俺の背後に座る。程よい温度のお湯を流して、手で洗ってくれた。細い指が絡んできて――くすぐったい。


 次にボディソープを泡立てて、それを塗りたくってくる。感じた事のない感触に、俺はびくっとなる。



「う、うわぁ」

「我慢して、お兄ちゃん。ただ背中を洗っているだけだよ」

「そ、それはそうなんだが……歩花の指使いが何だかエロいっていうか」

「あー、それね。わたし、エステを習っているから」



 そうだったのか、知らなかったな。道理で手つきがイヤらしい――いや、慣れていると思った。程よい刺激が眠気を誘う。いかんな、目を閉じたら一発で落ちてしまいそうだ。そうならない為にも、俺は話題を振った。



「今日はいろいろありがとな、歩花。まだ夏休みは長いし、またどこかへ行こう」

「わたしの方こそ感謝している。お兄ちゃん、優しくて好き」

「でもいいのか。俺なんかより、高校の友達とか誘ってくるだろう」


 同級生の女友達とか……考えたくないけど、男とか。うわ、ちょっと想像しちゃった。歩花は絶対モテるだろうし、男子が寄ってくるだろう。

 下手すりゃ告白だって何度も受けているに違いない。やべ……、心配になってきた。


「女の子の友達はいるよ。でも、今は国内旅行中みたい。わたしもどこかへ行きたいな~」


「そうなんだ。それで……男とか」

「ん? もしかして、心配してる?」


「……そ、そりゃな。彼氏とか」

「いないよ。わたしの彼氏はお兄ちゃんだけだもん」


 ぎゅっと抱きついてくる歩花。

 その言葉に、俺は安堵あんどした。……やば、嬉しい。思わず泣きそうになるくらい嬉しかった。今、俺ヤバイ顔をしていると思う。歩花には見せられないなぁ。



「けどさ、歩花ほど可愛い女の子が同級生とか、男子が黙ってないだろ?」

「うん、確かによく誘われる。でも、わたしは年上好きなの。お兄ちゃんみたいな大人な人がタイプ。あと優しいし、車の運転もできるし~。歩花の事を大切にしてくれるから、もうお兄ちゃんしか考えられないっ」


 後半は、完全に俺の評価だった。そこまで思ってくれているんだから、歩花に間違いなく男はいない。


「そうか、ほっとした」

「不安を取り除けて良かった。……ところで、お兄ちゃんこそ誰かと付き合っていたりしないよね……? そんなのいたら、血が流れるかもしれない」


 あれ、なんか歩花が怖い。

 こ……これってまさか病んでる系のアレ!? しかし幸い、俺に彼女なんていないし、恋愛経験なんぞゼロに等しかった。童帝なのである。



「大丈夫だ。俺に女の子の友達なんていないよ。いたら今頃は、マシ大学生活を送っていただろうな」

「ほんと? 嘘だったら、許さないからね」

「本当だって。俺も歩花しか考えられない」

「えへへ、嬉しいな~。お兄ちゃん、わたしを絶対に裏切らないでね」

「そんな事するかって。最高の夏休みしてやるよ」


「うん、楽しみにしてる……くちゅん」


 歩花は、可愛らしいクシャミをした。あぁ、話してばかりでシャワーを浴びていなかった。風邪を引いてしまうし、さっさと体を流し、風呂へ入ってしまおう。

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