特別番外編③
車を走らせ、磐田市内にある『さわやか』へ。
幸い、それほど混雑はしていなかった。普段は何時間待ちとかもあるらしいが。
中へ入ると、落ち着いた雰囲気の内装が出迎えてくれた。それとお姉さんのスタッフ。美人だな。
「お兄ちゃん、さっさと行こうか」
……おっと、歩花の殺気を感じた。
テーブルに案内され、着席。メニューに目を通していく。人気メニューは『げんこつハンバーグ』だな。過去に何度か食ったが、何度食べても美味いんだよなあ。
「歩花、げんこつハンバーグがおススメだ。ごはんとコーヒーのセットがおススメだ」
「じゃあ、それにするね」
「おう。決まりだな」
二つとも同じものと、女性店員に注文した。
しばらく掛かるので待つだけ。
「それにしても、いい場所だね。喫茶店みたい」
「うん、もともとはコーヒーショップだったようだ」
「へえ、そうなんだ」
感心しつつも、歩花は俺の手を握ってきた。な、なんだそんな恋人みたいに。
「どうした?」
「あのね、今日はたくさんありがとう。お兄ちゃん、優しいから……すっごく好き」
「…………ッ」
今の笑み、めちゃくちゃ可愛かった。ほんと、義妹でなければ惚れていたところだぞ。……いや、義理だから……付き合えないこともないけど。――いやいや、ダメだ!
歩花のことは大切にするって決めたんだ。手は出せない。
「歩花ね、こういう気分転換ができて嬉しいんだ」
「そうだな。最近は学校生活も大変だったろうし」
「うん、テストが多くてね。それにね、友達もできたから」
ああ、噂のお嬢様か。名前はまだ知らないけど、清楚なんだとか。会ってみたいなぁ歩花の友達。
しばらく待つと食前コーヒーが出てきた。それに続き、ハンバーグも。敷かれているテーブルクロス代わりの紙を持つように言われ、俺も歩花も両手で摘まんだ。直後、店員さんがハンバーグを切り分けて鉄板に押し付けた。油が飛んでくるので、
それからオニオンソースをかけてくれた。
うわぁ、食欲そそる良い匂いがする。
「お熱いのでお気をつけてくださいね」
「ありがとうございます」
気遣いに感謝して、紙を戻す。
「お兄ちゃん、そろそろいいかな」
「ああ、食べよう」
ナイフとフォークを手にし、さっそくハンバーグを切っていく。……うん、やわらかい。フォークで刺し、ハンバーグをひとくち。
「うっまぁ!!」
「やわらかーい。それにジューシーだねえ~」
歩花が幸せそうにハンバーグを食べている。俺も幸せだ。やっぱり、オニオンソースと相性抜群だな。何度食っても、さわやかのハンバーグは美味い。
更にこのコーヒーだ。
俺はコーヒーと一緒に食べてしまう派だ。
「――うん、コーヒーも深い味わいで好きだ」
「わたしは後で飲んでみるね」
「おう。それにしても、歩花……珍しく食が進んでいるな」
「だって、これ美味しいもん。あ、お兄ちゃんにも食べさせてあげる~」
はい、あ~んとニンジンを俺の口元に運んでくれるが……おいおい。
「歩花。好き嫌いするな。兄ちゃんで処理しようとするなよぉ」
「あ、バレた。だって、ニンジン嫌いなんだもん」
「ちゃんと食べないと大きくならないぞ」
「もう十分大きいもん。胸とか」
「――うぐッ」
思わずコーヒーを吹き出しそうになる俺。確かに、歩花は巨乳だからなぁ……って、そうじゃないだろ。なに納得しているんだよ俺。
まあいいか、せっかくのハンバーグだからな。
俺はニンジンを貰い、歩花にとっての敵を排除してやった。
さわやかのハンバーグを十分に味わい、完食。
会計を済ませてお店を出た。
「すっごく美味しかった」
歩花が満足そうに微笑む。
その光景があまりに可愛くて、俺は幸せを感じた。
「本当、ここのハンバーグは格別だよな」
「静岡でしか食べられないからレア感あるよね~」
「それな。次回はいつ来るか分からんが、また来よう」
「うんうん」
そのまま車へ戻り、発進。ABCホテルへ戻った。
* * *
ホテル到着後、エレベーターで七階のデラックスダブルルームへ。静かな通路を歩いて、鍵を開けると――広々とした空間が広がっていた。
「おぉ、思ったより広いな」
「ここにお兄ちゃんと一緒に泊まれるんだね」
「別々にしようと思ったんだが、空いてなくてな。嫌だったら俺は車で寝る」
「ううん、嫌じゃない。お兄ちゃんと一緒がいい」
子供みたいに抱きつかれた。そんな風にされると離れられないな。それに歩花一人を残すわけにはいかない。
「分かった。ゆっくりしよっか」
「良かった~。さっそくお風呂入ろうかな」
「シャワーはついているみたいだな。あと、一階に男湯、二階に女湯があるらしい」
「部屋のシャワーでいい。お兄ちゃん、一緒に入ろっか」
「――なッ!!」
驚いている間にも、歩花はビジューベルト付きレーススカートを脱ぎ、ブラウス一枚だけになった。生々しい白いフトモモが垣間見える。……うぅ、なんて高刺激。
カチコチに石化して立ち尽くしていると、歩花が俺の耳元でこう囁いた。
「ねえ、お兄ちゃん。今日はね、歩花……
「……あ、あ、危ない日ィ!?」
「それでもいい?」
「ちょ、歩花! お兄ちゃんを劣情を煽るんじゃありません!」
えっちで危険すぎる義妹をベッドに座らせた。
まったく、油断も隙もあったもんじゃない。平常心を失えば、俺は獣となり、歩花を襲っちゃうだろう。でも、それはダメだ。
義理の妹で血が繋がらないとはいえ、現役の女子高生。それに、正式に付き合っているわけでもない。……そりゃ、歩花のことは大好きだ。けど、けれど。
「大丈夫だよ。ちゃんと真剣なお付き合いで、お互いを愛し合っていれば問題ないんだって」
俺の首に腕を回す歩花。
目の前に桜色の、潤いある唇。
こ、これは……参ったな。
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