白川郷の手打ちそば処にて

 白川郷には食事処が複数あるようだ。

 中でも気になった“手打ちそば処”へ向かった。


 歩くこと数十分。

 ようやくお店が見えてきた。


 そば屋は、周囲の合掌造り民家とは違い、昭和を感じさせる木造住宅だった。見事に溶け込んでいるというか。年季が入っているな。


 歩花が興味深そうに建物を見つめた。

 紺やアルフレッドさん、飛騨さんもつられるようにそば屋を吟味。それから店内へ足を運んだ。


 店は貸し切り状態で、カウンター席だった。

 空いている席へ座る。俺は真ん中で右に歩花、それから左に飛騨さんという形になった。


「もりそば、とろろそば、おろしそば、かけそば……どれも美味そうだ」

「わたしは、おろしかなぁ」


 屈託のない笑みで歩花はそう言った。


「俺もおろしだな」


 俺が決め終わると、飛騨さんも「じゃあ、私も」と続く。それから、紺も「あたしも!」と。アルフレッドさんもおろしそばになった。


 全員同じかいッ。

 まあいいけどね。好きなものを食べればいいさ。


「全員同じものでお願いします」

「あいよ~」


 店員のおばちゃんに注文して、しばらく待つことに。しかし、店の雰囲気もいいなぁ。こんな素敵なカウンター席のみだなんて、ちょっと新鮮だ。


 歩花は楽しそうに店内を撮影。俺たちの方にもカメラを向けて記念撮影した。


 対抗するように紺と飛騨さんもカメラを使い、俺を撮る。って、なんで俺ばかり!?


 なんか知らないけど、俺をよく撮るなぁ。


「飛騨さん、俺を撮る意味あります?」

「あるある。めっちゃある」

「一応聞いておきますが、どんな意味が」

「……うっ。そ、それは……言えるわけないじゃん」


 顔を赤くする飛騨さん。

 どういう意味だ?


「それにしても、白川郷って見ごたえありますね~。さすが世界遺産」

「でしょー。田舎と思って侮ると鬼に祟られるよ」

「そうですね、肝に銘じておきます」

「素直でよろしい」


 しばらくすると、そばが出てきた。古風な大きなお皿に、ボリューム満点のそばと、おろしの白い山。ネギも噴火するみたいに盛り付けられている。これは食欲そそられる。


 さっそく箸を手に取り、そばをずるずると啜る。


「美味い。適度なコシのある……それでいて繊細な味わい。そばつゆも見事にマッチしている」

「ん~、冷たくて美味しいっ」


 普段は好んでそばを食べない歩花ですら、絶賛していた。普段は、うどん派だから、これは珍しいことだ。


「いい食べっぷりね」

「飛騨さん、このおそば最高です! おろしもさっぱりしていて天の昇る気分ですよぉ」

「あはは、歩花ちゃんって面白いね」


 おぉ、歩花と飛騨さんが楽しそうにするなんて、ようやく少しは仲良くなれたようだな。俺は安心した。


 ……それにしても。


「お嬢様、このおそばは絶品ですなぁ」

「うん、もう一杯いける! おばちゃん、おかわり!」


 アルフレッドさんも紺も、おかわりしていた。マジかよ!? いや、個人の自由だけど、凄いな。特に紺は、女の子。よく食べるのは知っているが、どんな胃をしているんだか。尊敬しちゃうな。


「では、とろろそばで」

「味変ってヤツね。あたしもそうする。回お兄さんもどうですー?」


 俺もかよ。食えなくはないけど、夜は確実に不要になるな。まあいいか、美味いし。俺もまだまだお腹に余裕がある。


 こうなったら、おかわりだ!

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