道の駅『白川郷』

 二杯目も完食。

 もうお腹いっぱい。これだけ食えれば満足だ。

 支払いを終え、お店を出た。


 それからも各所を回り――駐車場へ戻れば、もう日が沈み始めていた。


 道の駅『白川郷』で車中泊をすることに。


「じゃあ、私も隣でお邪魔するね」


 飛騨さんも俺たちの隣に車を停め、一泊するようだ。

 紺とアルフレッドさんは、バイクを積んでいるため車中泊が出来ないということで、近場の民宿へ向かった。


「ごめんなさい、回お兄さん」

「いや、仕方ないさ。明日、合流しよう」

「はい、また明日! でもメッセージアプリで連絡はしますね」

「おーけー」


 アルフレッドさんとも挨拶を交わし、二人とは別れた。


 俺と歩花、そして飛騨さんは道の駅へ。現在いる『村営せせらぎ公園駐車場』から移動を開始した。

 車を走らせること五分強。

 道の駅が見えてきた。


 世界遺産・合掌造りから、かなり近いな。

 最初からこっちに駐車するのもアリだったかもしれない。


 隅に車を停め早々、飛騨さんがトイレへ行った。


 その間、俺たちは道の駅を吟味。

 すると歩花が体を伸ばしていた。


「山々に囲まれてて空気がおいしいね~!」

「そうだな。最高のロケーションだな。ネット情報によれば、この駐車場は第二駐車場込みで百台は停められるようだし、トイレは二十四時間使えるようだ」


「ほえ~、どおりで広いと思った」


 空は次第に黄昏時へ。

 この僅かにしか見られない光景と瞬間が俺は好きだ。

 スマホで写真に収めた。


「歩花のことも撮ってやる」

「どうせなら、ツーショットにしよ」

「それもそうか」

「うんうん」


 歩花の肩に腕を回し、俺は自撮りするようにして撮った。こうして二人で撮るというのも悪くない。

 周囲からしたら恋人同士にしか見えないよな、コレ。


「……よし、こんなところかな」

「まって、お兄ちゃん」

「どうした、歩花」

「ん~♪ ちゅ」


 抱きついてくる歩花は、俺のほっぺにキスをしてきた。これは本当に恋人だ。いや、いいけどね。うん、幸せ。最高。


 しばらくすると飛騨さんがトイレから帰ってきた。


「おまたせ。回くんも歩花ちゃんも楽しそうだね~」

「飛騨さんも一緒に撮ります?」


 俺が提案すると、飛騨さんは「いいの? 邪魔にならない?」と少し遠慮気味に。こういう旅に邪魔もなにもない。楽しい時間は共有すべきだ。それが旅の仲間なら尚更に。


「記念ですからね」

「そっか。うん、じゃあ、三人で撮ろうか」


 今度は飛騨さんも迎え位入れ、三人で自撮り。

 しかし、もう辺りは真っ暗に。

 綺麗には映らなかった。……残念。


「夜になっちゃいましたね……」


 歩花が肩を落とす。

 照明がついたとはいえ、視界はそれほど良くない。


「ああ、そうだ。キャンピングカーの中なら明るいですよ。たまには車内で写真を撮りましょ」

「そっかー! その手があったね。さすが回くん!」


 嬉しそうに手を叩く飛騨さん。

 自分で思ったけど車内で写真撮影はあまりしていなかった気がする。飛騨さんも迎え入れ、もっと記念と思い出を残していこう。


 インディへ戻り、照明をつけた。

 2000Wのポータブル電源と2400Whリチウムバッテリー、そしてソーラー発電のおかげで電気はたっぷり使える。

 もともと1000Wクラスを使おうとしていたが、やっぱり大容量がいいと判断してかなり奮発した。


 インディの車内へ入る。

 三人だとさすがに窮屈だが、なんとかギリギリ座れる。


 俺は歩花と飛騨さんに囲まれて心拍数が急上昇した。……って、なんで挟まれてるの、俺!



「こ、この状態で撮るんです!?」

「狭いから仕方ないよ~」



 飛騨さんは特に嫌な顔はしていなかった。むしろ、このままでいい的な表情だ。……ただ、歩花が対抗心を燃やしているというか。

 後々が怖いのだが。


「お兄ちゃん、早く撮ろうね!?」

「は、はい……」


 そんな恐ろしい眼で見ないでくれ。

 スマホを向け、俺はシャッターを切った。


 ……ふぅ、これで完了っと。


「写真はあとでアプリに送ります」

「ありがと、回くん」


「いえいえ。それより、少し熱いですね。換気扇と扇風機を回します」

「あ~、ごめんね。私はそろそろ夕食でも作りに車へ戻るよ」

「分かりました。なにかあれば言ってください」


 飛騨さんは車から降り、自身の『エフリイ』へ戻った。クールカーキパールメタリックが厳つくてカッコいい。


「お兄ちゃん」

「!? ま、待て。デレデレはしていないぞ! 刺すなよ」

「そんなことしないよ。それより、やっと二人きりになれたし……しちゃおっか」

「へ……」

「歩花はいつでも準備できてるから」


 俺の体に触れてくる歩花。その息遣いは荒かった。――って、そっちィ!?


「だめだ。ここは人も多いし、飛騨さんも隣にいるから」

「え~! じゃあ、いつならいいの?」

「そ、それは帰宅してからとか」

「帰宅ってまだ先の話でしょ。歩花……我慢できないよう」


 思えば、旅に出てもうすぐで一週間だ。

 夏休みもだいぶ減ってきた。

 予定の場所を全て回る切るには時間がない。

 だから、俺はなんとなく分かっていた。

 おそらく途中で断念となるだろうと。

 そう、この旅はもう長くはない。


 今までの俺は考えないようにしていた。歩花に幸せを感じていて欲しかったから。でも、いつまでも現実から目を逸らしているわけにはいかない。


 だから近い内に歩花に『帰宅』を告げねば。


 今ではないけど、遠くない未来に。

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