荻町城跡展望台にて

 注射針が俺の首に――『グサッ』――っと。



 ならなかった……。



 アレ。



「驚いた? お兄ちゃん」

「え…………。これはいったい」

「オモチャの注射だよ~。ほら、ゼリーが入ってるヤツ」


「な、なんだぁ……お菓子かよぉ……」



 俺は脱力して力が抜けた。

 ドッキリとはいえ、マジでビビった。

 歩花の演技は、演技に見えないんだよな……。ガチかと思ったぜ……。



「ほら、ここってアニメの聖地だから真似してみたの」

「脅かすなよ~。迫力ありすぎだって」

「ごめんごめん。その代わり、歩花に何してもいいからね?」


 な、何をしても!?

 ……相変わらず、歩花は俺を誘惑してくれる。

 しかし、今は紺や飛騨さんがいるからな。

 迂闊うかつに手を出せば俺がヘンタイ扱いされてしまう。


 だが、手を出さないのは、それはそれで歩花の機嫌を損ねる可能性がある。……ので、出来る範囲で歩花を可愛がるしかない。


 この場合。


「分かった。今は頭を撫でてやるから」

「……えへへ。ありがと、お兄ちゃん」


 これで機嫌が良くなってくれるのなら、安いものさ。



 * * *



 白川八幡神社の観光を終えた。

 その後、和田家や明善寺庫裡郷土館を歩いて回った。


 合掌造り民家が歴史を感じさせる。

 ここだけ当時の香りが残されているような、そんな気がした。


 ほのぼの白川郷観光を続けていく。


 とりあえず、今日は最後に『荻町城跡展望台』へ。


 展望台は、白川郷が一望できるスポットだ。

 もちろん、アニメの舞台にもなった有名な場所。



 到着早々、全員が風景に感嘆した。



「おお~、凄く見晴らしがいいよー!」


 これは歩花。


「なんと美しいのでしょう~…」


 これは紺。


「そうですな、お嬢様。これほどの雄大な自然と遥か昔の風景が残されているとは……世界遺産の名に恥じぬ観光地です」


 アルフレッドさんも顎をしゃくりながら。


「やっぱり、ここは最高だねー!」


 飛騨さんもテンションを爆上げな感じで飛び跳ねていた。



 俺は、この貴重な風景を写真に収めていく。スマホで。



 合掌造り民家、緑の田園、白川郷を囲む山々。まるで絵画のようだった。



「ずっと眺めていられる景色だなぁ」

「でしょ、回くん」

「え、ええ……飛騨さん、近いっす……」

「緊張しちゃった?」

「……そ、そんなことは。それより、写真を撮りましょう」



 誤魔化す俺。これ以上は歩花の不満が爆発しかねないからな。

 けれど、それでも飛騨さんは俺にくっついてきた。


 ……うおッ。

 大人の香り……!


 そんな状況に歩花が気づいて、もう片方の腕を引っ張ってきた。



「ちょっと、飛騨さん! お兄ちゃんにベタベタしないでください」

「ちょっとくらい良いでしょ。ほら、記念写真だから」

「そ、それは……そうかもしれませんが」


 歩花が珍しく押されている。

 更に紺も俺の腰元に――って、そこはマズイ!


「回お兄さん、あたしも混ぜて~」

「ちょぉ! 紺まで!」


 困惑していると、アルフレッドさんが咳払いして睨んできた。やっべ、殺される!?



「では、私も回様に厚い抱擁ほうようを!」

「それはいりません」


「そんなあああああああぁぁ…………!!」



 アルフレッドさんは、がっくし項垂れた。そんなショックを受けるとは思わなかったんだが……。


 こんな慌しい中、自撮りで俺含めみんなを撮影した。


 なんだこの集合写真!


 ……俺にとっては最高すぎるけどな。



 * * *



 荻町城跡展望台を去り、駐車場へ戻った。

 まだまだ回りたい場所は多く存在するのだが、腹も空いた。そろそろ飯にしよう。

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