白川八幡神社 観光

 吊り橋を渡り、スマホのナビ案内に沿って道を歩いた。

 歩くことニ十分ちょい。

 ついに『白川八幡神社しらかわはちまんじんじゃ』が見えてきた。


「ここがアニメのモデルにもなった神社なんだね」

「ああ、そういえば歩花とは一緒に見たっけ」

「うん。おかげで聖地巡礼できて楽しいよ」


 その気持ち分かる。アニメのことを知っていると、テンション上がるよなぁ。それは長野でも一緒だった。


 うんうんと同意していると紺と飛騨さんが動揺していた。


「あ、あの……回お兄さん、アニメって?」

「ああ、紺は知らないのか。この白川郷はアニメの舞台にもなったんだよ。ちょっと古い作品だけどね。でも、当時はすげぇ人気があったんだ」


「へえ~! そうだったんですね。知りませでした」



 まあ仮にもお嬢様が見るアニメではないいかもな。結構エグいシーンもあるし。でも、解き明かされていくミステリー要素が面白いんだよなぁ。


 一方、飛騨さんはワナワナ震えていた。

 あれ、怒ってる……?


「回くん……!」

「ど、どうしたんですか、飛騨さん!?」

「アニメ見てたんだねっ」

「え、飛騨さんも?」

「うん、もちろんだよ。地元民だし。ていうか、歩花ちゃんも見てたんだ」


 意外そうに歩花の顔を覗く飛騨さん。


「は、はい。わたしはお兄ちゃんの影響で」

「そうなんだ。最後まで見た?」

「はい。一応、全シリーズを」

「やるねえ、歩花ちゃん!」


 驚く飛騨さんは、歩花の手を握って感激していた。その傍で紺が疎外感を感じているのか、呆然としていた。そうなるよなあ。


「うぅ、あたしも見ておけば良かったです……」

「落ち込むな、紺。今時はサブスクで見放題だからな。あとで見てみ」

「はい。みんなと語れるように、あとでじっくり見ますね」


 少し元気を取り戻す紺。

 そう今の時代は少しお金を出せば、いろんなアニメや映画が楽しめるのだ。だから遅くはない。


 ……それにしても。


 思えば歩花が病みやすい体質ってアニメの影響なのかな。……いや、まさかな。


 頼むから、なたとか金属バットを武器にしないで欲しいが。


 そんな和やかな雰囲気の中、とうとう神社の前に到着。


 横幅の広い石の階段、それと鳥居が出迎えてくれた。その奥に荘厳にそびえ立つ神社。おぉ、あれこそが本殿か。



「まずは記念撮影だね」

「そうだな、歩花。よし、みんな神社を背景にして撮るぞー」


 女性陣を並ばせ、俺はカメラマンだ。


「回くんも入ろうよー」


 飛騨さんが、おいでおいでしてくるがそれ無理だ。


「残念ですが、三脚がないので。それに、他の人に頼もうにもいないので」


 現在、タイミングが悪く他の観光客の姿がなかった。……残念だが、交代で撮影するしかない。


「それじゃあ、こうすればいいよ」


 俺の腕を引っ張る飛騨さん。女性陣のド真ん中に詰め込まれ、俺は飛騨さんと歩花に挟まれた。しかも、俺のお腹のあたりに紺の後頭部がっ。


 そうか“自撮り”で撮る方法があったか!


 し、しかしこれは密着状態に近い。


 飛騨さん、大人の女性の……良い香りがッッ!


 興奮と焦りの中――『パシャッ』と飛騨さんがスマホで撮影してくれた。イイ感じの集合写真が撮れた。



 * * *



 少しの間、各々で神社を自由探索することになった。

 歩花はもちろん俺のところへ。


「……お兄ちゃん」

「ど、どうした歩花。顔が怖いぞ」

「そんなに飛騨さんが気になるの……?」


「え……! な、なんのことだ……?」


「とぼけるんだ。歩花、分かっているんだからね……」

「ちょ、待て。落ち着け! 俺は浮気とかしていないぞ」


 説得するが、歩花は背中に隠している“何か”を取り出した。ま、まさか……鉈とか金属バットじゃないだろうな!?


 背筋がゾクッとしていると――。


 歩花の手には『注射器』が握られていた。



「…………ふふふ」

「ふふふ、じゃない!! なんだそのヤバい液体の入った注射器……!」


「お兄ちゃん、これ見たことあるよね。これを注射されちゃうと発狂しちゃうんだよ」

「ま、まさか!! やめ……やめろ」



 俺の首筋に注射器を向け手くる歩花。

 こんなものが現実に存在したのか……!


 ウソだろ、ウソだろ……!


 うああああああああああああああああああああ…………!!

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