世界遺産『白川郷』

 再び移動を開始した。

 飛騨牛まん本舗から白川郷を目指す。

 ここから一時間弱。


 ナビの案内に従ってひたすら道を走る。



「ところでお兄ちゃん」

「な、なんだ、歩花」

「……さっき飛騨さんと仲良さそう……だったよね?」



 なんだか恐ろしい口調で確認してくる歩花。……ちょっと待て。なんでそんな死霊みたいな恐ろしい言い方なんだよ。怖ぇよ!


「普通だって。別になんともない」

「本当かなぁ」

「本当だ。たまにはお兄ちゃんを信じてくれよ」

「お兄ちゃんのことは信じてるよ。でもね、時々不安になっちゃうから……」


 歩花が不安定なのは昔からだ。

 だからこそ、俺が支えてやらねばならない。


 そんなことを考えながら、のどかな道路をひたすら走っていく。飛騨清見インターを抜け、国道158号を真っ直ぐ。


 無心になって走っていると『白川郷インターチェンジ』が見えてきた。



「おぉ、ついに白川郷の名が出てきたな」

「山しかないね、お兄ちゃん」

「だな。自然豊かすぎる……けど、俺は好きだな」

「うん。落ち着くよね」


 白川郷のコンビニY店を通り抜け、白川郷観光協会辺りまで来た。いよいよ到着が近い。


 すでに“合掌造り”の家がちらほらあった。


 三角形で古風な家。

 ここだけ昔の姿のまま取り残されたみたいな風景だ。


 そのまま『村営せせらぎ公園駐車場』まで向かった。どうやら、有料駐車場があるらしい。


 そこまで向かった。



「――到着っと」

「一面山しかないね。けど、さすがに観光客も多いね」

「そりゃ、世界遺産だからね」

「それもそっか」



 車を降りて久しぶりに体を伸ばした。

 う~ん……空気が美味いッ。

 なんだこの澄んだ空気。

 長野とはまた違うな。


 少しすると飛騨さんと紺、それにアルフレッドさんがやってきた。



「お疲れ様、回くん」

「お疲れ、飛騨さん」

「そろそろ名前呼びでもいいんだけどな~」

「え?」

「ううん、なんでもない」


 今、ボソッとなにを言った?

 歩花が妙に殺気だっている気がするんだがな。


「回お兄さん、やっと着いたね~」

「おう、紺。そっちは乗り物酔いは平気か?」

「なんとかね。薬が効いたみたい」

「そっか。無理はするなよ」

「ありがと」


 いったんトイレ休憩となった。

 それからアニメの舞台にもなった『白川八幡神社』へお参りすることにした。この駐車場から徒歩ニ十分の場所にあるようだ。


 歩いて白川郷を観光――というわけだな。


 他にも『荻町城跡展望台』や『合掌造り集落』などなど見たい場所は多くある。楽しみだなぁ。


 トイレを済ませて待っていると先に紺が現れた。


「あたしが一着ですね~」

「紺は相変わらず元気だな。それに、だいぶ日焼けしたな」

「日焼け止めクリームを塗っていたとはいえ、限界はありましたね。こんがり焼けてきました」

「あはは、紺は面白いな」


 それにしても健康的な肌だな。

 結構むちむちしているし、夏なせいか胸元も緩い。ついつい視線を送ってしまう。


「あ~、回お兄さんってば見てます?」

「――なッ。そ、そんなわけないだろ」

「いいですよ。近くで見ても」


 誘惑してくる紺。

 しかもかなり近づいてくるしっ!

 こんなところを歩花に見られたらズタズタに引き裂かれるって。


 そんな嫌な予感がしていると、歩花と飛騨さんが帰ってきた。


 うわっ!


「慌ててどうしたの、お兄ちゃん」

「いや、その……あれ」


 いつの間にか紺が離れていた。

 空気を読んだかっ。


 アルフレッドさんも帰ってきたし、出発だな。……ふぅ、刺されなくて良かった。

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