番外編B
[相模原編] クリスマスの夜に
歩花との旅を終え――12月のクリスマスを迎えた。
夏の旅を終えてからも遠征することは多々あった。どれも大切な思い出だ。
過去を思い返しながらも、今日はバイトを終えた。
「お疲れ様、回くん」
もともと物流倉庫のバイトの先輩だった椎名先輩。
俺は地元に戻ってから先輩のキャンピングカー販売店『オータム』のバイトとして雇ってもらうことになった。
そもそも椎名先輩は、オータムのオーナーの娘。
お父さんに俺を雇ってくれるよう頼み込んでくれたようだ。
歩花の宝くじで大金を得たし、働く必要もなかった。
でも、それは社会との関係を断つに等しい。
せめて半日バイトだけでもしておこうと俺は考えた。
「ありがとうございます、椎名先輩」
「でもさー。回くん、大学辞めちゃうだなんて、びっくり。どうして?」
俺は12月に入ってから大学を退学した。
それは当然、宝くじのお金が数億あるから何とかなるという判断からだ。
だが、それだけではない。
歩花と過ごせる時間を多く確保したいし、なにか事業もしてみたいと思っていたからだ。
でも。
今はなにをしたいのか分からない。
だからこそ、椎名先輩の職場のお世話になりながら、やりたいことを模索していた。
「キャンピングカーに興味があるんです。俺オリジナルの車をいつか作れたらなぁって」
「なるほどね。それでウチに入りたかったわけか~」
「はい。それもあります」
まずは俺と歩花が快適に過ごせる最強のキャンピングカーを作る。それから、販売も出来ればいいなぁとか考えている。
「そっか。どうせなら、一緒にやろうよ」
「マジですか。いいんです?」
「その方が楽だと思うし」
「はい。俺としても嬉しいです。知識だとか技術だとかをもっと得たいと思っていましたし」
今のままではまるでダメだ。
最近はやっと整備士の牧之原さんから、車の整備の仕方を習ったくらいだ。それも最低限の。
まずは整備士免許が必要かもなぁ。
「うん。がんばろうね!」
先輩は笑顔で答えてくれた。
これからも仕事はやっぱり続けようと思えた。
◆
バイトを終え、俺は125ccバイクの『ノリシティ』で帰宅した。
三輪バイクで安定性があって気に入っている。
俺の家から職場まではそれほど遠くないため、わざわざキャンピングカーで通勤するのも面倒というか、総合的に考えて意味がないと判断。
そっこうで小型二輪(AT限定)を取得して、ノリシティを購入したのだ。
おかげで少し出かけるなら、ノリシティで十分すぎた。
それに、紺とツーリングへ行ける機会も増えた。
たまに遊びに行っているのだ。
ノリシティでケーキ屋へ寄り、クリスマスケーキを購入していく。
歩花へのサプライズだ。
幸い、家には親父も母さんもいない。
またヒョロっと旅行へ行ってしまった。
毎度毎度忙しいというか、どこかへ出かけるのが好きな二人である。
おかげで静かに歩花と過ごせるので、すごく助かっているが。
家に到着し、俺は玄関を開けた。
歩花の靴はすでにあった。
高校から帰ってきているようだ。
靴を脱ぎ、リビングへ向かうとソファに歩花の姿があった。
……って、寝てるし。
「おいおい。こんなところで寝ると風邪をひくぞ……」
毛布でも取ってきてやろうと思ったが、服を引っ張られた。
「お兄ちゃん。おかえりなさい」
「歩花! 起きていたのか」
「うん。さっき目が覚めた。……えへへ、寝落ちしちゃった」
「そうだったか。そや、クリスマスケーキ買ってきたぞ」
「え 本当~!」
綺麗に包装された箱をテーブルに置く。
「ほれ、これ」
「えっ、まさかホールケーキ!?」
「クリスマスだからな。豪華にしないとサンタさんが来ない」
「わ~、さすがお兄ちゃん!」
それに歩花がケーキ好きなのを俺は知っていた。
普段はあんまり食べないくせに、ケーキなど甘いものは大好きなのだ。
「バイトで得た金で買った。俺のおごりだ」
「ちゃんと働いて買ったんだね」
「ああ。汗水垂らして働いて得たまっとうな金だ」
「ありがとう、お兄ちゃん。すっごく嬉しいよ」
心の底から嬉しそうに歩花は微笑んだ。
あまりに天使で、あまりに可愛くて俺も嬉しくなった。
ゆっくりとクリスマスを過ごしていく――。
そして、世間で言う『聖夜』もとい『性夜』がやってきた。
当然、俺と歩花も二人きりで楽しい夜を過ごした。
あぁ、幸せ……!
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