ヤンデレ義妹と旅するえっちな車中泊生活

 熱海城はとても近代的だった。

 地下一階にゲームセンター、一階に売店や足湯。二階以降から資料館となっており、六階で展望台となっていた。

 思った以上に楽しめてビックリだった。


 展望台である天守閣から望む風景は、最高だった。

 これほど熱海市の街と大海原が一望できるとは思わなかった。



「う~ん、青空と青い海……凄いね!」

「そうだな、歩花。こんなに青々している風景が見られるなんて感激だ」


 熱海を眺めていると、紺が俺の腕に絡みついてきた。


「回お兄さんっ」

「こ、紺……」


 ま、まずい……歩花がブチギレ……てない?

 あれ。いつもなら殺す勢いでにらんでくるのに。なんだか王者の風格というか、余裕があった。


 あ、まさか。


 昨晩大人の階段をのぼったからかな。

 思い出してきたら、ちょっと興奮してきた……。いかん、こんなところで。



「おかしいですね」

「ん?」

「歩花ちゃんに覇気がないというか」

「あ、ああ……そういう日もあるのかもな」

「へえ~。じゃ、あたしが回お兄さんを独り占めしても問題ないんですね!?」

「それはどうかな~」



 正直、紺からこう求められるのは嬉しかった。けど、もう決着はついてしまった。俺の気持ちを紺にも伝えねばならないかもしれない。

 いつまでも曖昧な態度はよろしくない。


 そうだな……せめて地元の相模原に到着してからにしておくか。

 これがせめてもの優しさか。



 ◆



 熱海城を満喫すること二時間。

 十分すぎるほどに歩き回った。これで熱海観光は終了となった。


「アルフレッドさん、いよいよ相模原へ向かいます」

「分かりました、回様。こちらはいつも通りついていきます」

「お願いします」


 俺と歩花は軽キャンピングカーへ向かう。

 運転席に乗り込み、歩花も助手席へ。すると、いきなり歩花は俺の方へ体を寄せ、対面座位の体勢で抱きついてきた。


 ……こ、これは!


「お兄ちゃん……」

「ちょ、ちょ。歩花、腰……振ってる」

「だって我慢できないんだもん」


 か、可愛い。なんて可愛いんだ。

 だがもう直ぐ出発しないと。


「夜まで我慢するんだ。ちゃんと可愛がってあげるから」

「でもぉ……」

「じゃあ、キスだけ」


 俺からキスをして歩花の唇を奪った。

 柔らかくて、甘くて、愛を感じた。

 ずっとこうしていたい。けれど、紺たちを待たせるわけにはいかない。自然と離れた。


「続きはまた夜ね」

「もちろんだよ、歩花」



 車を走らせ、帰路を目指す。

 熱海城から相模原は約一時間半とナビで表示された。



 熱海ビーチラインを走り続け、気づけば『海老名』まで来ていた。


 もう“神奈川県”に入ってしまった。

 ここまであっと言う間だったな。


 ほぼ休むことなく一直線。

 ここまで来たら、どこかへ寄っていく必要もない。歩花と思い出話に話を咲かせながら、どんどん進む。



「今頃、安曇野さんや飛騨さんは何をやっているのかな」



 歩花が少し懐かしいような、心配するような表情で言った。



「二人とも元気だよ。連絡先交換してるし、SNSに写真投稿とかしてるしさ」

「あ、そうだった!」


 そう、今の時代ならネットで繋がっている。いつでもどこまで連絡が取り合え、SNSで近況が分かるのだ。良い時代になったものだ。

 だから寂しくなんてない。


 またきっといつか……会える。いや、会いに行く。

 今年の冬に。



 ◆ ◆ ◆



 相模原駅。

 その付近にある一軒家。そこが俺と歩花の家だ。

 両親はそろそろ海外旅行から帰ってくる頃合いだろうか。そや、ドバイへ行ったっきりだったかな。連絡もロクに取っていなかった。


 家の駐車場にインディを止め、車から降りた。


 家の前には紺とアルフレッドさんのX-VAN。ずっと紺のバイクを乗せてここまで来た。そうだ、思えば紺は前半までバイクで移動していたんだ。俺たちに追いつき、けれど途中で断念してX-VANにトランポしたんだ。


 そして、最後まで一緒に旅を共にしてくれた。



「お疲れ様です、回お兄さん」

「ああ、紺。お疲れ。ここまでがんばったな」

「できればバイクで一周したかったです。でも、やっぱり125ccでは限界がありますね」


 寂しそうにハンタークロスカブを見つめる紺。


「いやいや、凄かったよ。女子高生では普通は出来ないからね」


 そもそも、AT小型限定普通二輪免許を持っている時点で十分に凄いのだ。お金も手間も掛かるが、紺の場合は一発試験で取ったようだ。才能ありすぎ。



「今度は冬でリベンジします!」

「おいおい、冬のバイクは超危険だぞ。すっげー滑るし。でも、シグナス(125cc)で積雪の長野を走行していた動画を見たことあるけどな」


「バイクは難しいですかね。あ、でも来年は普通免許を取れますし!」


 そういえば、もう高校三年生になるわけか。歩花もな。

 となれば免許を取ってよい時期となる。高校生で免許を取り、そのまま就職する人もいるからな。


「まあ、冬は俺のキャンピングカーに乗ればいいさ」

「え、いいんですか!?」

「北海道にするかもしれないし」

「おー! この前のあたしの意見ですね。汲んでくれるんですねっ」

「もちろんだよ。検討しておく」

「お願いします! じゃあ、あたしは帰りますね」

「おう」



 その前に紺は、歩花の前に。



「歩花ちゃん。夏休みの旅……すっごく楽しかった。ちょっとギスギスすることもあったけど……でもね。大切な夏の思い出になったよ。ありがとう」


「うん、紺ちゃん。わたしもこんなにワクワクしたの初めて。また一緒にどこかへ行こうね」



 二人とも手を繋ぎ、そして抱き合っていた。

 なんだかんだありながらも、二人の友情は固いようだ。



 紺とアルフレッドさんは家へ帰った。



 俺たちも家へ。

 玄関の前に立ち、俺と歩花は同時に言った。



「「ただいま」」



 到着。

 これが本当に旅の終わり。


 長い長い夏休みの旅。軽キャンピングカー『インディ272』で長野、岐阜、静岡と巡った長い旅。

 出会いと別れ。そして、俺と歩花のこれから。


 この旅で学んだことも多い。

 課題も多く感じた。


 これが終わりではない。


 そう、まだ俺たちの旅は始まったばかり。


 ……なんて、打ち切り漫画みたいな終わり方はしないぜ。



「「おかえりなさい。回、歩花」」



 玄関が開くと、親父と母さんが立っていた。もうドバイから帰っていたんだな。



「二人とも!」

「久しぶりだな、回。おぉ、たくましくなったな! 歩花とラブラブのようだし、なにかあったんか?」



 歩花は俺の腕に絡みついていた。ので、ただならぬ関係を親父は悟ったらしい。顔を赤くする歩花は、俺から素早く離れた。



「ち、違うもん。お義父さんの……ばかっ!」



 ぷんすか怒って歩花は奥へと消えた。



「も~、お父さんってば歩花ちゃん、難しい年頃なのよ」

「すまんすまん、母さん! でもな、回が成長したと思わんか?」

「そうね。数週間前に比べてたくましくなったかも」



 二人は俺をジロジロ見てくる。

 なんだよ、俺はそんなに変わってねぇぞ。少し日焼けしたくらいだ。



「そんな見るなって。それより、親父。話がある」

「あん?」



 玄関の外へ呼びだし、俺はこれまでの旅の事を話した。



「――というわけで宝くじで当たった。あと婆ちゃんにも挨拶したし、歩花と付き合うことにした」


「…………」



 親父は唖然としていた。いや、脳の処理が追い付いていないようで思考停止していた。そうだよな、こんな話、信じられないよな。



「全部本当だ」

「そうか。まあ、お前の人生だ。お前が決めろ」

「いいのか。ちなみに、宝くじの分け前は渡さんぞ」

「いらんいらん。その金はお前と歩花で使えばいい。あ、でも少しくらい親孝行しろよ」

「分かってる。あとでちまちま渡すよ。大胆に渡すと贈与税が掛かるからな」

「お、分かっているじゃないか、回」



 親父は、俺と歩花の関係も認めてくれた。

 きっとそうなるだろうと予想もしていたようだ。義理の関係なのだから、結婚も別に問題ないとしてくれた。いいのかよ。ありがたいけど!



 部屋に戻ると歩花の姿がなかった。

 あれ、どこへ。


 そこら中探してもいなかった。

 もしかして……。



 インディ272へ向かうと、明かりがついていた。やっぱり中にいた。



「歩花」

「お兄ちゃん」


「寂しいよな」

「うん。もう夏終わっちゃうね」

「そうだな。でも思い出は常に心の中にある。これからも作り続ける」

「……だ、だからね。お兄ちゃん」


「ん?」


「また思い出……作ろ。今度は……赤ちゃんできちゃってもいいから……」

「ちょ、歩花!」

「お兄ちゃんの子供欲しい……」


「まだ早いって。今は愛し合うだけでいいだろ」

「でも~」



 もうダメだ。歩花にここまで求められると……俺は我慢できない。

 責任取るしかないよな!




【三年後 - Three years later】



 四国一周の旅を終えた頃……春夏冬あきなし あきが誕生した。可愛い女の子だ。

 今度は我が子を連れて全国一周、車中泊の旅だ――!



- 完 -



◆ありがとうございました!



『ヤンデレ義妹と旅するえっちな車中泊生活』を応援していただき、本当にありがとうございました。


 二年以上に及ぶ超大作となりましたが、これにて無事に『完結』とさせていただきます! 寂しくもありますが、どうしても放置だけは避けたかったので、多少強引でも終わりまで進めました。


 文字数にして二十六万文字にもなり、ラノベ約3巻分相当となりました。ここまで続けられたのは皆さまの応援のおかげです。


 中でも個別にお礼を言いたい方もおります。この場を借りてお礼申し上げます。


 @yamamoto_aloe様、最後まで追っていただき感謝です! まさか二年間も追っていただけるだけでなく、コメントも毎回していただけるとは感激でした。不定期更新になりながらも、最後までお付き合いいただけたのは大変嬉しいです。

 あんまり返信できなくて申し訳なかったのですが、これからさせていただきます!

 @yamamoto_aloe様のコメントのおかげと言っても過言ではありません。また番外編もやりますので立ち寄っていただければと思います。本当に本当にありがとうございました。


 @nonmark様、ありがとうございました。優しいコメント、感謝です!


 @Crecent04様、最新話まで追いついていただき嬉しかったです! 返信もしますね!


 @yomuanii様、この作品を通して長野の聖地巡礼してくれた方だったので驚きました! それと長いサポーター支援をありがとうございました。ゲーム制作などご期待に沿えない部分もあり申し訳なかったです。また聖地巡礼してみてくださいねっ!



◆今後について


①不定期になりますが『番外編』をいくつか予定しています!

②北海道編もいつかやりたいです


気長にお待ち下さいw



◆他にも作品を更新しています!

https://kakuyomu.jp/users/hana6hana/works

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