美味しい野菜カレーを義妹と
「歩花、寂しかったのか」
「うん……一人は寂しい。お兄ちゃんと一緒じゃないと辛すぎるもん」
せっかくの二人旅だ。
少しくらい羽目を外してもいいか。
外し過ぎな気もするけれど。
いや、これでいい。
これでいいんだ。
俺も歩花も幸せでWin-Winなのだから。
* * *
なんだかんだで一時間は浸かっていた。
他の客が来ないかと冷や冷やしたが、幸いにも誰も入ってくることはなかった。
歩花には先に出てもらい、着替えてもらった。次に俺も。
着替え終えて、俺は脱衣所を出た。
外にはすっかり闇夜になった星空を眺める歩花の姿。
右手を伸ばし――、
星を掴もうとしている。
「――――」
俺はつい見惚れてしまっていた。
ただ、
ただ、そうしているだけなのに。
女の子ってこんな何気ない動作でも絵になるな。
俺は歩花が儚くて美しいと思った。
「あ、お兄ちゃん。おかえり」
「お、おう。流れ星でも見えたか?」
「う~ん、流れ星はまだ見えないっぽい。でもさ、山奥だから星がこんなに輝いてる」
標高があるせいか、星々が直ぐそこにあるように感じる。……ああ、歩花の気持ちが分かった。これは、つい手を伸ばしたくなる。
「もし見えたら願い事しろよ」
「うん、お兄ちゃんと結婚できますようにって願う」
「――ッ!」
俺は思わず転びそうになった。
歩花の気持ちがどんどん強くなっているな。嬉しいけどね。
俺も歩花が好きだし、離したくない。
「お兄ちゃん、顔赤いよ?」
「う、うるさい……。それより宿泊地へ帰るぞ」
「そうだね、いっぱいえっちなことしようねっ」
「……ばかっ」
まったく、歩花ってば……俺をいつもドキドキさせやがる(ガッツポーズ)。
――キャンピングカーへ戻り、俺は再び『平湯料金所』へ戻った。
駐車場は、三台ほど車中泊目的らしい車が停まっているだけだった。これなら静かに寝られそうだ。
「……よし、飯にすっか。部屋へ移ろう」
「おっけ~!」
車を降り、後部座席の居住スペースへ。
ポータブル電源の電池残量は――問題ない。天候も良かったし、ソーラーパネルの充電はきちんとされていた。
走行充電もかなり活かされている。
この二つの充電があれば、一日くらいは何とかなる。
USB接続のLEDライトを照らせば、自宅の照明と変わらない空間に早変わり。
「ポータブル冷蔵庫に使っていない食材があるから、レトルトカレーに混ぜて使おう」
「おぉ、いいね。確か、肉入りカット野菜、半熟煮卵とかあるよね」
「ああ、野菜カレーにでもするか」
「うん、歩花も手伝う?」
「いや、これくらいな直ぐ出来るさ」
こんな時はIHクッキングヒーターの出番だ。
ガスといきたいが、周囲に車も止まっているし……火は危険だ。
電池残量はたっぷりあるし、ちょっと料理するくらいIHヒーターで問題ない。
IH対応の鍋を用意し、そこへ貯水タンクから水を注ぐ。
あとはボタンを押して沸騰を待つだけ。
出力の高いIHだが、火力を押さえればワット数も抑えられる。中火よりも下にすれば、300~500Wあたりだ。
沸騰したところでレトルトカレーのパウチを投入。
その間にご飯と具材も調理していく。
ご飯はレンチンのヤツだ。
だが、レンジがないので中身を湯煎用袋へ。更に、コンビニで買っておいた『肉入りカット野菜』も別の湯煎用袋に突っ込み、それを今に詰めているパウチと一緒に煮詰めていく。
なかなか缶詰め状態だが、これで全てを温められるというわけだ。
「お皿用意するね」
普通のお皿のサイズと変わらない紙皿を出す歩花。
100均のヤツだけど、洗わずそのまま捨てられるから楽なんだよな。
出来るまでニュースサイトで世界情勢を確認したり、動画サイトで暇つぶし。そうしているとカレーは完成した。
「野菜カレーの完成だ」
「結構早かったね! 良い匂い」
簡易テーブルの上には、俺の作った野菜カレーと一升瓶の安曇野りんごジュース。このりんごジュースにはハマってしまった。
「さっそく食べよう」
「うん、いただきます」
俺も“いただきます”をして、スプーンを取った。
ぱくっとまずは様子見で味見。
……うん、我ながら上手くいったな。
「どうだ、歩花」
「美味しい! なんかちょっと甘いね」
「フフ、隠し味を入れておいたからね」
「隠し味?」
「ああ、ハチミツを入れておいた。甘くなるし、コクも増すんだ」
「へえ、知らなかったなぁ。さすがお兄ちゃん」
満足そうに微笑む歩花。
……あぁ、俺はこの笑顔が見れるだけでお腹がいっぱいだ。
こうして、歩花とのんびり車中泊する時が一番幸せだ。
まったりした食事が進んで――片付けも済ませた。
「おし、俺はツブヤイターでもやるかな」
「あ~、そうえいば歩花のツブヤイターね、フォロワーさん結構増えてるんだ」
「そうなのか?
また変な
「大丈夫だよ。最近は使いこなせてきたし、変なのはブロックしてるもん」
「良かった。頼むからえっちな画像はアップロードするなよ」
「しないよー。だってお兄ちゃん以外に見られるの嫌だから」
ほっ、どうやら変な写真とかは投稿していないようだ。安心した。
俺は今日の写真やら出来事をつぶやいていく。
フォロワーたったの三十人にも満たないものだけど、俺と歩花の思い出を残すブログ代わりだから、これでいいのだ。
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