浮気者……お兄ちゃんの浮気者!

 とにかく説明しようと外へ出る。

 しかし、事態は更に悪化。

 なんと紺とアルフレッドさんもいたのだ。



 ウソだろ……!!



 三人に聞こえちゃった可能性が……。まずい、まずい、まずい……! なんとか弁明しないと!



「お、おはようございます。飛騨さん、紺、アルフレッドさん……あはは」



 空気が死んだ。

 これはマズイ、終わった……と、思っていると。



「ええ!? 今日から静岡に!?」



 紺が叫んでいた。

 ああ、そうだった。紺とアルフレッドさんに連絡するの忘れてた!



「す、すまん、紺」

「回お兄さん、どういうことですかー!!」


 涙目で訴えかけてくる紺。


「悪かったって。……ちなみに、さっき何も聞こえなかったよな?」

「なんのことです?」


 ほっ、どうやら歩花の叫び声は聞こえなかったらしい。俺は安心した。


「いや、とにかく済まなかった」

「もう戻られるんですね」

「ああ、夏休みも残り少ないからね」

「……分かりました。あたしたちも最後までお供しますね!」


 早くも気持ちを切り替えたのか、紺は納得してくれた。こういうサッパリした性格が俺は好きだな。


「さて、飛騨さん……」

「そうだね。私もついて行きたかったけど、地元が岐阜だからね」

「ですよね。でも、また岐阜に来ますよ」

「次回はもっと回ろうね」

「もちろんです。余裕をもってきます」


 飛騨さんとは、いよいよお別れとなった。先に実家へ戻るということで、俺と歩花、紺とアルフレッドさんは飛騨さんを見守ることに。



「ありがとね、歩花ちゃん」

「こちらこそです。またお兄ちゃんと一緒に来ますね」

「うん、約束だよ」


 歩花と抱擁を交わす飛騨さん。

 その後も紺とも抱き合っていた。


「飛騨さん、楽しかったです!」

「こちらこそー! 紺ちゃんもまたね!」

「はいっ!!」


 元気よく別れを済ます二人。まるでお祭りみたいに元気だな。

 さらにアルフレッドさんとも。


「お嬢様と過ごしていただき、感謝いたします。飛騨様」

「アルフレッドさんみたいなガチ執事に会えて新鮮でした」


 握手を交わす飛騨さんとアルフレッドさん。

 残るは俺だ。


「飛騨さん、改めて案内ありがとうございました。偶然の出会いだったけど、旅ってそういうものですよね。正直、運命を感じました」

「ちょ! 回くん、それちょっとプロポーズに近いよ!?」


 そんなつもりはなかったんだけどな!?

 焦っていると歩花が『殺すよ?』みたいな眼で俺を見ていた。やっべ!! いや、ホントにそんなつもりなかったんだけどなぁ……。


「ご、誤解です!」

「あはは、冗談だよ。でもね、車を直してくれたの本当に助かったし、嬉しかった」


 飛騨さんはみんなの前なのにも関わらず、俺に抱きついてきた。

 大人の女性の良い匂いと、感触。

 柔らかくて、心さえも浮くような感覚。


 俺も飛騨さんに会えて良かった。岐阜を観光案内してもらえたし、軽バン車中泊の魅力を改めて知れた。そして、なによりも飛騨さんという大人の魅力を知れた。


 そうか……俺は無意識のうちに飛騨さんが好きになっていたのかもしれない。


「またいつか会いに来ます」

「うん、絶対だからね! ウソついたらハリセンボンだから」

「分かりました。肝に銘じておきます」


 俺から離れていく飛騨さん。

 彼女はエフリイへ向かい――乗車した。俺たちは最後まで飛騨さんを見守り、手を振って別れた。寂しくなるな。



「俺たちも行こう」



 紺とアルフレッドさんは、変わらず俺たちの後をついてくることになった。

 残り少ない夏休みで最後まで付き合ってくれることに。


 キャンピングカーへ戻るや、歩花は包丁を取り出して俺に向けて――うあああああああああああ!?



「浮気者……お兄ちゃんの浮気者!!」



 ブンッと首を掠める包丁の刃。

 あっぶねえ!!



「さっきのは別れの挨拶なんだから仕方ないだろ。少しは寛容にだな」

「その割に、お兄ちゃんってば下半身が興奮してるじゃん! 歩花では全然興奮してくれないのに!」


「そんなことはないぞ!? 俺は歩花にいつも興奮してる!!」


 必死に弁明すると、歩花は攻撃を止めてくれた。


「絶対? ウソじゃない?」

「ホントだ。俺は歩花に依存したいし、歩花も俺にもっと依存してくれ」

「……えへへ。そうだよね、お兄ちゃんは歩花のものだもんね」

「そうそう! だから、な?」

「うん、お兄ちゃん好き。大好き」


 ……ふぅ、危なかった。

 最近の俺は歩花の扱い方が慣れてきたかもしれない。暴走しても比較的短時間で止められるようになったし、とりあえず一安心だ。

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