みんなで焼肉食べ放題と乾杯を

「え、あれ! 松本城にいたお姉さんだよね?」

「そうだよ、歩花ちゃん。間違いないよ!」



 ナンパされたという歩花と紺がビックリしていた。どうしてここにいるの? と不思議そうに俺を見つめてくる。

 いやいや、俺を見つめられても困るのだが。



「さっき偶然出会ったんだ。なあ、安曇野」

「え? あ、うん。そうそう」


 安曇野は何故か酷く慌てる。

 ん~? なんだか怪しいな。

 落ち着きがないっていうか、目も泳いでキョロキョロしているし――手足も少し震えているように見える。


 まさか……まさかな。

 いやいや、安曇野に限って尾行びこうとか、ないよな。うん。


 そんなストーカーみたいなことするわけない。俺は信じている。……多分。



「というわけで、高校時代の元同級生の安曇野だ」

「えっと、歩花ちゃんと紺ちゃんだったよね。私は安曇野あづみの ももというの。よろしくね」



 丁寧に挨拶する安曇野。歩花と紺と握手を交わし、親交を深め一瞬で仲良くなっていた。



「安曇野、俺たちは飯へ行く。一緒に来るか?」

「ほんと? でも、お邪魔しちゃっていいのかな」



 俺は一応、歩花と紺に確認を取った。



「安曇野も仲間に入れていいか?」



 まず先に紺は同意した。



「あたしは、いいですよー」



 ふむふむ、紺は問題なし――と。

 あとは歩花だが……。



「歩花はどうだ?」

「……お兄ちゃん、カッターナイフがいい? 包丁がいい? それともノコギリ? あぁ、チェンソーもいいかもね。えへへ……」


 目がわっていらっしゃる。

 俺を殺す気満々じゃないか。

 というか、病む病むモード突入中だったか。しまったな、このままでは俺どころか安曇野にまで被害が及ぶ。


 俺は、安曇野と紺に「ちょっと待ってくれ」と待機をお願いし、歩花を隅へ連れていく。



「こら、歩花」

「……お、お兄ちゃん。怒ってる?」

「人数は多い方が楽しいと言うぞ」


「だって、これ以上ライバル増えたら……わたし、お兄ちゃん刺しちゃうもん! あの安曇野って人、すっごく美人だし、スタイル抜群。あんな自然に愛嬌を振りまいて、お兄ちゃんなんて目線が安曇野さんの胸ばかり!!」



 最後はおかしいけどな。

 そんなところ見てないってーの。どちらかと言えば顔は見ていたけど。いや、まあ……安曇野の胸には触れてやるなって。禁句だぞっと。



「もう我儘わがままな妹だなぁ。でも、そこが歩花の可愛いところでもある。大丈夫さ、歩花には安曇野に負けないほど立派なものがあるじゃないか」


「本当にそう思う?」


「思う思う。だから、皆で食事しよう」

「分かった。安曇野さんに負けないからね」

「大丈夫だよ、歩花は世界一可愛いからな」

「うん、わたしもお兄ちゃんが世界一大好き」

「おう」



 ようやく復活してくれたので、歩花を連れて安曇野と紺の元へ。二人は不思議がっていた。



「回くん、歩花ちゃんと何していたの?」



 安曇野から怪しまれている。

 これはそれっぽく誤魔化さないとな。



「歩花は、たまに心の病を発症するんだ。だから、俺が癒してやらないといけないんだよ」

「そうだったんだ。大変なんだね」



 ある意味間違っていないのでセーフだ! たぶん!



 * * *



 お店は多数決で決定した。その結果『焼肉』となった。健康ランドに焼肉食べ放題があるとは思わなかった。


 中へ入ると、飲食店の空間がそこにあった。そのまんま焼き肉屋だ。


 六人席とカウンター席がそれぞれあった。


 空いているテーブル席へ座る。


 俺の横に歩花。

 俺の前には安曇野、その横に紺という形となった。



「なかなか良い雰囲気のお店ね」

「そうだな、安曇野。って、健康ランド常連客なんだろ? 初めてなんだ」

「うん、焼き肉店は利用したことないからね。けど、この焼き肉店って一人焼肉専用スペースもあるんだね~」


 確かに、カウンター席がそういう作りになっていた。

 ソロ旅とかソロキャン目的の人なら、利用しやすくていいかも。



 さっそくメニューを選ぶ。

 この店、タッチパネルの端末を使って肉とか野菜の種類を選べるようだ。



「へえ、お兄ちゃん。このタブレットで選ぶんだね」



 歩花は、あんまりこういう経験がないのか目を星のように輝かせていた。そういう俺も、ちょっと心が躍っていた。


 ガジェッターの紺は、特にテンションが高かった。



「あぁっ! いいですね、いいですねぇ。最新のタブレットで注文できるとか、時代は進化しているのですねぇ。うんうん、もっと進化して!」



 本当にガジェットが好きなんだなぁ。

 感心しながらも、俺はタブレットのメニューを進めていく。


 カルビ、タン塩、ハラミ、ロース、ホルモン、サーロイン、シャトーブリアンなど肉を選択。飲み物は黒烏龍茶、緑茶、コーラ、レモンサワーを注文した。



 これで後は待つだけ。

 しばらくすると、飲み物が届いた。



「俺は黒烏龍茶。歩花は緑茶だな」

「うん、ありがとね、お兄ちゃん」


 嬉しそうに受け取る。

 俺の隣の席だから機嫌が良いんだろうな。

 でも良かった。


「回お兄さん、あたしはコーラです」

「はいよー。コーラな」

「ありがとうございます!」


 最後にレモンサワーを安曇野へ。


「へえ、お酒を飲むんだな」

「残念。これってノンアルコールなんだよねぇ。メニューを選択するときに有無を選べたの」


「まあ、さすがに飲酒はまずいわな」

「お酒は二十歳になってからだからね。ちなみに、ノンアルコールは炭酸飲料なので法律には抵触しないんだ。ていうか、回くんは黒烏龍茶?」


「脂肪の吸収を抑えてくれるんだ。健康的でいいぞ」

「はえー、だからそんなに痩せててスリムなんだ」


 なんか褒められた?


 それはともかく――乾杯だ。



「みんな、今日一日最高の旅だった。乾杯!」



「「「かんぱぁぁぁいっ!!!」」」



 カンッ――と、グラスを合わせ、そのまま口をつける。ごくごくと一気飲みして喉を潤した。


 歩花も紺も、そして安曇野も幸せそうな顔を浮かべた。

 さぁ、もうすぐ焼肉も来るぞ。


 ここからが本番だ。

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