名所『木崎湖』観光
温泉の駐車場に停めっぱなしもマズイので、近くの『木崎湖駐車場』へ向かった。車で二~三分の移動距離らしい。
ついでに『やまく館』の前を通り、今夜の宿を確認した。
「へえ、なんか家っぽいけど泊まれるんだね」
「そうらしいよ、歩花」
俺も始めて見る“民宿”に少しテンションが上がった。
家のようだけど立派な宿屋だ。
駐車場が広くて開放感があるな。
少し歩けば木崎湖だし、温泉だし――何ならコンビニも近い。立地はかなりいい。
車を走らせ、駐車場を目指す。
前には安曇野のエックストレイル。後ろには紺のハンタークロスカブ。隊列をなして山寄りの田んぼ道を走っていく。
ちょっと離れただけで山奥感が凄いな。
あっという間に緑一色に囲まれた。
三分ほど走って、駐車場に到着。
車は結構停まっていた。
さすがシーズンだけあるかな。キャンプ場もあるらしく、客も多いようだ。
林の中にある駐車場に車を停めた。
「ふぅ、到着」
「ねえねえ、お兄ちゃん。あれが木崎湖なんだね」
微かに見える青い湖。
林の間からでもキラキラと宝石のように輝いていた。まるで絵画のような
「そうだろうな。かなり広大のようだし、見にいってみよう」
車から降りて紺と安曇野と合流。
「さすがにちょっと暑くなってきましたねぇ」
空調服のファンをフルパワーにする紺は、ハイドレーションで水分補給しながら言った。毎度ながら便利なヤツだ。けど、紺の言う通り蒸し暑くなってきた。
夏の暑さを感じながら、歩き出す。
バンガロー村と林の間を抜けていくと――広大な湖が広がった。
「「「「おぉ!!」」」」
俺含めて全員が感動を漏らした。
なんて水の透明度だ。
透き通っていて完全に澄み切っていた。
これほどの清水は都心では見られない。
山に囲まれた大自然。
肌を撫でる心地よい風。
空気が美味しすぎる。
嫌なことなんて全て吹き飛ぶ気分だ。
それほどの爽快感がこの場所にはあった。
「回くん、
「それはマジか、安曇野。よし、行こう」
少し先に“桟橋”があった。
数十メートルは伸びる木の橋。
湖の結構奥まで続く橋だった。
歩花と紺は、はしゃいで走って行ってしまう。
「おい、二人とも走ると危ないぞ」
「大丈夫だよ~。お兄ちゃん!」
「そうですよ、回お兄さん」
いやいや、歩花に限っては『大王わさび農場』の時に転落しそうになったんだが。もしかして、もう忘れたのか……心配だなぁ。
まあでも、底は浅いようだし溺れる心配はなさそう。
周囲でスタンドアップパドルボードやカヌーを楽しむ客もいるし、なんなら水着姿で普通に泳いでいる人もいた。
他力本願だが、いざとなれば助けて貰えるかな。
いや、もちろん俺が全力で助けるけど。
桟橋を歩いていく。
う~ん、なんて開放感。雄大な景色が心を癒してくれるし、なによりも可愛い女の子達とこうして歩ける奇跡に感謝したい。
「宇宙人みたいな顔してどうしたの、回くん」
「そ、そんなキモイ顔をしていたか俺」
「嘘だよ。ニヤニヤはしていたけど」
「そりゃな。こんな自然に身を預けられる幸福感よ。なんだか全能感さえ覚える」
「でもさ、回くんって実際なんでもできそうだよね」
「なんでもはできないよ。俺は今、歩花を幸せにするだけで手いっぱいさ」
「そっかぁ。歩花ちゃんは幸せ者だね。……羨ましい」
安曇のは最後、ボソッと何か言った。
なんて言った?
「安曇野こそ、誰かに幸せにしてもらっているんじゃないか」
「ある意味ね。……そうだ、今こそ私の気持ちを……」
また声が小さくなった。
耳を傾けようとすると、いつの間にか目の前にいた歩花が俺の腕を引っ張った。
「一番端まで行ってみようよ、お兄ちゃん」
「あ、ああ……そうだな。すまん、安曇野。話は後で」
妙に落ち込む安曇野。
けれど直ぐに笑顔を向けてくれた。
「うん、行こっか。回くん、歩花ちゃん」
ギシギシ軋む桟橋の上を歩いていく。
先端まで行くと、木崎湖に囲まれた気分になった。この場所で仰向けに倒れたら、もっと気持ちいいだろうな。
幸い、人はいない。
俺は腰掛けようとすると、紺が既に“ぐて~”と液体になっていた。続いて歩花も、安曇野も。そして俺も倒れた。
雲一つない青空。
四人で見上げる空。
みんなと一緒に来れて良かった。
* * *
湖を堪能して、いったんキャンピングカーへ戻った。
各々休憩となり俺と歩花は水分補給して、まったり。この後、湖周辺を歩こうということになった。
「木崎湖、良い場所だな」
「そうだね、お兄ちゃん。ここ、
「住んでいる人が羨ましいな。俺もこういう辺境の地でのんびり余生を過ごすとかしてみたい」
「あはは、お兄ちゃんってば、まだそういうの早いと思うよ~」
「宝くじで十分なお金は得たからなぁ。あとは投資とかして無駄遣いせずに慎ましく生きれば生活できると思う」
なんて半分は冗談だけど。
今は旅の方が優先だ。
でも、歩花はちょっと違ったらしい。
「それもいいかもね。お兄ちゃんとなら絶対楽しいもん」
「歩花……」
「だから、安曇野さんの言うことは聞いちゃダメだよ」
鋭い声が耳元で響く。
……びっくりした。
突然、歩花が俺に抱きついてきたんだ。
「え……」
「さっき、安曇野さんの様子がおかしかった。何か言おうとしていたよ」
「な、何かって何だよ。俺にすら分からないことが歩花に分かるのか?」
「うん、分かる。だって、同じ気持ちを持つ女の子だから……」
俺の喉元に調理用のナイフがつきつけられる。
「ちょ、歩花……最近は落ち着いていたのに」
「さっきのは危なかったから……許せなくなっちゃった。お兄ちゃん、安曇野さんに優しい表情向けてた。あの顔を向けていいのは歩花だけ。なのに……!
……約束して。安曇野さんの答えには絶対に“ノー”と答えること」
今にも喉元を切られそうなので俺は冷静に答えた。
「あ、ああ……心配するなって」
「歩花の気持ちを裏切ったら刺し殺すからね」
激しくキスされ、俺は……俺は……。
あぁ、
歩花が狂おしいほどに――愛おしいと思ってしまった。
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