木崎湖園地で遊覧デート
木崎湖の周辺を歩く。
徒歩で『木崎湖園地』まで向かった。
徒歩十分ってところだったな。
そこには、滑り台とブランコなど遊具があった。木製のベンチも並んでいて、そこでのんびり木崎を望めた。
「ここの景色良いですね~!」
紺が滑り台から滑ってきた。
歩花と安曇野はブランコに揺られていた。何か話しているみたいだな。……少々心配だが、この場所はなんだか、ほのぼのしていて良いな。
「そうだな、お山の景色も目と鼻の先。なのに湖もこんなに広がって――よく見ると、
「そうですね。カヤックとか手漕ぎボートもいます。ねえ、回お兄さん、どれか乗ってみません?」
「そうだな、今スマホで調べたけど、三人乗りと六人乗りのペダルボートの貸し出しをしているようだ。六人乗りなら皆で乗れるな」
「いいですね、木崎湖を遊覧しましょ!」
決まりだな。
俺は、歩花と安曇野を説得。ボートへ乗らないかと提案。二人とも承諾した。……それにしても、二人きりで何を話していたんだか。
近くのモダンボート屋へ向かい、店員にお願いすると今は『三人乗り』しか貸し出ししていないということだった。マジか!
六人乗りはないのか……となると、二手に別れるしかない。
「歩花、紺、安曇野……そういうわけで、じゃんけんで別れるか」
「そ、そんな……」
歩花が青ざめていた。
そういえば、歩花はじゃんけんが弱いんだっけ。この中では最弱かもしれない。だが、決めねばならない。
「安曇野もいいか」
「う、うん……出来れば、回くんと二人きりがいいっ!!」
毎度ながら語尾でボソッと何か言う安曇野。
あとは紺だが……うわ、目がマジだ。
「回お兄さんと一緒になりますからね!!」
気合十分だな。
……さて、運命のじゃんけんだ。
グーとパーで別れましょのルールでいく。
掛け声をはじめ――
「「「「グーとパーで別れましょ!!!!」」」」
運命の分かれ道をお互いに下した。
回:パー
歩花:グー
紺:パー
安曇野:グー
なんと、さっきの公園でのデジャヴ。一致してしまった。これは偶然か……? それとも運命か。
紺は泣いてバンザイしていた。
安曇野は頭を抱えていた。
が、それ以上に歩花が顔面真っ青でヤバイ。今にも泣きそうだ。
俺は歩花を連れ、少し離れた場所で慰めた。
「仕方ないだろ、じゃんけんなんだから」
「……相手がまだ紺ちゃんだから良かったけど、でもぉ」
「紺とはそういう仲じゃないし、歩花は安曇野と楽しんでくれ。てか、さっきも安曇野と何か話していたじゃないか。あれは歩花から?」
「う、うん。わたしから話しかけた。この前のこともあったし、きちんと謝って話し合った」
「そうだったのか。歩花、偉いぞ」
そうか、それであんな風に話していたのか。歩花がこんな風に人へ歩み寄るなんて――少し前では考えられなかった。歩花も成長しているんだな。
「じゃあ、安曇野と楽しんで」
「うん。でも一緒に並走はしようね」
「分かった」
ボートへ向かい、それぞれスワンボートへ搭乗した。ゆらゆら揺れて、ちょっと怖い。こういうボートに乗る経験は……そういえば、人生で初めてだ。
地元にこんなボートを乗れる場所なんてないしな。
「紺、かなり揺れるから手を」
「――手、手ですか!?」
「危ないだろ。ほらほら」
「…………は、はい」
頬が赤いな……あ、もしかして照れてるのか。
「どうした、こっち来いって」
「……いやぁ、そのスカートが」
今の紺は、カジュアルな半袖とミニスカートを穿いていた。全身がほぼ黒色で――いわゆる“地雷系”と呼ばれるファッションに近い。……てか、メイクとかも地雷女子っぽい。
「あ……そういえば、いつの間にか着替えていたな」
「もー、気づかなかったんですか、回お兄さん。あたしだっていつも空調服とかじゃないんですよ~。歩花ちゃんに負けないくらいお洒落好きなんです」
「すまん。俺はあっち向いているから」
「ありがとうございます」
紺がやっとボートに乗ってきた。
後ろの歩花と安曇野も準備万端だ。
「歩花、安曇野、出発するぞ~」
「おっけー!」
「回くん、こっちもいいよ~」
二人は出られそうだな。
先頭である俺も出発していく。
両足でペダルを漕ぐとボートが前進していく。
「おぉ、自転車みたいなものか」
「そ、そうみたいですね……」
「あれ……紺、大丈夫か?」
「あ、あたし、スワンボートは初めてで……こんなに揺れるんですね」
思わずだろうか、紺は俺の腕にしがみついてくる。そういえば、なにげに距離感も近いし……これ、ドキドキするな。
湖は穏やかで波こそないけど、水上は結構揺れる。それに、初めてボートに乗るから操作の加減とかよく分からない。
でも、なんとなくペダルを漕げば前進するし、ハンドルを切ればその通りに曲がってくれた。大きな自転車と思えば楽勝だな。
「操舵に慣れてきたよ」
「さすが回お兄さんです。お上手ですよ」
「そうかな。紺も漕いでみれば?」
「そ、そうですね。やってみよっと」
一緒になってペダルを漕いでいく。すると推進力を得てどんどん先へ進む。背後の歩花と安曇野も必死になって追い付いてくる。
俺は振り向て二人に問いかけた。
「おーい、歩花と安曇野。どうだー?」
「漕ぐの大変だよぉ~…」
「回くんたち、ちょっと早いってー!」
おっと距離が離れつつあるな。
少しペースダウンするか――と、ペダルから足を離すものの、波が強くなって流されていく。
「回お兄さん、なんか歩花ちゃんたちとどんどん離れていません!?」
「あ、ああ……まずいな。あっちもこっちも流されてるよ」
いよいよ姿が見えなくなり、困ったことになった。
「あー…あんな遠くに、歩花ちゃんと安曇野さんが」
「漕いで向かうか」
「……は、はい」
急いで向かおうとすると、たまたま通りかかったモーターボートの強い波が襲い、スワンボートを激しく揺らした。その勢いで紺が俺の方へ倒れてきたので、
「――あっぶな! 紺、大丈夫か……って、なんだこの柔らかい感触?」
「あぅ、あんな波が起きるんですね。……って、あ……」
この恐ろしいほど柔らかいものは――まさか。
紺の顔が真っ赤に染まっていく。
やっぱり、そうなのか!?
「す、すまん! そんなつもりは」
「い、いいんです。今のは事故ですもん。その……ありがとうございます?」
「不可抗力とはいえ、すまん。自首する」
「じ、自首はしないでください! 大丈夫です。回お兄さんなら痴漢にはなりませんし、今のは明らかな事故。この程度で訴えたりしませんから」
「よかった。女子高生の胸に触れたとか普通は逮捕だからな」
「安心してください、回お兄さんのことは信用していますから。それより、湖の透明度凄くないです? 綺麗……」
「ああ、澄んでいて底が見えるな。魚とか泳いでいるし」
そんなこんなで紺と二人きりのスワンボートを少し楽しみ、歩花と安曇野に合流した。時間も近くなり、ボートの遊覧は終了した。
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