車中泊生活、最後の日の思い出作り
歩花の炊いた白飯が炊きあがった。
それを使い捨てのどんぶりに投入。
俺はスーパーで購入した“マグロのたたき”を上にのせた。それと刻みネギを少々。あとは醤油をかけて『マグロのたたき丼』が完成。
お昼に海鮮マグロ丼を食べているが、やっぱり熱海に来た以上は海鮮ものが食べたくなる。
「完成だね、お兄ちゃん」
「ああ、出来た。さっそくいただこう」
「うん!」
冷たいお茶も用意できた。
椅子に座り、いただきますをして箸を手にした。
マグロのたたき丼をさっそく摘まむ。
桜色のマグロと白飯を一緒に口の中へ……。
「美味いな!」
「上手くできたね~!」
はじめてにしては上出来だ。
醤油のかかったマグロが絶品で箸が進む。
それと熱海の夜景。
建物が密集している街並みのせいか、想像以上のネオンを輝かせていた。百万ドルの夜景に匹敵するぞこれは。
宝石のように輝く街を眺めながら、手製のマグロのたたき丼を食べる。なんて贅沢な時間なのだろう。
「歩花、熱海に来て良かったな」
「これは幸せすぎだよ~」
「ああ、最高だ」
満足そうに笑顔を浮かべる歩花。二人きりでのんびりを飯を食う。これは車中泊でしかできない究極の時間だ。
この秘密基地は特別だ。
飯はサクサク進み、気づいたら完食。
ゴミを片付け、まったりタイムに突入した。
俺は就寝モードにすべく、インディの後部座席をベッド展開していく。その最中、歩花が声を掛けてきた。
「ねえ、お兄ちゃん」
「ん、どうした」
「紺ちゃん、ホテルで楽しくやってるって~」
歩花のスマホを覗くと、浴衣姿の紺とアルフレッドさんの写真が映し出されていた。ホテルで美味そうな料理を食べたり、露天風呂を楽しんだりしているらしい。
――って、紺……女湯で撮ってるのかよ。
た、谷間が見えているぞ……ギリギリの写真だなぁ。いや、現役の女子高生だからアウトかな。まあ、紺は歩花に写真を送っているのだから問題はない――!
「へえ、次はホテルで泊まりたいな」
「そうしよう、お兄ちゃん!」
実は歩花、ホテルへ行きたかったのだろうな。俺もどちらかと言えば行ってみたかった。でも、やっぱり最後は歩花と二人きりで過ごしたかった。だから、これで正解なんだ。
ゆっくりして就寝時間が訪れた。
もう零時か。
さすがに疲労で眠いな。
ここ最近、ずっと運転しているし……疲れた。
思えば相模原から長野、岐阜、静岡と走っているんだよな。
調べてみると走行距離800km以上は突破していた。ゴールすれば約900kmらしい。ほぼ1000kmといっても過言ではない。
長い旅をした。
夏休みをほぼ使い、ここまで来た。
楽しかった。
とても楽しかった。
でも、まだ終わりではない。
家に帰るまでが“旅”なのだから――。
今日は最後ということもあり、歩花は俺と一緒に寝ることに。
後部座席をベッド展開したので、そこで眠る。
横になり、歩花も俺の隣に。
「今日は網戸でも涼しいな」
「これなら快適に寝られるね」
「明日はついに相模原に帰るぞ」
「……もう帰るんだね」
「楽しい時間はあっと言う間だ」
「うん。無限に時間があればいいのにね。夏休みも終わっちゃうし、また学生生活……嫌だな」
「気持ちは分かる。でも、学業も大切だぞ」
「お兄ちゃんも大学あるもんね」
そう、俺も大学があるのだ。
今は暇な大学生だが、直に忙しくなる。……正直、宝くじで得た大金、残り約五億があるから、このまま中退してセミリタイアしてもいいのだが。
資産運用すれば、多分困ることはない。
その選択肢も考えても良さそうだ。
だが、歩花はダメだ。高校を必ず卒業してもらう。さすがに中卒は避けて欲しい。
「細かいことは帰ったら考えよう」
「分かった。……でもさ」
「ん?」
「こんなこと言っちゃいけないかもだけど、お金……あるよね」
申し訳なさそうにお金の話をする歩花。やっぱり触れるよな。そもそも、六億円を当てたのは歩花だ。実のところ権利は歩花にあるのだ。
だから俺が偉そうに言えることではなかった。だが、道を誤って欲しくない。高額当選した人の中には大金を使い果たして破産、不幸な人生を送ってしまうこともあるようだ。
兄としてお金に関しては厳しくしておく。歩花の為に。
「悪い子だな、歩花。……ダメだ。高校は卒業するんだ。俺との約束だ」
「ごめんね。ちょっと考えちゃっただけだから。だって、お兄ちゃんと一緒にいたいから……」
そんな風に言われると、肯定したくなっちゃうぞ……! いや、ダメだ。ダメダメ。
イケナイ考えを振り払い、俺は目を閉じた。
「寝よう」
「……うん」
だが、歩花は寝るつもりはないらしい。
唐突に俺の唇を奪い――キスをしてきた。
「………………」
車中泊生活、最後の旅。
思い出を残したいと思っていた。
けれど、歩花が望むかどうか分からなかった。
いや、歩花は望んでいた。ずっとずっとこの旅の最中、俺を求めていた。俺も歩花を求めていた。
今晩こそ、歩花と……。
◆あとがき
まだ完結ではありません。
いつも追っていただき、ありがとうございます。
この作品をはじめて、なんと二年が経過していました。こんなに長期連載になる予定ではなかったのですが、皆様の応援のおかげです。
毎回コメントをくださる方もいて、本当に嬉しく思います。
未だに新規様の流入もあり、最新話まで追ってくださるので感謝しかありません。この場を借りてお礼申し上げます。
さて、お気づきの通り『ヤンデレ義妹と旅するえっちな車中泊生活』は、最終章に突入しており、ゴールである相模原に帰還して完結となります。
あと2~3話程度となる予定。
思入れのある作品だけあり、きちんと完結させておきたいのです。
ついに終わりとなりますが、最後までお付き合いいただけると幸いです。
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