冷暖房機能あり、最新式のポータブルエアコン

 パトカーは去った。

 静けさが戻ると同時に、飛騨さんがくっついてきた。突然の行為に俺は心臓が高鳴る。


「助けてくれてありがとね、回くん」

「……っ! と、当然のことをしただけです。というか、俺あんまり役に立たなかった気が……」


「そんなことない。カッコ良かったよ」

「そ、そうですかね」


 褒められてなんだか嬉しかったし、照れ臭かった。


「お礼がしたいし、私の車に来ない? もちろん、歩花ちゃんも」

「いいんです?」

「もちろん。それにほら、車内紹介がきちんと出来てないし」

「飛騨さんがいいなら、ぜひ」

「じゃあ、待ってるね!」


 爽やかに去っていく飛騨さん。よかった、さっきのトラブルで落ち込んでいないかと心配したけど、逆に元気を貰った。



 俺はいったんキャンピングカーへ戻り、歩花と合流した。



「戻ったぞ~、歩花」

「おかえり、お兄ちゃん。遅かったね……?」

「少しトラブルがあった」

「トラブル?」

「ああ、酔っ払いに絡まれてしまってね。暴行を受けた」

「えっ、お兄ちゃん、ケガとかないよね!?」


 青ざめる歩花は、俺の体をまさぐってくる。く、くすぐったいっ! てか、どさくさに紛れてどこ触ってるんだ!?


「歩花! そ、そこはダメだって!」

「だって、お兄ちゃんに何かあったら嫌だもん」

「だからって、触れる場所が下半身っておかしいだろっ」

「大丈夫。歩花に身を委ねればいいんだよ」


 強引に俺のショートパンツを脱がそうとしてくるし、これはケガの確認どころではない。完全に歩花が俺を襲っている感じになっている!


 普通逆のはずだが、歩花は普通の女子高生とはちょっと違うようでエロいことに興味があるようだった。幸い、その対象が俺だけなので安心はあるが。


 しかし、この現場を飛騨さんや他の車中泊している観光客に見られたら俺は終わる。人生も終わる!


「すとーっぷ!!」

「あぁん、お兄ちゃんってば照屋さんなんだから」

「気持ちは嬉しいけど、場所が悪いから……」

「そっかー。歩花は気にしないけどなー」

「少しは気にしてくれ。さて、飛騨さんが待っているから向かおう」

「え、そうだったの?」

「車内を詳しく見せてくれるってさ」

「そうだったんだ。じゃあ、行こう」


 歩花は乗り気だった。てっきり興味ないかと思っていたが、これは意外な返答だ。

 決まったところで俺は電源を落とし、キャンピングカーのドアをロック。防犯意識は常に持っておかないとな。


 そのまま飛騨さんの車へ。


 俺は、飛騨さんの車の扉をノック。

 直ぐに反応があり扉が開いた。


「いらっしゃい、回くん。それに歩花ちゃん」


 LEDライトの昼光色の明かりが場を照らす。

 おぉ、車内は驚くほど明るいな。

 照明は棒状のバーライトか。それが二つ設置され、視界は良好だ。


「車内明るいですねぇ」

「でしょ~。これ、8WのLEDなんだ。二本16Wで省エネだよ」


 しかも、ポータブル電源は『EcoBlow』社製の酸鉄リチウムイオン電池。3,600Whじゃないか。サイズも容量もデカッ!

 あれだけで三日は余裕で車中泊できるぞ。


 しかも、同社開発・販売している最新のポータブルエアコンを設置していた。あれは、まさか!


「飛騨さん、車内が涼しいと思ったらポータブルエアコンを使っていたんですね!」

「よくぞ気づいてくれました、回くん。そうなのよ、十万以上の大金を叩いて買ったのよ~。これ高かったんだから」


 年々、小型化が急速に進んでいるポータブルエアコン。もう助手席に置けるレベルになっている。その通り、助手席には買い物カゴ程度のエアコンが設置されていた。きちんと助手席側の窓に排熱と吸気のダクトを設置していて、そのダクトに対しても断熱材を巻き付けてある。熱処理が完璧じゃないか! 感心した!


「それ、EcoBlow社の最新式ですよね」

「うん、発売されたばかりの最新版。初期も小さかったけど、更に進化したよね」


 一年前にもワンサイズ大きいポータブルエアコンが発表され、販売された。当時も話題になり、俺も喉から手が出るほど欲しかった。でも、価格が二十万弱と高額で断念していた。それでも、車中泊マニアからすれば神器に等しかった。


 ポータブルエアコンがあれば夏場を乗り切れる。汗だくになって寝ることなく、涼しい環境で快適に過ごせる。熱帯夜だって怖くない!


「ねえ、お兄ちゃん。これ、エアコンなの!?」


 歩花も初めて見るアイテムにビックリしていた。


「ああ、これはいわゆるスポットエアコンの類なのだが、飛騨さんのは最新式で、冷暖房の機能が備わっている。しかも、スマホのアプリで接続して細かい設定が可能なんだ。温度調整とかね」

「へえ、すごっ!!」


 感心する歩花は、飛騨さんに勧められて車内へ案内された。


「どう、歩花ちゃん」

「うわぁ、涼しい風が当たってます。これなら暑くないですねっ。あれ、でも床も冷たい」

「うん、冷感マットを敷いてあるからね。それ、意外と役に立つのよ~」

「凄いマットがあるんですね」


 飛騨さんなりに考えた夏の対策だろうな。にしても、凄すぎるけど。

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