義妹が襲われている!?

「ありがとうございました、飛騨さん」

「いやいや~、大したことないルームツアーだったけど、参考になれば幸いかな」


 飛騨さんは照れながらもそう言った。

 いや、しかしこの装備は女性にしては凄い。ガチでやっている気概を感じる。


 それから飛騨さんとはプライベートな話をしたりして打ち解けていった。



「へえ、飛騨さんは大学卒業後にペットショップの店員さんになったんですね」

「そうなの。しかも何故か彼氏ができなくてさぁ……。回くん、優しくてイケメンだし、私の彼氏になってよぉ」


 ずっと酒を飲んでいるせいか、飛騨さんは酔いながらも俺に絡んできた。うわっ、そんな抱き着かれると!!


「…………」


 やばい、歩花が病んでいくって!!

 俺は自ら飛騨さんから離れ、明日以降のプランを話した。


「そ、それよりも明日ですが……早くも岐阜を立とうと思います」

「えっ、もう!? なんで!?」

「思った以上に時間がないというか、ほら、夏休みもあとわずかじゃないですか」

「そもそも、どんな感じに回るつもりだったの?」


 本来なら、長野→岐阜→滋賀→京都→愛知→静岡→帰宅なんてルートだった。しかし、よ~~く考えれば時間が足りなさすぎると判明した。

 夏休みもあと一週間ちょっとしかない。

 全部回るのは無理すぎた。


「――という感じです」

「そりゃ無理だわ。観光地だってたくさんあるし」

「ですよね。なので、早くも折り返しかなと」


 そう事情を説明すると歩花が席を立ち、どこかへ走り出していった。……ま、まさかショックを受けたか。


 俺は急いで歩花の後を追っていく。


 けど、見失ってしまった。


 いったい、どこへ……!


 くそ、街灯があるとはいえ夜の暗闇に紛れられたら見つからないぞ。


 五分ほど道の駅を走り回ったが、歩花は見つからない。くそっ、くそっ、どこに行ってしまったんだ……!


 って、そうだ!

 スマホ!!

 慌てて忘れていた!


 すぐに連絡をして、俺は歩花の反応を待った。しかし、いつまで経っても歩花の反応はない。……ダメか。


 警察に連絡するかと悩んでいると、飛騨さんが声を掛けてきた。


「ねえ、回くん。歩花ちゃん、見つからないの?」

「ひ、飛騨さん……。そうなんです、歩花のヤツ……いきなり走り出して。多分、俺が今後のプランを話したから」


「そんな……! でも分かった。私も一緒に探すね」

「お願いします」


 いったん飛騨さんと別れ、俺はトイレの方へ向かった。二十四時間空いているトイレだ。……もしかしてトイレなのか。女子トイレだとすれば俺が入ることはできない。

 飛騨さんに後で確認してもらうか。


 いったん飛騨さんのもとへ戻ろうとした――その時だった。



「……た、助けて!」

「え!?」



 今の声、歩花……だよな。

 俺が聞き間違えるはずがない!!


 今の間違いなく歩花!!


 トイレの周辺のように思えた。俺は急いで走って回った。すると人影が見えた。あ、あれは……歩花! 誰かに襲われている!?


 ふざけんな!!!



 俺は猛スピードで走り、その人影を引き剥がそうと腕を掴んだ――が。……あれ、なんだ、細腕だぞ……。じょ、女性? それとも痩せこけた男?



「あぅ……! 回くん、痛いって!」

「え!? こ、この声は飛騨さん!?」

「そ、そうだよ。今、歩花ちゃんを見つけてさ」


「って、そうだったんですか!?」


 どうやら襲っていたように見えただけで、実際は飛騨さんが歩花を見つけた直後だったらしい。


「歩花ちゃん、私を暴漢と勘違いしちゃったみたいで。ほら、暗いし」

「そういうことかい!!」


 本当に襲われているかと思ったぞ。

 とにかく歩花は無事だった。

 逃げ出した理由を問い質すと、歩花は目尻に涙を溜めて話した。


「……だって帰りたくないんだもん」

「そうだったか。でも、すまん。俺の計画が大雑把すぎた。明日には静岡へ行こう。ほら、お婆ちゃんの家も寄れるしさ」

「でも……」

「残りの日数を考えると仕方ないのさ。大丈夫、夏休みが終わっても土日もどこかへ行こう」

「約束だよ……?」

「ああ、だからキャンピングカーへ帰ろう」

「うん」


 手を繋いで俺は歩花を連れ帰った。

 飛騨さんは空気を読んだのか静かに自分の軽自動車へ戻った。


 ふぅ、とりあえず歩花が無事でなによりだ。

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