エロ動画が流れてしまった件

 あれからは何事もなく、俺は先に風呂から上がった。そのままリビングへ向かい、ソファに身を預けてスマホで動画をチェック。

 今日はまだヨーチューブの車中泊関連の動画はアップされていないな。ネットニュースでも閲覧するかとタップし続けていると――歩花が戻ってきた。


「良い湯だったぁ~。今日、なんか香りが独特だったね」

「あぁ、草津の湯だからな。って、歩花!」


 よく見ると歩花はバスタオル一枚だった。……なんてカッコしているんだ。


「あー、これ? 直ぐ着替えるから安心して」

「そ、そうか……」


 大胆な格好にドキドキしていると、歩花が前屈みになって俺のスマホを覗いできた。ちょ、見えるって……!


「お兄ちゃん、なに見てたの?」

「ば、馬鹿! 胸がこぼれるぞ」

「え……きゃっ!」


 必死になってバスタオルを押さえる歩花。まったく、デカいんだから気を付けないと……めくれてしまうぞ。などと危惧きぐしていると、歩花は足元にあった何かを踏みつまずく。


 ……え、ちょ、マジ!?

 こちらへ倒れてくる歩花を俺は腕でキャッチする。


「歩花!」

「……いったぁ! 危なかった……ありがとね、お兄ちゃん」

「いったい、何を踏んだんだ? あぁ、タブレットかあ」


 タブレットが宙を舞ってソファに落ちてきた。なんで、あんなところに落ちていたんだ? 覚えがあるとしたら――多分、親父かな。普段は、リビングでゲームしたり動画見たりしているようだし。


「なんでこんな所にお父さんのタブレット落ちてるの~…」

「画面は割れてないな。にしても……ん、電源が入るな」


 バスタオル姿の歩花を抱えたまま、俺はタブレットの電源を入れた。すると【停止ボタン】が押されたままだった。なんだ、動画?


 俺は気になってポチッと再生を押す。


 すると――



『………、……、……!』



 大音量であえぎ声が響き渡り、なんか男の人と女の人が色んな意味でプロレスしている動画が流れた。



「…………え、お兄ちゃん、これ」

「いかん、歩花! お前は見るなっ!」



 親父のヤツ、エロ動画をそのままにするなああああああ!! おかげで歩花が食い入るように動画を見てしまっている!!

 てか、こんなところに秘蔵タブレットを放置しておくなよぉぉ……。すげぇ気まずい空気が流れているぞ。どうする。


「や、やだ……こ、これって……えっちなヤツじゃん。うぅ……」


 まともに見てしまった歩花が全身を紅潮こうちょうさせる。真っ赤っかだな……俺もだけどな。これはいくらなんでも、現役女子高生である歩花には、刺激が強すぎるって。

 とはいえ、性教育はある程度の理解があるとは思うけど……でもなあ。


「ご、ごめんな。親父がまさかこんなの見ているとは思わなかったんだ。つーか、エロ親父すぎるだろ……母さんいるのに」


「…………お、お兄ちゃんも、歩花にああいう事したいの?」

「なッ!」


 よりによってバスタオル姿の歩花に聞かれてしまう。やば……興奮してきた。


「さっきの動画を見たら……ちょっとムラムラしてきちゃったかも」

「ちょー! 歩花、それは普通、男の思考だ。女子高生が言っちゃダメだぞ」

「そ、そか。変なこと言ってごめんね」


 まったく、親父のせいで変な気を起こしてしまうところだったじゃないか。まだその時ではない。


「それより、風邪を引くぞ。歩花の部屋まで運んでやるから」


 歩花をお姫様抱っこする。


「お、お兄ちゃん?」

「このまま二階へ行く。ぼちぼち寝ないと」

「分かった」


 二階にある歩花の部屋へ向かう。


 階段を上がり、直ぐの部屋。

 入ると、そこには女の子らしい室内が広がっていた。可愛い人形とかアニメグッズとか綺麗に配置され、整理整頓が行き届いていた。


 歩花を降ろすと、俺の腕を引っ張る。


「どうした? 着替えないのか」

「あ、後でお兄ちゃんの部屋に行っていい?」

「歩花は甘えん坊だなあ。一緒に寝るか」

「やった! 今日もお兄ちゃんと寝れるー♪」


 歩花の部屋を去り、いったん自室に戻る。数分後には寝間着ねまきに着替えた歩花がやってきて、ベッドに潜り込んできた。

 なんか良い香りがする。


「さあ、もう寝よう。明日には通販で注文した品々が到着するだろうし、仕分けとか整理で大変だぞ。いよいよ出発の準備もしないと」

「そうだね、早くしないと間に合わなくなっちゃうし、夏休みもどんどん減っちゃうからね」


 明後日には、軽キャンピングカー『インディ272』も納車されるはず。そしたら、ついに旅に出るんだ。歩花と一緒に。

 その為には入念な準備が必要だ。明日からは、道具もそうだけど行先とか観光地の選定もしていかなければならない。


「そういえば、歩花は行きたい場所とかあるのか?」

「うーん、わたしはお兄ちゃんと一緒ならどこでもいいんだけどね。でも、それは困っちゃうもんね?」


「ああ、出来れば候補を挙げてくれるとありがたい」

「それじゃ~、江の島かな。後は富士山とか!」


 富士山はいつでも見れる気がするが、江の島か。それはアリだな。候補リストに入れておこう。


「ありがとう、歩花。詳しくは明日にしよう」

「了解だよー」


 もぞもぞと歩花は俺に抱きついてくる。や、柔らかいなぁ……。いかん、興奮して寝られなくなる前に寝るか。

 寝られるかなぁ……? ちょっと鼓動が早くなってきぞっ――と。




 酷い汗が俺を起こした。

 どうやら、エアコンが切れていたようで夏の暑さで目覚めたようだ。ベッドに歩花の姿はなかった。汗でもいてお風呂に行ったのかも。


 一階へ向かうと、チャイムが響く。誰だ、こんな朝に。


 玄関へ向かい、扉を開けるとそこには業者がいた。ああ、配達か……む。なんかダンボールの数が多いな。一気に到着したらしい。


「おはようございまーす。お届け物でーす。住所とお名前を確認下さい」

「ええ、問題ないです」


 確認を終えると業者の人は「あざっしたー」と礼を言ってさわやかに去って行った。――にしても、凄い荷物だな。

 ダンボールが山積みされている。引越しかよってレベルだな。これを家の中に運搬しないとなぁ……大変だぞ、これは。


 どうしたものかと立ち尽くしていると、また別の誰かが家にやって来た。ん、誰だ? ……って、あの眼帯の老人は、まさか!


「おはようございます、回様」

「アルフレッドさんか。という事は、狐塚ちゃんも?」

「ええ、お嬢様もお車の中に」

「ちなみに、どのようなご用件で?」

「ええ。明日には出発されるのですよね」

「早ければですけどね。まだ計画とか荷物が整理できていなくて」


 なるほど、とアルフレッドはうなずく。おっかない人だけど、優しい目をしている。


「それでは、お嬢様を今日一日お任せしたいのです」

「はぁ、構いませんが……本当についてくるつもりで?」

「ええ。お嬢様の意思は固いのです。昨晩は、御両親と喧嘩けんかもされたようで……」


 おいおい、そこまでかよ。

 凄いな狐塚ちゃん。

 そんな無茶しなくとも……でも、高校最後の夏休みだもんな。思い出くらい自分で作りたいよな。


「そういう理由なら分かりました。一応、聞きますけどアルフレッドさんはどう思っているんです?」


 聞くとアルフレッドは、胸に手を当てて少しうつむく。



「私はお嬢様の執事ですから、お嬢様のご意思を尊重いたします。故に、全力でサポートする覚悟でございます。ですから、どうか……」



 へえ、しっかりした人だなあ。こんな立派な人が執事なら、狐塚ちゃんも嬉しいだろうな。そうか、この人がサポートするなら安心もあるか。


「貴方の思いはよく理解しました。狐塚ちゃんはお任せください」

「ありがとうございます、回様。では、お嬢様を呼んで参りますので」



 今日は三人で『旅の計画』と『荷物の準備』だな――!

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