信州健康ランド①

 喫茶店『まるも』を出た。

 時間はだいぶ押している。

 そろそろ車中泊の準備をしないとな。


「紺、今日はもう明日に備えよう」

「そうですね、回お兄さん。では、あたしは宿泊先へ向かいます」


「宿泊先? どこで泊まるんだい?」


「信州健康ランドですよ~。ここから二十分くらいですね」


 スマホで調べてみると塩尻北インターチェンジ付近に『信州健康ランド』があるようだった。へえ、松本市に健康ランドか。いいね。


「歩花、今日は紺と一緒に信州健康ランドへ行かないか?」

「健康ランドって温泉だよね!? いいね! みんなの方が楽しいもん」


 ぱぁぁと顔を輝かせる歩花。

 決定だな。



 俺と歩花は一度、キャンピングカーへ。紺は、バイクを取りにいった。



 十分後には臨時駐車場で合流を果たした。ついにインディ272とハンタークロスカブのご対面。



「よし、紺は後ろからついて来てくれ」

「了解です! 125ccピンクナンバーなので余裕でついていけますよ~」

「おう。安全運転で気を付けてな」

「もちですっ」


 サムズアップを交わし、俺はインディの運転席へ。助手席の歩花がシートベルトを締めたことを確認して――出発。



 松本市道2026号線を走っていく。あとは県道295号を真っすぐ行き、国道19号を経由すれば到着だ。



「あ、見えてきたね、お兄ちゃん」

「おぉ、あのホテルみたいなデカイ建物か」

「うん、大きい! というか、ホテルに近いんだね」


 駐車場へ向かい、キャンピンカーを駐車。紺も駐輪場へ向かっていった。


 周囲は観光客かツアーバス、バイクが結構いた。


「さて、車を降りるか」

「でも、せっかくキャンピンカーがあるのに、ちょっと勿体もったいないね」

「そういう時もあるさ。それに、紺とワイワイやる方がいいだろ」

「それもそうだね。部屋とか借りるの?」


「さっき軽く調べたんだが、この信州健康ランドは『テレビ付リクライニングチェアー』とか『仮眠室』で寝泊まりできる部屋もあるようだ。その場合の料金は、入館料金の1,980円と深夜割増の1,100円を払えばいいらしい」


「つまり、3,080円で一泊できるんだ。安い!」



 さすが計算が早いな、歩花は。

 入浴だけして車中泊という手もあるし、もちろん普通に部屋を借りることもできるようだ。シングルルームで6,600円。和室三名以上で一人6,050円のようだ。



「ああ、施設の充実さを考え見れば、十分に破格だと思う。ゲーセンやカラオケ、麻雀ルーム、ネカフェコーナーもあるようだ」


「うわぁ、普通のネカフェより楽しめそうだね」

「そもそも、健康ランドだからな。温泉でゆっくりして、その後は美味しいものを食べて――ゲーセンで遊ぶ。これに尽きる」


「うんうん! 楽しみっ」



 車を降りて、キャンピングカーの居住区へ。着替えとか必要なものを荷物をリュックに詰めた。


「よし、準備はオーケー。紺のところへ行こうか」

「あ、待って。お兄ちゃん」

「ん?」


「一応、これを持っていくね」

「これぇ?」


 歩花の手には正方形の怪しいパッケージが――って、それはダメだ!!


「おいおい、歩花。そういうのはダメっつーか、なんで持ってるんだよ。もう、これは没収だ」

「あぁん……お兄ちゃんのいけずぅ!」


 いけずって。

 まさかそんな方言を使ってくるとは。

 ちなみに“意地悪”って意味らしい。



「あのな、紺もいるんだぞ。そんなの出来るわけないだろ」

「ごめんごめん、冗談だって」


 てへぺろと舌を出す歩花。

 まったく、えっちな妹を持つと苦労するけど、嬉しいな。



「じゃあ、行くぞ」

「はぁ~い。えっちな下着を詰め込んだので、大丈夫だよぉ」

「ぶっ! いちいち言わんでいいっ」



 * * *



 紺と合流。大きなリュックを背負っていた。大変だな、こりゃ。


「荷物を盗まれないようにしないといけませんし、バイクのセキュリティも万全にしておかないと」

「ああ、盗難とか多いよな」


「そうなんです、回お兄さん。なので、警報つきの錠をしてあります」

「旅先でバイクを失ったら大変だからな」

「ええ、ハンタークロスカブは人気車種ですからね」


 そんな話をしながら、受付へ。


「ああ、そうだ。一泊するんだよな」

「はい、あたしはそのつもりです。え、回お兄さんと歩花ちゃんも?」


 その紺の疑問に歩花が応えた。


「そうだよー。だからね、紺ちゃんと一緒の部屋にしようかなぁって話してたところ。和室を借りて三人で一泊する?」


「え、いいの! でも、あたし、最上階のツインを予約しちゃった」


 マジか。ツインの部屋って一泊14,300円もするぞ。さすがお嬢様だな。という俺達も宝くじで当てた大金はあるんだが。だから、ケチケチしなくともいいんだけどね。


「なるほど、それじゃ、歩花と紺で一泊するといいんじゃないか? 俺はシングルルームでも借りてゆっくりするよ」


「いえ、大丈夫です。回お兄さん」

「ん? どういうこと?」


「今、キャンセルしちゃいますので」

「え、キャンセルって……当日だとキャンセル料が100%で取られるだろう」


「いいんです。せっかくの旅行ですもん、記念の為なら惜しみません。だから、ツインはキャンセルして和室三人で泊まりましょ!」



 紺の提案に、俺は圧倒された。

 そこまでしてくれるとは……。

 そこまで俺達と一緒にいたいと持ってくれるとは、嬉しいじゃないか。それは歩花も同じようで、ちょっと涙目になっていた。



「紺ちゃん、本当にいいの?」

「いいよ。あたし、歩花ちゃんと回お兄さんと一緒がいい!」



 そんな笑顔で言われては、もう止められないな。


 紺は、受付でツインをキャンセル。きちんとキャンセル料を支払っていた。なら、和室は俺がおごろう。



「歩花、紺、和室を取るけど料金は俺が払う」



「え! お兄ちゃん、ほんとー!」

「さ、さすが回お兄さん! 太っ腹!!」



 歩花も紺も“わ~”と盛り上がる。



「構わないさ。よし、受け付けしてくるから、二人はここで待っていてくれ」



 二人からの尊敬のまなざしを貰い、俺は気分揚々になりながら受付へ。



「いらっしゃいませ、お客様。信州健康ランドへようこそ。ご一泊ですか?」

「はい、三名で和室でお願いします」

「うけたまわりました。お部屋の鍵をご用意いたしますね」



 こうして受付は完了。

 松本一日目は『信州健康ランド』で泊まることになった。




※あとがき

 完結ではありません。

 不定期で申し訳ありません。

 また、ちょくちょく続けて参ります。

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