ノーブラの妹とダム観光

 きっと俺の力を借りずとも、歩花はホックを直せるはずだ。だが、歩花はそれでも俺に要求してきた。


「で、でも……」

「ほら、早く」


 歩花は俺の手を握ってきた。

 そのままブラウスの中へ侵入していく。少し体温の熱を感じる。


 やがて、俺の指はホックに触れた。

 本当に外れているな。


「なあ、歩花。悪いんだが、俺はブラを扱ったことがないんだが」

「簡単だよ。引っ掛けるだけだから」

「……やってみる」


 歩花の背中に触れないよう、最大限配慮していく。――のだが、俺は緊張のあまり、手がプルプル震えてしまっていた。


「……ぁ」

「ちょ、歩花。変な声を出すなって」

「だ、だって……お兄ちゃんの指、くすぐったいんだもん」


 耳まで真っ赤にする歩花は恥ずかしそうにしていた。ていうか、周囲の人に見られそうで危うい。幸い、今のところ目撃されずに済んでいるけど。


「あ~、あった。小さな金具みたいなのがあるな」

「うん。それを引っ掛けて」


「にしても……結構キツキツだな。歩花、これ下着のサイズ合ってるのか?」

「お、お兄ちゃん…………あぅ。そ、そんな引っ張らないで」


 俺はついついグイグイと引っ張っていた。しまった!


「そんなつもりはなかった。てか、また大きくなったか!?」

「た、たぶん? 自分じゃ分かんないよ」


「そ、そうか。とにかくホックを……ん~、上手くいかないな」

「……っ。…………んん」


 なぜか歩花はもだえていた。

 まて、そんな感じるほどか?

 歩花が敏感なのは知っているけど、ここまでなのか。早く終わらせないと……確実に通報案件だ。



「歩花、待ってろ。直ぐ直してやるからな」



 不器用ながらも俺はホックを引っ掛けようと必死になる。けれど、上手くいかない。こんなの難しいのか。

 やはり、童帝の俺には難易度高すぎるな、この作業!!


 クソォォォォ……(涙目)



「も、もう無理……頭が変になっちゃう」

「あ、歩花?」

「お兄ちゃん、すとっぷ! 歩花、えっちな気分になっちゃう……なってるかも」

「お、おう……」


 歩花は目が恍惚こうこつとしていた。

 息も荒いし、これ以上はガチのマジでヤバイ。周囲から見れば犯行現場。俺はもれなく連行されるだろう。


 そうなる前に撤退っ。


 俺は歩花の背中から手を離した。



「お兄ちゃん、ありがとね」

「いや……失敗だったけどな」

「あぁ……そっか。って、お兄ちゃん! その右手の! 汗を拭いてるそれ!!」


「ん? 右手ぇ?」


 視線を自分の右手に移すと、そこには布が――って、これは歩花のブラだああ!? 歩花の下着で汗を拭ってしまっていた!! アホか、俺は!!


 こんなのタダの変態じゃないか!!



「んー…、まあいっか。それお兄ちゃんにあげるね。歩花だと思って使って」

「へ?」


「しばらくノーブラで過ごすね。その方がお兄ちゃんも嬉しいよね?」

「……ッ!」



 俺はもう何も言い返せなかった。

 けど、歩花のブラはポケットに保存しておいた……って、ダメだろうが!



「お兄ちゃん、顔が真っ赤だねぇ」

「う、うるさいな。てか、本当にいいのかノーブラで」

「すっごく恥ずかしいけどね。けど、ブラウスは着てるし……あー、でも擦れて嫌かも。透けちゃうし……でもいいや」



 いいのかよっ。

 結局俺は、歩花のブラを一時的にポケットへ保管した。……仕方ないな。



 * * *



 あずさを堪能し、駐車場へ戻ってきた。あれから、紺とアルフレッドさんは戻って来なかった。


 様子を見にN-VANへ向かう。

 すると向こうも俺たちに気づいて降りてきた。


「これは回様。申し訳ございませんでした。お嬢様の体調は戻られたのですが、大事を取って休ませていました」

「そうでしたか。その方がいいでしょう」


 俺は紺の顔色を伺った。

 う~ん、ちょっと青いな。



「ごめんなさい、回お兄さん……歩花ちゃん」

「いや、大丈夫だよ。それより、大丈夫か、紺」

「はい……なんとか。普段はバイクなので急に車に乗るとダメですね。あはは……」



 そういうことか。自分で運転で、しかもバイクに慣れていると見える景色が違うからなあ。分かる気がする。



「紺ちゃん、飲み物とか必要だったら言ってね」

「ありがとう、歩花ちゃん。気を使わせちゃってごめんね」

「いいの、いいの」

「……なんか歩花ちゃん、機嫌良いね?」

「えっ……そうかな」

「良いことあったんだね」

「う、うん。さっきちょっとだけね」

「ふぅん。なんか気になるけど聞かないでおくね」


 聞かれるとまずかったな。

 紺とアルフレッドさんにも見られないよう工夫して歩花の下着を直していたからな。


 焦りつつも俺は、アルフレッドさんへそろそろ出発すると伝えた。すると紺は、ゲンナリしていた。そんなにダメージあったのか……。



「承知しました、回様。後ろからついて行きますので、いつでも出発してください」

「では、また」


 俺と歩花は、キャンピングカーへ戻っていく。

 時刻は十七時前。

 日もぼちぼち沈んでしまう。


 その前には目的地である『平湯料金所』に到着したい。


 車に乗車し、準備を整えて出発しようとした――その時。歩花が叫んだ。



「……ひゃぅ」

「な、なにごと!?」


「シ、シートベルトを閉めようとしたら……擦れたの」

「そっちか! そういえば、ノーブラだったな。やっぱり、返すか」

「それはお兄ちゃんにプレゼントしたから。いいから、出発して」

「だ、だけど……」

「大丈夫だから。でも、変な気分になったら責任取ってね」


「……歩花、お前な。まあ良いならいいや」



奈川渡ながわどダムを出発。

国号158号を再び走行していく。


背後からアルフレッドさんが運転するN-VANもついてきた。よし、このまま一気に目的地へ。

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