お風呂で女子高生二人に挟まれちゃった

 アスファルトから放たれる猛烈な熱気。何処からともなく吹く熱風。燦々さんさんと降り注ぐ陽光。


 只今の気温は40度もあるらしい……。そりゃ、熱いわ。カリフォルニア州のデスバレーでは、56.7度という世界最高気温を叩き出したらしいが、温暖化が進めば、いつか日本もそうなるかもな。


 こんな地獄のような猛暑の中では、外なんて一歩も出たくない。さっさとアイスを買って帰ろう。


 コンビニに到着し、入店した瞬間――誰かとぶつかってしまった。


「うわっ……すみません」

「こ、こちらこそ……前をよく見てなかっ――え」


 相手はなぜか驚いていた。

 俺を頭のてっぺんから爪先までゆっくりと観察してきた。


「あの、なにか?」

「も、もしかして……回くん?」


 ん? なんで俺の名前を知っているんだ。こんな栗色の髪の、しかも迷彩服を着た少女の知り合いなんていないはずだが。



「ごめんなさい、誰でしたっけ……」

「あー、ひどぉーい! 高校の時、少しだけ同じ部活だったじゃ~ん」



 部活? はて……俺、なんの部活に所属していたっけな。過去を思い出していると、妙に懐かしい感覚に襲われた。


 あれ、もしかして……!



づみ……?」

「そう! づみ ももよ。キャンプ部の!」



 ――そうだ、キャンプ部だ!

 俺は興味があって、一週間限定で体験入部したんだった。しかし、あまりに過酷で断念した過去があった。


「キャンプ部っていうか、軍隊だったよ、アレは……」

「あは、あははは……そうだね。ニ十キロの荷物を背負って遠出とか無茶していたよ~。あれは、フルメタルジャケットに匹敵する訓練っぷりだった」



 本当ね。おかげで俺は入部しないで済んだ。安曇野とはその時に、ほんの少し話した程度だった。なのに、俺を覚えてくれていたんだな。



「よく俺って分かったな」

「まあ、印象が強かったし」

「そういうものなのか? で、安曇野は近所だったっけ」

「ううん。私はたまたま地元に戻って来ていたんだ。今は『長野』に住んでいるの」

「へえ、長野に?」

「ちょっとやりたい事があって長野で住んでる。ちなみに大学生だよ」


 なるほどねえ、安曇野が大学生で長野に住んでいたとは。


「もう帰るのか?」

「うん。明日には長野に戻る。残念だけどね……」

「そうか。もう少し話せれば良かったけどな」

「もし、長野に来る機会があれば寄って欲しいな。いろいろ案内するから」

「本当かよ! ちょうど明後日に旅に出る予定があるだ。もし、長野へ行く事があれば、安曇野に連絡するよ」


 そう俺が話すと安曇野は、顔を輝かせた。



「ほんとー! じゃあ、ライン交換しよっか」

「ああ、いいよ」



 俺は、安曇野を友達に追加した。

 ……なにげに同級生では初だな。しかも、たいして話した事もない安曇野を……。まあいいか、旅先に知り合いがいるというのは心強い。



「ありがと。これも何かの縁だね! 楽しみにしているよ、回くん」

「こっちもだ。もし長野に入ったら連絡する」

「良かった、地元に帰ってきて。まさか、回くんに会えるとか運命を感じちゃうな」


 安曇野は嬉しそうに微笑む。


「じゃあ……またな」

「呼び止めてごめんね。また、会えたら」


 手を振って、安曇野は去っていく。

 連絡先は交換したし、また会えるだろ。



 ――コンビニで人数分のアイスクリームを購入。帰宅した。



「ただいまー」



 リビングに入ると、そこには既に二人の姿があった。冷房にあたり、涼しそうだ。



「おかえり~、お兄ちゃん」

「回お兄さん、おかえりなさーい」



 エアコンの前に立ち、俺は汗をかわかす。



「おぉ、涼しいな。生き返る」

「お兄ちゃんもお風呂に行ってきたら? 汗、凄いでしょ」


「悪いな。二人ともアイスでも食っていてくれ。それと、もしよければ荷物の整理を頼むわ」


「うん。紺ちゃんと一緒に進めているよ~」

「任せたよ。歩花、紺」



 アイスを手渡し、俺は風呂へ。

 脱衣所に入りシャツを脱ぐ。……うわ、汗でベトベトだ。あれ以上、外にいたら干乾びていただろうな。今年の夏は暑すぎだ。


 浴室に入り、俺はシャワーからお湯を出して浴びていく。


 汗が流れていき、気分も爽快に――そんな中、脱衣所に気配があった。……え?



 その影はふたつ・・・あった。



 ちょっとマテ。

 まさか、歩花と紺なのか?


 固まっていると、扉が開いた。そこには予想通り、歩花と紺がいた。しかも、水着姿で。



「お兄ちゃん、お邪魔するねー!」

「か、回お兄さん……うぅ、恥ずかしい」



「ふ、二人ともどうして!? アイスは?」



 聞き返すと歩花が答えてくれた。



「実は、まだお風呂に入ってなかったんだ。ずっとお兄ちゃんを待っていたの。先に荷物を片付けていたからね」



 ……あ! そういえば、玄関前が片付いていた。完全にスルーしていたな。そうか、俺がコンビニに行っている間に整理してくれたんだ。


「なんだ、それなら俺も手伝ったのに」

「あたしの提案なんです」

「紺の? そんな無茶しなくても……」


「いえ、お世話になっていますし、これから更になりますし、少しでも力になりかったんです。回お兄さんの為に」



 なんと……俺の為に!

 紺、良い子じゃないか。


 そうかそうか、なんだか嬉しいな。


「ありがとう、歩花も紺も。じゃー、その……紺がよければ、一緒にお風呂に入るか。ちと狭いけど」


「は、はいっ……! そのぉ、お手柔らかにお願いします」



 モジモジと恥ずかしそうにする紺。俺も結構、心臓がドキドキしている。紺は、フリルビキニだった。お嬢様だから似合うなあ。でも、なんだか下着寄りのデザインで……その、エロすぎやしないか。色もピンクだし。


 これ、本当に水着なのかと疑いたくなるほど、なまめかしい。それに、モデルさんのようなスリム体型。くびれとか曲線美すぎて、もはやアート。男の劣情を煽ってきやがる。


 紺は、手も足も細くて白いな。


 それと胸……歩花には負けているけど、それでも大きい。美乳・巨乳を兼ね揃えている歩花とは違い、手にすっぽり収まるような可愛らしいサイズだった。……って、いかんいかん。つい見比べてしまった。


 ちょっと気になって歩花の顔を覗くと――勝ち誇ってるし!!


 ていうか、歩花が凄すぎるんだよな。


「紺ちゃん、お兄ちゃんを挟み撃ちにするよ」

「え、ええッ!?」


 歩花の提案に困惑する紺。

 おいおい、友達に何をさせる気だよ!?

 

 歩花の方は頬を赤くしながらも、俺の前面にべったりくっつく。やば、逃げられなくなるぞ。捕らえられる前に脱出するしか――そう思った時には遅かった。背中に紺が抱きついてきた。


「こ、紺! 無茶しすぎだ!」

「だ、だ、だって……回お兄さんを逃がすわけにはいきませんからっ」


 にしたって震えるほど顔が真っ赤じゃないか。……あぁ、なんてこった。女子高生二人に挟まれてしまったぞ、俺。







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