真夏のイチャラブ

 松本駅の三十分無料駐車場に滞在できる時間もあとわずか。あと十分もないだろう。少し休憩したら、いよいよ松本城へ向かわねば。


 いつまでも紺を待たせるわけにはいかない。俺は、もうすぐ出発すると歩花に伝えた。すると、ベンチシートに座る歩花は……


「うん、そうだね。こんな暑い中、ずっと待たせるのも悪いもんね」


 キャンピングカーは、冷房が使えるから耐えの凌げるけれど、紺はバイクで生身。涼める環境も限られている。熱中症とかなっていないか心配だ。


 一刻も早く合流しようと考えた俺は、運転席へ向かおうとする。だが、歩花がさえぎった。


「どうした?」

「……さっきのキス……嬉しかったから」


 ボソボソと何かをつぶやく歩花だが、あまりに声が小さくて聞こえなかった。



「歩花?」

「な……なんでもないしっ!」


 よく分からんんが、機嫌は戻ったみたいだ。



 * * *



 松本駅を出発し、松本城へ向かう。

 この道中にテレビでも度々紹介されるほどの評判の喫茶店『まるも』があるらしい。なんでも、レアチーズケーキが激ウマだとか。助手席に座る歩花が教えてくれた。へえ、気になるな。


 後で紺と合流したら行ってみよう。


 車を走らせ、とうとう松本城に到着。お城がハッキリと見えていた。広くて大きい――荘厳そうごんだな。


 近くに松本城の臨時駐車場があるようだ。そこなら、一回三百円・・・・・と時間を気にしなくていいようだ。そちらへ向かい、俺はキャンピングカーを走らせた。

 今日はそれほど観光客もいないようで、スムーズに進めた。駐車場へ入り、隅の止めやすいポイントを狙い、駐車した。



「……到着っと。歩花、ついにここまで来たな」

「うん、もうお城が見えているね」



 少し視線を流せば、そこには堂々とそびえ立つ城があった。広大な城郭。天の伸びる天守。戦国時代から続く歴史がそこには残っていた。


 すげぇ、迫力満点だ。近くで見たら、もっと凄いんだろうな。中も入れるみたいだし。


「まずは、紺に連絡してみるか」



 スマホを取り出し、紺へラインを繋げた。すると、直ぐに連絡がつく。スピーカーへ切り替え、歩花にも聞こえるようにした。



『もしもし? 回お兄さん、松本城に着いた?』

「ああ、今、松本城の臨時駐車場に停めている。紺は、どこにいるんだい?」

『松本城前にあるコンビニのイートインスペースで待ってるよ~。バイクも停まっているから、分かると思う』


「へえ、お城の前にコンビニがあるんだな」


『うん。ファミファミマートだよ。今、涼んでいる』

「分かった。臨時駐車場からは少し離れているようだし、観光しつつ向かうよ」

『じゃあ、松本城に向かうよ。回お兄さんたちも博物館前へ向かって』

「お、そっか。それじゃあ、歩いて向かう」

『了解~!』



 電話を切った。

 これでついに紺と合流か。


「歩花、紺ちゃんと会うぞ」

「……うん」

「どうした、元気ないな」


「だ、だって……二人きりじゃなくなっちゃうし、だから、あの、お兄ちゃん。その前に、もう一度……キスして欲しいな……って」


「え」



 ま、まさかキスのおねだり!?

 歩花から求めてくれるのは正直、嬉しすぎる。いったん、部屋へ行って落ち着くことにした。運転席から降り、後部座席の居住エリアへ。


 歩花も顔を赤くしたまま入ってくる。椅子に座り、俺を潤んだ瞳で見つめてきた。――って、よく見ると口に何かくわえているじゃないか。



「お兄ちゃん、いいよ」

「いいよって、歩花! その口に咥えているの、大人のお遊び用ゴムじゃないか!!」

「だ、だって……そのままは危ないよね」


「ば、馬鹿ァ!?」(←つい声が裏返った)



 キスだけかと思ったら、そっちも!? 無理無理、紺を待たせているし……そんな時間はない。



「だめ?」

「だめだ。キスだけって約束だろ。ほら、その咥えているヤツは没収だ」



 俺は、歩花の口から危険物級のゴムを奪い取り、ポケットへ閉まった。まったく、こんなものをどこで買ったんだか。ていうか、よくそんな知識があるなと……ちょっと歩花が心配になる。……ああ、でも以前に間違えて親父の“秘蔵タブレット”を再生しちゃって……大人の動画を見てしまったし、あの瞬間でも学べることは多かった、か。


「じゃあ、キスしてくれる?」

「あ、ああ……それくらいなら」


 椅子に座る歩花に覆いかぶさるように対面する。こう距離が近いと緊張する。今、心臓がバクバク激しくてやばい。


 歩花は、まぶたを閉じて俺のキスを待っていた。


 ええい、仕方ない甘えん坊妹め。


「……んっ」


 俺は、焦る気持ちを抑えながらも唇を重ね合わせた。歩花はようやく安心したようで、腕を俺の背中へ回してきた。


「歩花……」

「……ん、はぁ、はぁ」


 ちょっと激しくなったせいか、歩花は息を荒げた。



「悪い。歩花って柑橘系の味がして……そのクセになるっていうか」

「な、なんでだろうね? でも、嬉しいな。ねえ、お兄ちゃん……胸とかも触る?」


 歩花は、自身の手で胸を強調させ――俺の劣情を煽ってきた。俺はその形を変える歩花の胸にドキッとする。薄着なんだから、そんな風にしたら……!


 いかん、今にも獣に変身してしまいそうだ。抑えろ、俺。時間がないんだぞ。


「そ、それは……今は遠慮しておく」

「むぅ」


 ちょっと怒った歩花は、肩ひもをずらし、大胆に肌を露出してくる。やっべ、見えそうだぞ。



「分かった分かった。せめて“ぎゅっ”としてやるから……それで勘弁してくれ」

「……分かった」



 俺はせめて、歩花を抱擁ハグした。

 肩ひもがずれたままだけど、いいか。

 おかげで抱き心地抜群というか、歩花は全身が柔らかくて、ずっとこうしていたくなった。


 それにしても、冷房性能が良くて助かった。こんな密着していても汗ひとつ掻かずだった。エアコンの技術は偉大だね。



「その、なんだ。そろそろ行くか」

「う、うん。その……お兄ちゃんは先に外に出て貰える?」

「え? なんで?」


「い、いいから」


「は? 急にどうした。俺はここいるぞ」

「いいから、出ていって!」


 興奮気味に歩花は、俺を車内から追い出す。……え? なんだ? 何が起きた。……よく分からないけど、俺は外で待つしかなさそうだな。



***おねがい***

 続きが読みたいと思ったらでいいので『★×3』をしていただけると非常に助かります。

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