ノーブラと生着替え

 カーシェリングの制限時間が近づいてきたので、車へ戻った。


「お兄ちゃん、もう出発する?」

「そうだな、もう時間もない。戻らないと追加料金を取られてしまうからな」


 追加料金は十五分でプラス二百円上乗せされる。これは地味に痛いので、さっさと車を返却しないと、お財布に大ダメージだ。そうなる前に帰宅だ。


 歩花にシートベルトをして貰った。

 出発しようとエンジンを掛けようとして、歩花が声を掛けてきた。


「ねえねえ、お兄ちゃん」

「ん、どうした」

「ちょっとこっち向いて」


 そう言われて俺は歩花の顔を見る。


「ん、トイレでも行きたくなったか?」

「違うよ~。ほらほら、胸のところ見て」

「胸ぇ?」


 視線を落とすと、シートベルトが歩花の胸を“パイスラッシュ”していた。ブラウスがあんな山のように盛り上がって……特盛すぎる。


「お兄ちゃんって本当にえっちだねー」

「お、男の子だから仕方ないだろう」

「しかもね、今、ブラしていないんだ」


 よ~く見ると、乳首が浮いていた。

 マジじゃん……。

 ノーブラかよ。


「さっきまでしてたよな。薄っすら映っていたし」

「へぇ~、お兄ちゃんってば、そんな風に歩花の胸を観察していたんだぁ」

「ち、違うって。歩花の胸は大きいから視界に入っちゃうんだよ」


 悪戯っ子のように笑う歩花は、シールドベルトを外して後部座席へ回った。


「今、つけちゃうから振り向かないでね」


 ポーチの中に下着を閉まっていたらしく、歩花は背後でゴソゴソとやっていた。正直言えば、バックミラーで丸見えなのだが。


 俺はさりげなくミラーで歩花の生着替えを観察。


「……」

「――これをこうしてっと」


 ブラウスの隙間から谷間が見えそうだった。惜しいなぁとか思っていると、歩花が俺の視線に気づく。


「……っ!」

「あっ、お兄ちゃん!」


「す、すまん。不可抗力だ」

「歩花のおっぱいそんなに好き?」

「それだけ立派だと男には魅力的に映るんだよ」

「そうなんだ。道理でクラスの男子がジロジロ見てくると思った」

「やっぱり、視線を感じるものなのか」


 そう聞くと、歩花は軽い溜息を吐いた。


「まあね。大きいと色々大変だよ~。男子から見られるし、自分自身、肩が凝って大変だもん。でも、お兄ちゃんには見られても触られてもいいけどね」


 触られても……!?

 そこまで許してくれるのか。

 さすがに冗談だよな。


 緊張で焦っていると、歩花はようやく下着をつけ終えた。助手席に戻ってもらって、俺はエンジンスタート。帰路にいた。



 ◇◇◇ ◇◇◇



 カーシェアリング専用駐車場に『X-VAN』を返却。料金は、クレジットカードで自動引き落とし。二時間パックの料金が適用され、更に学生割引も適用されて合計千五百円の支払いとなった。



「学生の身としては良心的な値段で助かる」

「カラオケも二時間行けばそれくらい掛かるし、安いよね~」



 ただドライブするだけなら、これはアリだな。しかも、他にも車種があるし、普段は乗れないような車を借りるのもありかも。


 それに、車を所持するよりも安上がりだ。本来ならガソリンを入れたり、任意保険や自動車税などを支払ったり――なんなら車検だってある。諸々もろもろの経費を考え、普段はそれほど乗らない人間なら、カーシェアリングは圧倒的に安いと言えよう。



「また行こうな、歩花」

「うん、すっごく楽しかった!」


「お金があったらマイカーが欲しいところだが、残念ながら車は中古でも二十万、三十万するからな。しばらくはカーシェアリングで我慢だ」


「マイカーかぁ。やっぱり、今日乗った『X-VAN』が欲しいの?」

「そうだなぁ、頑張って働いて買えるとしたら『X-VAN』だろうし、キャンピングカーには手が届きそうにないな」


「両方買えたら贅沢かな」


 贅沢すぎるっていうか、維持がまずムリだ。物流倉庫のバイトももう辞めてしまったし。ていうか、求人誌に書かれていた“軽作業で簡単です”のうたい文句は嘘だと身に染みて理解した。

 なにが軽作業だ。重労働も重労働だった。もうしばらくは仕事をしたくない。アットホームとか書かれている求人が地雷であるように、あの文字も信じちゃダメだな。



「まあ、いつかは二台持ちしてみたいな」

「分かった。わたしもお兄ちゃんを手伝う。一緒にがんばろうね」



 歩花は楽しそうに俺の腕にからんできた。兄妹なら、これくらいは普通の距離感だろうけれど俺はドキドキしていた。


 今日の歩花は優しい。

 しかも積極的だった。


 ちょっと前までツンツンしていたし、あまり俺に関わろうとしなかったけど『免許』が運命を変えた。本当に取って良かった。

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