そば屋さんと新たな目的地へ
車を走らせ『そば処・上條』へ向かう。
目的地をナビにセットしたし、あとは案内に従っていくだけ。
「回お兄さん、こっちはオッケーですよ~」
紺の方も準備が整ったようだ。
大王わさび農場を出発。
南西に進み、県道309号から308号へ。
穂高東中学校南の交差点を右折すると見えてきた。
もう近いな。
レンガのような駐車場へ車を停めた。なんだかオシャレだな。
「ここかぁ。へえ、結構広いな」
「車も停まってないね」
「まあ時間も時間だからかな。行って見よう」
「うん」
車を降り、紺の方へ向かう。
その顔に疲労感は全くなく、いつものように元気。相変わらず、パワーに満ち溢れているというか、みなぎっているなあ。
暑さをまったく感じさせない爽やかな笑顔で紺は蕎麦屋さんを見上げた。
「ここですか! そば処・上條」
「そうらしい。クチコミも四百件以上あるし、非常に高評価だ。投稿されている写真はどれも美味そうな料理ばかり……う~ん、見ているだけでお腹が減る」
「おぉ、楽しみですねっ!」
さっそく店へ向かっていく。
少し歩くとお屋敷のような家があった。デカイな。
「ねえねえ、お兄ちゃん。なんか雰囲気あるよ~外国みたい」
「ああ、一見お店には見えないな。貴族でもいそうだよ」
店内に入ると、中は割と普通の蕎麦屋さんって雰囲気だった。外観は洋風だったけど、内装は和風テイストなんだな。変わってる。
しかも、驚くべきことに閉店三十分前だったようで、滑り込みセーフだった。この蕎麦屋さん
空いているテーブル席へ座り、メニューを手に取る。
「おしぼりそば、桜南蛮、鬼おろし、もりそば、
「おすすめは“天恵そば”みたいだよ、お兄ちゃん」
へえ、歩花のスマホで写真を見せてもらったが、これは気になる。具がたくさん盛られていて一目見ただけで美味そうだ。
「じゃあ、それにするか。紺もそれでいいか?」
「はい、全員同じのでいいと思います!」
決まりだ。
俺は三人分を注文した。
――少し待つと“天恵そば”が出てきた。
「おぉ、これが」
ど真ん中に温泉卵。
その周囲にねぎ、小エビ、
こんな美味そうな蕎麦は人生で初めてみた。
箸を手に取り、さっそく蕎麦をいただく。
「んん~、おいしいっ」
歩花が幸せそうに蕎麦を
今日一番の笑顔だな。
しかも明らかに食欲旺盛だった。
珍しい。
「これはいろんな味が楽しめていいですね! 鴨のくんせいとか初めて食べました。ジューシーです」
紺も良い食べっぷり。
けど、これは本当に美味しいな。具沢山でお得感もあるし、これで千二百円は安い。長野のこんな奥地で食べられる蕎麦――最高に幸せだ。
* * *
満腹となり、そば処・上條を後にした。
直後、
駐車場まで向かい、今後の
「美味い飯を食えて大満足だな」
「うん、このお店はまた行きたい。店主さんも良い人だったし」
歩花はすっかり気に入っていた。
俺もまた食べに来たいと思えた。
絶対に来よう。
「歩花ちゃんが完食するの珍しいですよ」
紺の言う通り。普段の歩花は大量に食べれない。けど、あの蕎麦は違った。全て平らげていた。これはちょっとした事件だ。
「そ、そんなことないよぅ」
ちょっと――いや、かなり恥ずかしそうに歩花は視線をそらす。俺と紺はそんな歩花の微笑ましい光景に笑う。
「歩花は可愛いな」
「ええ、歩花ちゃんは可愛いです」
「ちょ……うぅ。二人ともそんな可愛い可愛い言わないで照れちゃうからっ!」
そんな照れる表情、ひとつひとつの乙女な仕草が愛おしくも尊い。
……おっと、つい
天使すぎる歩花を眺めるのはこれくらいにして、次の目的地だ。
「ここから先は未定だけど選択肢はたくさんある。個人的には『黒部ダム』とか気になる。長野ではなくなるけどね。――歩花と紺は?」
先に紺が答えた。
「あたしは『安曇野スイス村』が気になりますね」
スマホで調べると“道の駅的”な場所らしい。
ちょっと気になるな。
お土産とかも買いたいし。
一方の歩花は『国営アルプスあづみの公園』へ行きたいらしい。花とかイルミネーションが凄いとかなんとか。
どっちものんびりできそうだ。
しかも、どちらも十分の距離。
「じゃあ、両方行くか!」
「うん! そうしよっか」
「歩花ちゃんに賛成ですー!」
まだまだ時間はある。
まずは『安曇野スイス村』へ行ってみよう。
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