頬にキスと病む病む(松本城観光)

 ネックファンとの衝突しょうとつを避けようと、俺は歩花を押し倒す体勢となった。勢い誤って地面へ倒れていく――って、無理だ、この雑技団みたいな姿勢!


 前へ倒れ込む形となり、俺は歩花に衝突。そのまま倒れ込んだ。


「――うわぁっ」


 ドンッと鈍い音が響く。

 背後で「キャッチ!」という紺の声が聞こえた。って、ネックファンをキャッチしたのかよ。なんだ、それなら歩花を押し倒す必要はなかったじゃないか。


 いやそれより、俺は薄暗い空間の中に顔を埋めていた。


 ……えっと、これは?


「あぅ……! お、お兄ちゃん。どこに顔突っ込んでるの!」

「え? ん? んぉ!?」


 起き上がると、俺はどうやら歩花のまたの中にいたようだった。不可抗力とはいえ、なんて場所に。しかも、歩花のスカートがひるがえってしまってパンツがモロ見えのようだった。


 俺、歩花のあの場所・・・・に顔を――マジかよ。



「回お兄さん、歩花ちゃんの凄いところに顔が!!」



 引っ張って俺を起き上がらせてくれる紺。た、助かった。このままだと俺が歩花を襲ったみたいになってるし。周囲の観光客から、痴漢ちかんの現行犯で取り押さえられてしまうところだった。幸い、今は人気もなくて注目もそれほど浴びてなかった。……ふぅ。


 起き上がって、俺は歩花の無事を確認する。



「大丈夫? ケガはない?」

「う、うん。もぉ……着替えたばかりなのに」

「え?」


「ううん! なんでもないっ! それ以上聞いたら刺すからっ」



 なぜか顔を真っ赤にする歩花。いや、それもそうか。あんな大胆な格好になってしまったのだから。

 俺は謝りつつ、歩花を立ち上がらせた。その隣で見ていた紺が歩花に話しかける。



「ところでさ」

「ん、なぁに? 紺ちゃん」

「歩花ちゃん……下着が大人すぎ。いつもそんなのつけてるの!?」

「えっ……だってだって。勝負下着の方が……いいよね」


 って、なんで俺を見て言うの!?

 うわぁ、なんかこっちまで恥ずかしくなってきた。てか、恥ずかしい!! 歩花のヤツ、常に勝負下着なのかよ。

 よく見てないから分からないけど、派手っぽいことは理解できた。いったい、どんな柄なんだかな。


 そんな歩花は、恥ずかしがって俺と視線を合わせなくなった。スカートを押さえて泣きそうになってる。それはそれで可愛いというか、背徳感とか罪悪感が……。こりゃ、あとでおびに美味しいものでも買ってやろう。



「とにかく、先を急ごう。お城の中は結構広いようだし」

「ごめんね、お兄ちゃん」

「歩花が謝る必要はないよ。俺の方こそ悪かったな」


 改めて謝罪すると――


「そ、その、あたしもごめんなさい。ネックファンが外れるとは思わなかったから」


 紺も頭をブンブン振って謝ったけど、うぉい! また外れて吹っ飛ぶだろうがっ。俺は、紺を止めた。もう歩花の股に突っ込むわけにはいかない。これ以上は、確実に嫌われるって。



 * * *



 入場料を支払い、松本城へ入った。

 近くで見ると精巧せいこうな外壁に驚く。

 職人技だな。


 城内は、土足厳禁。

 靴を脱いで歩いて回るらしい。

 中はそこそこ薄暗いが、落ち着きがある。歴史の深みを感じさせる木造の作り。古びたはりや床が良い味を出していた。


 これが何百年も現存しているとは――凄いことだ。いくつもの木窓、階段が無数に点在していた。特に階段は、急勾配きゅうこうばいとなっていた。どうやら、敵の侵入をはばむ為の構造らしい。


 火縄銃などの展示物を眺めながら、先へ進む。


 階段を上って、最上階の天守閣へ。

 そこには松本市を見渡せる風景があった。



「おぉ、見晴らしが良いな」

「最高だねっ。写真撮ってこっと」



 歩花は、スマホを取り出してパシャパシャ撮影。紺も同じように風景を撮影。俺は、そんな無邪気な二人を写真に収めた。


 こりゃ、しばらくは止まりそうにないな。特に歩花は楽しんで写真撮影していた。多分、SNSとかにも投稿アップする気だろう。


 すっかり機嫌もよくなってくれて、俺はホッとした。ここ数時間、ちょっとおかしかったからな。


 胸をでおろしていると、紺がひじで小突いてきた。



「どうした? 紺」

「このあと、喫茶店『まるも』へ行きません? ケーキとか珈琲コーヒーとか美味しいんです!」

「いいね、みんなで行こうか」

「はいっ! やっぱり現地の美味しいお店は行っておかなきゃですね」


 そうだな、せっかく長野まで来たんだ。美味しいものは味わっておきたい。


「紺、長野のグルメって何があるんだ?」

「ええ、調べておきました。信州といえば、お蕎麦そばとか五平餅ごへいもち。駒ヶ根のソースかつ丼とかも有名ですよ~」


 ほぉ、お蕎麦そばはよく聞くな。

 五平餅とは――なんだ?


 スマホで調べると、串に刺さった味噌漬けの大きな餅が出てきた。これは、写真で見ても美味そうだ。


「五平餅は食べたいな。絶対美味いヤツじゃん」

「あたしも食べた事ないので楽しみですっ」


 よ~し、俺は決めた。

 蕎麦に五平餅、かつ丼を食うまでは長野に滞在しよう。それに元同級生の『安曇野あづみの もも』とも会わなきゃだし。


「ぼちぼち行くか」

「はい。その前に、回おにいさん……今、ちょっといいです?」


「ん? どうした?」


「あのですね、今、歩花ちゃんは写真撮影に夢中になっています。だから、今がチャンスかなって」


 思い切り飛びついてくる紺は、俺の頬にキスをした。――なッ! なんですとぉ!? 


 あまりに突然すぎて俺は固まった。

 まさか紺がいきなりキスしてくるとは。



「…………えっと」

「ごめんなさい、回お兄さん。これ、あたしの気持ちっていうか、お礼です。ほら、きちんと合流してくれたし……今、とても楽しいから」



 そんなモジモジとされると、俺も照れる。やばい、幸せ……ここまで頑張って運転してきて良かったぁ。でも、俺以上に紺はバイクで来ているからな。俺の方こそ尊敬する。それを伝えると、紺は両手で顔をおおい、耳まで真っ赤にして震えていた。


 照れているようだ。

 うわ、可愛い。


 このまま抱きしめてお持ち帰りしたいほどに。なんて思っていると、歩花の視線を感じた。しかも、ラインが大量に入っていた。


『お兄ちゃん、お兄ちゃん、お兄ちゃん、お兄ちゃん、お兄ちゃん、お兄ちゃん、お兄ちゃん、お兄ちゃん、お兄ちゃん、お兄ちゃん。やだ、やだ、やだ、やだ、やだ、やだ、やだ、やだ、やだ、やだ、やだ、やだ、やだ、やだ、やだ、やだ。

 お兄ちゃんを取られたくない、取られるくらいだったら……殺していい? うん、そうしよう。大丈夫、歩花も一緒に逝ってあげるからね』


 うああああああああ……!!



***おねがい***

 続きが読みたいと思ったらでいいので『★×3』をしていただけると非常に助かります。

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