迫りくる凶器!? バラバラ殺人の危機?

 胸の辺りが冷たい。

 俺はとうとう刺されてしまったのか……。


「……なんて冗談だよ。これ缶ジュースだよ」


 よく見ればキンキンに冷えたコーラだった。びっくりしたぁ、俺は一瞬、本当に包丁か何かかと思ったぞ。


「歩花、冗談はよせ。心臓に悪いって」

「ごめんね。……でもさっき、お姉さんと楽しそうだったよね」

「え……」

「まさかライン交換とかしてないよね」


「……ッッ!」(←ビクビクしている俺)


「お兄ちゃん、なんで手足が震えてるのかなぁ」


 恐ろしい表情で脅してくる歩花。顔怖すぎだろ……! 下手に何か言えばバラバラ殺人事件に発展しそうだ。

 なんとか誤魔化さねば。


「ふ、震えてなんていないぞ。それより、紺が困っているだろ。なあ、紺」

「えっ! いえ、そのぉ……歩花ちゃんって怒ると怖いんですね。怒るところを初めてみましたよ」


 紺もビビっているぞ。

 こりゃいかん!


「よし、せっかく安曇野スイス村に来たんだぞ。なんか買っていくか! 歩花、ほら……ちょっと暑苦しいかもだが、手を握ってやるから」


 紺の目の前でアレだが、手段を選んでいる場合ではない。仕方ない。


「……えへへ。お兄ちゃんに手を握られちゃった」


 歩花はあっさり元に戻った。

 なるほど、手を握ればいいらしい。


「歩花、もう怒ってない?」

「え、なんのこと?」


 オーケー。これで俺の死は回避された!



 安曇野スイス村にある売店へ向かう。

 中にはお土産がズラリ。

 種類がありすぎて、どれにしようか悩むな。


 バウムクーヘン、リンゴパイ、一升瓶の安曇野りんごジュース、おやき、漬物、わさび、蕎麦、味噌、地酒、野菜なども売っていた。


 それぞれお土産を購入。

 俺は『一升瓶の安曇野りんごジュース』にした。


 歩花は『リンゴパイ』か。美味そう。

 紺は『おやき』にしていた。

 あれも気になるな、俺も買っておくか。


 そうして、安曇野スイス村のお土産屋や周辺エリアを軽く散策して――満喫完了。



「楽しかったね、紺ちゃん」

「うん、乗馬体験はしなかったけど馬はカッコ良かったなぁ……乗りたかった」


 どうやら紺は、乗馬をしてみたかったらしい。


「あれ、紺はお嬢様だからそういう経験ありそうだけど」

「いやぁ、さすがに馬には乗ったことがありません。父が危ないってうるさいので」


 なるほどな。

 落馬って思った以上に危険らしいからな。


「そうか、そりゃ仕方ないな」

「はい、また機会があったら乗馬してみたいです」


「分かった。またいつか来よう。――さて、そろそろいい時間だな。日が沈む前に『道の駅 アルプス安曇野ほりがねの里』へ向かうぞ。紺はどうする?」


「あたしは『かじかの里公園』のキャンプ場へ向かいます! なんと500円で一泊できるんですよ~」


「へえ、安いな」

「と言っても、清掃協力費200円が取られるので実質は700円ですけどね」


 それでもコスパは良いな。

 しかし、紺には悪いけど車中泊なら宿泊費が無料タダなのだ。


 こればかりは車とバイクの格差社会なのである。


「紺、ここでお別れか」

「さすがに道の駅にテントを張るわけにはいきませんから」

「でも、女子のソロキャンは危なくね?」


「大丈夫です。その為に執事のアルフレッドを――はっ!」



 しまったと口を両手で塞ぐ紺。

 ああ、それでアルフレッドさんが護衛についているのか。ようやく彼の役割が理解できた気がする。けど、それが秘密兵器なのか?



「なんとなく理解した。じゃあ、また連絡するよ」

「はい、また明日に合流しましょう。歩花ちゃんも、またね!」


 紺は、歩花の手を握る。


「今日は楽しかったよ、紺ちゃん。危険を感じたら直ぐに逃げてね」

「大丈夫。アルフレッドもいるから」

「うん。気をつけてね」


 なんか歩花も紺もお互いを心配し合っていた。ライバル視していても、なんだかんだ二人とも仲が良いんだな。



 * * *



 紺はバイクに乗って先に去った。

 今日までずっと一緒だっただけに寂しいな。


「俺たちは、道の駅へ向かうぞ――と、その前に『安曇野しゃくなげの湯』へ行って汗を流すか」

「良かったぁ、このまま寝たくはなかったから」

「うん、俺も風呂は入りたいからな。さあ、行こうか」

「うんうん!」


 キャンピングカーを走らせ、温泉へ向かった。

 県道310号から309号へ。

 県道25号に入り、そのまま直進。

 すると綺麗な建物が見えてきた。

 15分程度で到着。


「到着――っと。へえ、なんだか全体的にピカピカだな」

「新築みたいな雰囲気があるね」


 和風の建物だけど、明らかに最近完成したような外観だった。調べてみると、2016年にオープンした温泉だということが判明。


 結構最近に出来たばかりの温泉だったんだ。


 駐車場には、さすがにそこそこ車が停まっていた。


「これくらいなら、少しはゆっくりできるだろ」

「楽しみ~! けど、お兄ちゃんと離れ離れだよね?」


 なんでそんな当たり前のことを聞いてくるんだ!?


「と、当然だろ。分かってくれよ、歩花」

「むぅ……分かった。お兄ちゃんに迷惑掛けたくないし。その代わり、ハグしてくれる?」


「了解した」


 キャンピングカーを駐車場に停めた。

 車から降り、俺は歩花の元へ……って、人が多くてハグなんて出来るかっ! 恥ずかしすぎるわ!


「どうしたの、お兄ちゃん」

「すまん、さすがに人の目がある。ほら、家族連れとかいるんだぞ」

「うぅ、お風呂から上がったらにしようね」


 さすがの歩花も家族連れを前にハグする度胸はなかったみたいだ。


 後部座席から温泉セットを取り出す。

 それを歩花にも渡した。


「ほれ、タオルとか」

「ありがと。あと着替えだけど――お兄ちゃん、歩花の下着どれがいい?」


 そう言って歩花は堂々と下着を見せつけてくる。


 って、だめだろうがッ!!


 俺は静かに自分の手で両目を塞いだ。


 女子高生の生下着とか見れるかー!!


 てか、兄に選ばせるなー!!

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